ダンテ襲来!

 ――すると、カラン、カランとドアが勢いよく開く。

「おい! ラグナアスターの襲撃に関与した奴は、どこのどいつだ!? とっとと、出てきやがれ!」

 その男は、紛れもなく、僕の幼馴染の『銀太』――いや、『ダンテ』。髪を逆立て、真っ黒の上下に、装飾のついたベルト、そして、赤黒いマント。ラグナアスターの地下で目撃した、あの時と同じ格好だ。

「マジか……銀太?」

 僕は、驚きのあまり、そう口走ってしまった。

「お前、さとり! なにやってんだよ、こんなところで! 愛唯もいるじゃねえか!」

「やっほ~、銀太」

 名指しされた愛唯が、銀太に向かって小さく手を振る。

「やっほ~、じゃねーよ! おい、さとり、愛唯、今すぐ表に出ろ! こいつら、俺たちの、ラグナアスターのことを政府に悪の組織だって密告しやがった! そのせいで、アジトが襲撃されて、異能超人対策課の奴らにみんな連行されちまった! クソッ! 俺たちの活動は、電気街に蔓延るカルト教団のやつらから街を守ることだってのによ!」

 マジか!? 銀太たち、ラグナアスターのメンバーも、僕らと同じ目的で行動していたということか?

「ちょ、ちょっと待って銀太、それ、ここのみんなも同じ目的で動いてるんだぞ! 誤解だ!」

「さとり、てめえ、もう許さねえ! あの時、言っただろ! 関わるなって!」

「銀太、彼らに手を出すつもりなら、僕が許さない!」

 僕は、銀太の発言に触発され、銀太から売られた喧嘩を買ってしまったのだ。

「さとり……なんか、お前、別人みたいだな? いいだろう……表に、出ろ、さとり!」

 銀太は僕を指さし、『かかってこい』と挑発している。銀太は、やる気だ。僕が銀太に勝てるのだろうか? 勝てる見込みはなくとも、やるだけやってみるしかない。

「ちょっと、ちょっと! 一戦交えるつもりなら、そこの公園でやりなさいよ。こんなところでやられたら近所迷惑だから」

 アンリさんは相変わらず大人の対応だ。

「さとりん、本気? やめときなよ……怪我しちゃうよ?」

 藍里は、僕のことを心配してくれている。僕らと長い付き合いの愛唯だ、僕に勝算がないことくらい、百も承知なのだろう。

「サトリ、ミコの大事な……この肉球ぷにぷにロッドを使ってください!」

 ミィコは、肉球ぷにぷにロッドを僕に手渡してくれた。藍里の魔法付与マジカルエンチャントはまだ残っているようだ。

「さとりちゃん、くれぐれも、ご近所さんの迷惑にならないようにしてね。苦情なんてきた日には、ここで活動しにくくなっちゃうよ?」

 雪音さんは現実的だ。ごもっともです。

「さとりくん、すまないが、少しだけ時間を稼いでいてくれ。布津さんに、ラグナアスターの件、私から確認してみる――ただし、誰かを巻き込んだり、器物を損壊させたりすることのないよう、くれぐれも頼む」

 三ケ田さんの言うとおり、本気で戦うのではなく、時間を稼ぐだけでいいのかもしれない。

 藍里は――僕に声をかけてくれない。それどころか、僕と目を合わせようともしない。藍里……。君は、いったい、どうしてしまったのだ?


 ――僕と銀太は、喫茶アンリ&マユの近くにある公園までやってきた。ぞろぞろと店にいたメンツが、野次馬根性で僕らについてくる。アンリさんとマユさんまで……店を留守にして大丈夫なのか?

「おい、さとり、いいか? 俺は、最初だけ能力を使わない。俺に能力を使わせるくらいまで本気にさせてみろ、さとり!」

 そんな余裕を見せた銀太は、僕が構える暇も与えずに、いきなり攻撃を仕掛けてきた。

 僕は、肉球ぷにぷにロッドで銀太の攻撃を防ぐ。

「うお……なんだ、その武器! 見た目に反して、すげーな、それ! まるで、コンクリートでも殴ってるみたいだ。面白い!」

 銀太は肉球ぷにぷにロッドを警戒している! 僕は、銀太の背後を取るような動きをして、肉球ぷにぷにロッドを一撃でも当てようとする――が、銀太はそのすべての攻撃を、まるで読み切っているかのように回避する。銀太、こいつ……楽しんでいる!?


 銀太が、一瞬だけ立ち止まり、大きく息を吸って、次の攻撃の構えを取る。

「オラ、オラ、オラ!」

 一撃、一撃、とてつもなく重たい攻撃が、肉球ぷにぷにロッドに加えられて、その衝撃で僕の体勢が崩れ始める。銀太、本当に、これで、能力を使ってないのか!? こいつ、素の状態で十分すぎるほどの超人だ! まずいぞ、肉球ぷにぷにロッドの魔法付与マジカルエンチャントが、ところどころ剥がれ始めてきている。このままだと、肉球ぷにぷにロッドが壊れてしまう……そんなことになったら、ミィコに殺されてしまう! なんで、なんでこんなことに――なんで、僕が、なんで僕が、なんで僕が! 『僕を、返せ――』

「ぎんたああぁぁ!!」

 僕は、狂ったようにブチ切れた! 今まで、ため込んできた、何かが、ぶっ飛んだ、と同時に、境界カオスとの繋がりを強く感じる。これは……僕が、もう一人の僕と――同期シンクロし始めたに違いない。

 ――僕の周りを光の渦が取り巻き、その周囲に強い衝撃波が発生する。その反動によって、銀太は弾き飛ばされた! 銀太は、地に膝をつき、僕の様子を窺っている。周りで観戦しているみんなも、僕の変化には驚いているようだ。


 ああ、気分がいい――

 僕は、地に膝をついている銀太を無視して、そのままミィコに近づいていく。ミィコは、僕の異質な気配に少し怯えているようだ。これは、高貴なる光のオーラだ、安心しろ、ミィコ。

「ミィコ、これ返すよ。もういらないから」

 僕はそんなミィコの様子を気にせず、ミィコに肉球ぷにぷにロッドを強引に手渡す。ミィコは何も言わずに、僕から肉球ぷにぷにロッドを受け取った。

 ちょっと待て、僕はミィコに、『いらない』じゃなくて、『ありがとう』とか、感謝の気持ちを伝えるべきだったのでは? なぜだろう、今の僕には、他人を慮る気持ちが確実に欠けている。そもそも――こんな考え自体、どうでもよくなってきた。

 僕は、素っ気ない感じのまま、ミィコを背にして、銀太のもとへと近づいていく。さあ、銀太、決着を付けようじゃないか――

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