第3話 七つの大罪を冠する偽造悪魔
黒いドレスに身を包んだ、金色の髪を靡かせる女性だ。
空中に浮かぶ彼女は次第に重力の法則に従っていき、床に足を付ける。
「夜辺くん、は?」
開口一番に喋り出したのは月ノ宮カレンだった。
彼女の言葉に反応する様に、赤い瞳を持つドレスの女性が目を向ける。
「儀式により参上致しました、ゴートと申します。この度は儀式に参加いただき、誠にありがとう御座います、つきましては、今回の儀式の内容を参加者の皆様にご説明します」
自らをゴートと名乗る女性は淡々とした口調で、進行していくが、それに対して月ノ宮カレンは声を荒げる。
「儀式…?まだ、何をしろと言うの?血の代価は払ったでしょ!?」
「それに関しては、儀式の始まりを行う為に、それと参加費として、血を頂きました、儀式はファンファーレすらなっていませんよ?」
ゴートはそう言うと、軽く手を叩く。
蚊を潰す様に力強く叩いたのではない。
本当に、軽くだ。しかし、パンッと、静寂の最中に鳴るクラッカーの様に、張り詰めた空気を破る様な音が響くと。
魔法陣の一番外側の線、円陣の部分から何かが浮かびだした。
それは、青色や黒色、白に黄色、紫に赤色、緑に灰色、様々な色を帯びた水晶の様な宝石だった。
「こちらは、夜辺逞さまの魂となります」
夜辺逞の魂。
そう言われて、彼女たちは目の色を変えた。
今、彼女たちの眼前には、夜辺逞の魂が其処にあるのだ。
思わず、手を伸ばしてしまう、実際に触ってみて自らの元へと引き寄せようとする。
だが…それは適わない。彼女たちの手は、宝石に拒否されているのか、触れようとした瞬間に透き通り、通過してしまう。
「なんで、触れないんですか…ッ」
水鏡寺潤雨が涙目になりながら手を伸ばす。
掴もうとしても、通り抜けてしまう。まるで幻を相手にしているのかと錯覚してしまう。
「夜辺逞さまの魂は、分割されたままです。先ずは魂の構築をする為の工程となります」
ゴートが再び指を鳴らす。
夜辺逞の魂は、魔法陣から飛び出て来た黒い影に包まれて、形状を変化させていく。
四足歩行の蝋人形が完成すると、彼女たちはその姿を見て恐れた。
騎士の姿があれば、獣の姿、海賊の様な姿もあれば、兵隊の様な姿もある。
そして、それらの姿には、眼球と言うものはなく、帽子や包帯によって覆われていた。
「夜辺逞さまの魂を再構築させる為に、まずは私が用意した肉体…偽造悪魔を使役します、夜辺逞さまを復活させる為には、偽造悪魔を殺害して、魂を奪うのです」
「…なんで、そんなまどろっこしいやり方をするの?」
日輪旭が不思議そうな表情をして、この儀式の用途を伺う。
「魂は通常ならば触れる事は出来ません、故に肉体に定着させる事で魂に輪郭を作ります。そして、分割された魂を元に戻す場合は、悪魔の肉体を融解させ、肉体に宿る魂も融合させるよりも、魂を奪う行為…すなわち、殺害をする事で魂を構築させるのです」
この七体の偽造悪魔を殺し合わせる事で、最終的に最後に残った偽造悪魔が、夜辺逞の魂として完成すると、ゴートは言う。
そして、その七体の偽造悪魔は、この教室内に居る七人の夜辺逞関係者が従わせなければならないらしい。
「まずは契約の証をみなさまに与えます」
指を鳴らす。
すると、彼女たちは一斉に目を抑えて悶えだした。
眼球とそれに繋がる脳の神経が放熱し出す、激痛として声を漏らす彼女たちの眼球には、教室に敷かれた魔法陣と同系統のものが刻まれた。
「それが、偽造悪魔との契約です。みなさまの目には偽造悪魔が住み付き、命令に応じて召喚されます…がお気を付け下さい」
注意事項として、ゴートは眼球に指を突っ込んで、黒い血を流しながら自らの眼球を抉り出した。
「偽造悪魔は人の目を恐れます。古来より、悪魔が本性を現さず人の姿として現れるのは、人の視線を苦痛と感じる程までに嫌うからです。みなさまの目は、人ならざる魔眼。悪魔に見られても大丈夫なものとなりました」
両目に刻まれた魔法陣。
其処に、契約した偽造悪魔が宿っているのだろう。
「彼ら偽造悪魔には呼び方が存在します。
「…それをすれば、夜辺くんは、…夜辺くんが、生き返るんですか?」
月ノ宮カレンはゴートに聞くと、金髪の悪魔は目を細めて笑う。
「はい、魂が戻れば、生き返りますよ」
と、そう断言した。
ならば、後は簡単だ。
悪魔を差し出して、他の偽造悪魔に食わせれば良い。
そうすれば、何も犠牲を出す事なく、夜辺逞を復活させる事が出来る。
そう思った矢先。
月ノ宮カレンの前に、偽造悪魔が立ち塞がる。
灰色の肌、全身には葉脈の如く赤い刺青が蠢く。
赤色の頭巾を被る、頬が抉れ牙を剥き出しにする化け物が眼前に立つ。
その手に抱く巨大な大剣が、月ノ宮カレンに向けて振り下ろされる。
「え」
最初に零した言葉はそれだった、その言葉が彼女にとって終わりを示す。
黒く濁る火に焼べた様な色合いをした分厚い刃が、彼女の右肩から鎖骨を砕き、脇腹を抜ける。
服を赤色に染め、鮮血が周囲に舞う。
一瞬の静止、口元から零れる血を指先で拭い、体が切断したと悟る月ノ宮カレンは、眼球が回り白目を剥いたと共に、体を倒す。
その攻撃によって、月ノ宮カレンは死んだ。
殺したのは、
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