唯我独尊
今の僕は、銀太ごときに負ける気がしない――
「さとりくん! いけない! その力……!」
後ろから、藍里の声。だが、もう遅い。ああ……この力、これこそが、本来の僕だ!
「――銀太、そんなコスプレしていて、恥ずかしくないのか? いい加減、本気でかかってこい」
僕は、地に膝をついた銀太を上から見下ろし、彼を煽る。
「さとり、てめえ! いいだろう、そっちがその気なら、約束通り、俺も本気を出してやるよ!
その身に纏ったマントを脱ぎ棄て、ゆっくりと起き上がった銀太――彼の眼は赤く染まり、殺意を纏う。彼の周りに立ち昇る赤黒い炎は業火の如く。その炎は、熱くも、冷たくもなく、その代わりに、ありとあらゆる負の感情を、これでもかというほど僕に植え付けてくる。だが、今の僕は自信に満ち溢れている。やってやる!
「
僕の光り輝く拳に、己の全体重を乗せ、銀太に向けて鉄槌をぶちかました。クリーンヒット! 銀太はその衝撃により、身動きできないほどのダメージを受けているようだ。倒れ込む銀太に向かって、上から“ニタァ”と微笑んでやった。ああ、子気味いい。銀太……僕は、お前に、負けない――僕の勝利は約束された。
「……さとり、ふざけんなよ! お前の、その慢心は命取りだってことを、俺が教えてやるよ!」
ふらつきながらも、そんな余裕を見せるセリフを吐く銀太に、僕の苛立ちが加速していく。銀太の言葉を待たず、僕は追撃する。
「黙れ! 銀太、お前に、僕の何が分かるっていうんだ!?」
見違えるほどに機敏になった僕の体、どれだけ拳を打ち込もうと疲れを知らない僕の体。素晴らしい……この感覚、素晴らしいよ。
――だが、僕がいくら攻撃しようとも、銀太はその攻撃のすべてを受け流す。こいつ、まだ動けるのか!? ああ、腹立たしい!
「さとり、お前のすべては、分からないさ――だけどな、俺とお前、いつだって、その未来を分かち合って生きてきた。そうじゃないか? なあ、さとり」
そう僕に告げた銀太は、片手で僕の攻撃を受け止め、そのまま僕の拳をつかむことで、僕の攻撃を封じた。黙れ、黙れ、お前に、僕の、何が分かるというんだ!
銀太、黙ってくれ。僕のことを、分かったような口ぶり、うんざりなんだよ! 僕は、銀太の手を振り払い――
「
銀太、これで終わらせる。もう、黙れ。光り輝く片翼……僕に、無限の力を与えてくれる。
――その輝く翼は、傲慢であり、至高でもある。その絶対的な自信は何よりも気高く、目の前に立ちはだかる敵は、すべて跡形もなく消し去る。
我が前に、敵はない。我は――全能なり。
間髪入れず、僕は銀太に攻撃を仕掛ける――僕の攻撃がヒットしない、なぜだ!? 銀太の動きが、先ほどとは比べ物にならないほどに速くなっている。こいつ、どこまで、僕を馬鹿にすれば気が済むというんだ! だが、今の僕に、敗北という言葉は存在しない。無敵の力を思い知れ、銀太!
「なあ、さとり……力に溺れた者の末路は、破滅のみ、だぞ――」
銀太、黙れ、黙れ! 銀太、お前を、消してやる!
「五月蠅い、黙れ、黙れ! 銀太、もう、黙れ!
輝く光の槍、その閃光は、ありとあらゆるものを貫き、その存在を消滅させる。
僕は、銀太を、殺めてもいいとさえ思った。いや、実際、そうするつもりだった。
「さとりくん! ダメ!」「さとりん! やめて!」「サトリ!」「さとりちゃん!」
雑音、周りからの雑音。いらない……。邪魔者は、すべて消し去ってやるんだ!
その時、一人の少女が銀太の前に現れ、僕の攻撃から銀太を庇う。
「ダンテ!
誰だ? 『白羽 ミュウ』……あのアイドルか? どこぞの、プリーストが身に付けていそうな、十字架と金色の装飾が入ったローブを羽織っている。構わない、どうでもいい。ともに逝け! 僕は光り輝く大槍を、目の前にいる二人目掛けて投げつけた。
――凄まじい轟音が鳴り響く中、僕の放った
「『ヴァイス』、ナイスタイミング! な、言っただろ、さとり? 力に溺れた者の末路は、破滅のみ、だと……」
「いくよ、ダンテ!
ヴァイスと呼ばれた白羽 ミュウは、銀太に向かって、その対象を大幅に強化するであろう能力を発動した。
――させるか! 二人そろって小賢しい! 僕は、とにかく、忌々しい銀太の行動を阻害するべく、ただひたすら
僕と銀太、激しい攻撃の応酬。銀太の、余裕のある動きと、その表情に、僕は焦りと、いらだちを感じていた。
「あああ、忌々しい! 消えろ!
閃光を伴う連撃。一撃でもヒットすれば、その部位を消し飛ばすくらいの威力はあるだろう。
僕は、とにかく銀太を消したかった。消してやりたかった。お前を消し去った後は、あの白羽 ミュウも一緒に、消してやる……!
「おっと、危ねえ! だがな、そんなもの、当たらなきゃどうってことない! これで、終わりにしてやるよ……さとり! ――
銀太の腕に赤黒い炎を纏った竜が巻きつき、その腕で僕めがけて掌底を放つ。僕の、
「銀太ぁぁ!」
僕のいらだちは頂点を極めていた。
「根性あるじゃねえか、さとりぃぃ! ――
だが、銀太の攻撃は弱まるどころか、その激しさを増す。赤黒い炎を纏った拳の乱打により、僕の
「なぜだ、なぜだ、銀太! 銀太!」
僕は、こいつに、勝てない――
「目を、覚ませ、さとり! ――
銀太のその言葉とともに、彼は灼熱の業火に包まれ、僕の目の前から、その姿を消した――次の瞬間、僕の意識が一瞬にして吹き飛んだ。何が、起きたのだろう? 光り輝く翼は折れ、
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