第9話 ペペロのはなし
「ウワッ」
たたきにカルボがふたりいます。一瞬びっくりしましたが、左のカルボはより色が薄く、ほぼ白に近いレトリーバーです。
「あ、ペペロか」話しかけると、ペペロがこちらを振り返ります。カルボはどうやら、ぴすぴす言っていますので、お昼寝をしています。
『どーも。相変わらず無職?』
口の端をちょっと持ち上げて、ペペロは流暢に喋ります。彼はどうやらいぬではないみたいです。
「おかげさまで」わたしはお手洗いに行きたいので、話をちょっと雑にします。しのざき家にはお手洗いが二階、一階にひとつずつあります。二階のお手洗いはふさがっていたので、一階へ向かっています。
『そっちのトイレも使用中だよ』ペペロがあごでお手洗いをさします。
「マジか」『二階のほうが早く空くよ』ペペロが言うと、ちょうど水を流す音がしました。
「ありがと」わたしは二階へ戻ります。
『どういたしまして。』ペペロが招き猫のように、右前足をくいくいしました。
二階へもどると、いもうとがお手洗いから出てきます。一階へ降りたわたしが、すぐさま二階へと戻ってきたので妙な顔をしています。
「どしたん?」いもうとが言います。
「ペペロがいる」わたしは肩越しに玄関先を指さします。
「エッ久しぶりじゃん。挨拶してこよ」
お手洗いのとなりにある洗面所で手を洗うと、いもうとは階下へ降りていきました。
『ぼくはね、いぬのかみさまだよね』
カルボが来てから一週間後、たたきに発生した第二のいぬはそう言いました。
カルボの散歩に行こうとして玄関へ向かうと、なぜかもう一頭いぬがいました。ぼく、と言うのでたぶん彼は、フツーに喋りました。
『きみんち、これから生きものたくさん増えるから。だから見てこいって。言われたからね、たまに来るね。よろしく』
白いレトリーバーは、右手をくいくい動かします。
カルボとわたしは顔を見合わせて、なんか言って、いやきみがなんか言いなさいよ、と無言の戦いを繰り広げます。結局彼はヒトの言葉を喋るので、ヒトのわたしが話しかけます。
「いぬの、かみさま?お名前は」
『あるけど、なんでもいーよ。』
「えっ」
『その子カルボでしょ。カルボナーラ。じゃあぼくはペペロだ。ペペロンチーノ』
「エェ…」
『よろしくね』ペペロは完璧なウィンクを、わたしたちに投げて寄越しました。
お手洗いと手洗いを済ませ、なんとなくまた階下へと戻ると、たたきにしゃがんだいもうとがペペロを拝んでいます。
「いぬのかみさま、お慈悲を」手のひらを組み、祈りを捧げています。
『そうだな。やっぱり。いぬを描けばいいよ』瞳を閉じたペペロが、うんうん、と頷きます。
「モデルにしていい?」
『いいよ』
「わーい」いもうとが、ペペロの顔をわしゃわしゃします。
お、恐れ多いな、とおののいていると、一階のお手洗いから水が流れる音がしました。
「アラ、ペペロじゃない」カルロスです。お手洗い、本当にどっちもふさがっていました。
「カルロス。久しぶりだね」ペペロがにやりと笑います。
「カルロス。お店の冷蔵庫、上から二段目右のお肉。美味しかったよ」
「エッいつのまにー」カルロスが口に手を当てます。
「パックにペペロって、書いてあったからさ。いつもごちそうさま」
「アラいいのよ。ゆっくりしていってね」
カルロスはペペロに手を振り、階段をのぼってゆきました。
「なんの肉?」興味津々に、いもうとが聞きます。
「アザラシ」ペペロが喉をくつくつと鳴らしました。
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