第二章 徒花の夢④
頭が痛い。
気がつけば、頭の上には、いつもくもり空が広がっていた。風が吹かないから晴れることもなくて、いっそのこと雨が降れば良いのにと思っても、水滴ひとつ垂れてきやしない。
目が覚めた瞬間から寝るまで、ずっと鈍痛。頭の中に重りがあって、楽しいことがあっても100パーセント、クリアな気持ちで楽しめない。今ではさすがに慣れたけど、昔はよく泣いていた。わたしだけが罰を受けている気がした。誰かに説明しようとしても、呆れたような顔で見下ろされると申し訳ない気分になって、ますます口下手になっていった。そして、いつしか諦めた。この低気圧の世界を受け入れた。
ある日、沖縄の児童養育施設で教官からアフターライフについて教わった。
人は死後、心残り・未練等があった場合、幽霊となって現界する。一般的に、幽霊はモヤモヤとしたエネルギーの塊のような存在で、主に死没地に浮遊している。
しかし、想いの強弱や方向性によって特殊な性質を持った幽霊が現界する場合もある。
――『
特に悪霊は、人間を見るとたちまち襲いかかる危険な存在で、傷口から侵入、憑依すると一時間も掛からずに身体を完全に乗っ取ってしまうらしい。
「悪霊にだけはなるな」
「夢を叶えろ。充実した人生を。汚い未練を遺してはいけない」
そう言う教官を尻目に、わたしは「それは無理な話だ」と思った。
こんな頭痛を抱えているんだ。わたしは絶対死んだら悪霊になる。充実した人生なんて送れるわけない。
……まあ、でも。
悪霊がどういうものかは知らないが、好き勝手に本能のまま暴れられるのなら、楽しそうで良いんじゃないか。
わたしはその日、特に深くは考えなかった。
それから、日に日に空のくもりは濃く、頭痛は強くなっていった。時は過ぎて、沖縄を旅立つ頃、わたしはすっかり誰とも話さなくなった。
生態スキャナーの識別結果もどうでもよかった。
わたしは何の感慨もなく、九州の地に降りたって―――そしてすぐに、彼と、あの屋上で悪霊に出くわした。
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