第4話 悪魔たちの衝突
ぐるる、と、頬が剥かれた歯を剥き出しにしながら、唾液を垂れ流すエンヴィに、誰もが恐怖を覚える。
「きゃあッ!!」
悲鳴を上げる
月ノ宮カレンの、唐突な死に怯えて、床に膝を突く。
「…貴方、自分が何をしたのか、分かっているの?」
月ノ宮カレンの傍に居た
「わか、分かってるよ、夜辺くんを、生き返らすには、他の悪魔を殺さないといけないんでしょ?だか、だから、殺したの」
「話を聞いていたの?月ノ宮を殺さなくても、悪魔の魂を食らわせばそれで良かったのよ?」
金鹿皆子は冷静さを維持しようと手を組んで震えを抑えている。
目の前に立つ彼の真意がまるで読めない最中、唐突に口を開いたのは
「ああ、そっか。生きてたら意味ないんだ」
月ノ宮カレンを殺した土岐奏人の深層心理を理解して、日輪旭はその心中を語る。
「折角
机に座る日輪旭は、足を崩して床に立つ。
少女たちが立つ教室に、同じ目線となって起立する。
「うん。僕もその考えに賛成だよ、折角生き返っても、逞はまた殺されてしまうかも知れないからね」
土岐奏人の考えに、日輪旭は賛同し、木蓮桔梗は扇子で自らの口元を隠して目を細める。
「逞様が…殺された?」
疑わしい表情を浮かべて、日輪旭を見る。
「殺されたんだよ。恐らくは、僕以外の誰かがね」
日輪旭は周囲を見渡す。
残る五人も、互いに顔を見回す。
「(殺され、た…、逞さんが…わた、私の、大切な人が、この中の、誰かに…ッ)」
水鏡寺潤雨は目尻に涙を浮かべながら、他の五人を見る。
「(そう…そう言う事ですか…絶対強者である悪魔祓いの逞さまが殺された。敵意ある相手ならば防護陣を敷く…それをしなかったのは、見知った人間だから)」
夜辺逞の警戒心が薄い人間が居るとすれば、彼と知り合いの人物に他ならない。
此処に居る女性たちは、皆、夜辺逞に救われて恩義を感じている。
それも夜辺逞も理解しているからこそ、防護陣を敷く事無く、結果的に殺されてしまった。
「じゃあ誰が殺した…って聞いて、はい、私です、なんて言うわけないしね」
「他の人は、邪魔、だか、だから…夜辺くんと、僕以外は、必要ない…エンヴィ、エンヴィィッ!!」
彼の言葉に呼応し、灰色の悪魔が土岐奏人の傍に寄ると、その手に握り締める一振りの大剣が燃える。紫色の炎に包まれると、煤色の大剣はドロドロに溶けて、大槌へと変わる。
「(偽造悪魔と契約して、その能力が分かる…エンヴィは鍛冶師の悪魔、子孫末裔まで蛇に呪われた肉体…その力は、武器を錬成させる金属と、形成させる炎を操る)」
大槌へと変わる、エンヴィの武器。
それを大きく振り上げると、他の女性たちは警戒し、自らが契約した偽造悪魔を呼び出す。
「僕と、夜辺くんの為に…全員、燃え死んで…ッ!」
教室を震撼させるエンヴィの大槌。
振り落した大槌の威力が、紫色の炎へと変換され、教室の中を包み込む。
ゴートは黒い霧を発生させて、紫色の炎を遮断する空間を作り上げる。
他の女性たちは、偽造悪魔を使い、教室の壁を破壊して外へと至る。
燃え盛る炎は木造建築の旧校舎を業火の渦へと巻き込み、崩壊へと導いた。
炎に巻き込まれる事無く、他の女性たちはグラウンドへと立つ。
金鹿皆子、及び契約した軍服姿のプライド。
火神萌、及び契約した甲冑姿のラース。
そして、旧校舎を破壊した、土岐奏人、及び契約した鍛冶師のエンヴィだ。
「ほ、他の人たちは…逃げた、みたいだね」
乾いた空気を吸い込みながら、土岐奏人は、エンヴィの腕に抱かれながらグラウンドへと立つ。
「…本気でやるつもりなの?」
金鹿皆子は、泣いているのか笑っているのか、表情の読めない土岐奏人に対してそう言った。
「だ、だって…そうしないと、夜辺くんは、僕を、見てくれないから…僕は、女じゃない…男だ…今は化粧をして、女性モノの衣装を着て、女として振舞っているけど…それでもね、あなたたちみたいに、ずっと女性ではいられない、体は何れ、男性になっていく…僕には、今しかないんだよ…その今を、他の女に奪われたくない、あなたたちにはこれからがある、けど、僕には今しかない、まだ女性として見られるこの今しかないんだよぉッ!だから邪魔しないでよぉおお!!」
自分にはないものを羨み、嫉妬する、エンヴィが炎を大槌から撒き散らし、地面を叩き付ける。
炎がグラウンドに亀裂を走らせて、紫色の炎が噴き溢れる。
彼女たちに向かう嫉妬の炎、地中に存在する鉄分を吸収し、嫉妬の炎によって錬金、地面から幾多の刃が二人を襲おうとする。
「ラース」
「プライド」
金鹿皆子、火神萌は自らの偽造悪魔の名前を呼ぶ。
その声に二つの偽造悪魔は頷いた。
金鹿皆子の
遠距離攻撃を可能とさせる機関砲をエンヴィ、及び彼の守護範囲に存在する土岐奏人に向けて発砲する。
エンヴィは、自らに迫る危機に対して、大槌を盾にして弾丸を弾く。
火神萌の
地面から赤い脈動をする荊の棘の如き杭を伸ばすと、天高く伸びて嫉妬の刃から逃れる。
上空から、ラースは自らの掌から棘を生み出すと、憤怒の杭としてエンヴィに向けて下とす。
上空から落とされる嫉妬の杭、それは傲慢の機関砲の発砲と重なっており、大槌を盾にして弾丸を弾いたと共に、上空から落とされる憤怒の杭によって貫かれる。
その攻撃によって、エンヴィの腕は吹き飛んだ。
「あ、あああああああッ!よる、夜辺くん、ぼ、僕の夜辺、くんがあああッ!!」
エンヴィの腕が吹き飛んだ瞬間を傍で見ていた土岐奏人は狂気を孕ませた絶叫を響かせる。
涙を流して、エンヴィに縋りよる。彼の体は、炎を操るにしては冷たく、屍のようだった。
「腕、腕が…夜辺くん…夜辺くんッ!!」
泣き叫ぶ土岐奏人、それに反してエンヴィは冷静だ。いや、無反応に等しい。
大槌を振るう。嫉妬の炎がエンヴィの消えた腕の断片を包み込むと、金属で出来た腕を錬成…義腕を作り上げる。
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