ギャア!
ヤギ男に拘束されている久慈、周りの人に事情を説明しているミィコ。
「この男、誘拐犯なのです! ゴーティモがこの男を捕まえてくださいました!」
いや、ミィコ……ここでゴーティモというのは、ちょっと違うような気もする――まあ、いいか。
――僕の持っている肉球ぷにぷにロッド、これをミィコに返すため、ミィコの背後からそろりと近づいた。
「ミィコ、これ――」
「ギャア! びっくりしました! サトリですか……驚かさないでください」
ミィコが変な動物みたいな声を出して驚いた。僕も驚いた。
「いや、僕の方が驚いたから! これ、肉球ぷにぷにロッド、藍里が
僕は、
「機能的には……って、とんでもないものに変わり果ててしまっているのですが!」
ミィコの言うとおり、
ミィコは恐る恐る、その変わり果てた肉球ぷにぷにロッドを手に取って眺める。
「ほ、ほら、このボタン、押してみて!」
僕は苦し紛れに、肉球ぷにぷにロッドのセリフが流れるボタンの位置を指し示した。
『マジカルキュートな肉球ウィザード、ネコッテ! ここに参上~!』
ミィコがボタンを押すと、肉球ぷにぷにロッドから、ネコッテの声でちゃんとセリフが流れた。うん、電気系統は問題ない! 大丈夫だ!
「……ネコッテ、かわいい~」
ミィコは満面の笑みで肉球ぷにぷにロッドを抱きしめた。
そんなニコニコのミィコを、僕は無意識のうちについ撫でてしまった。
――しまった、ミィコに殺される!? 今のミィコの手には、恐ろしい凶器、
そんな、僕の予想とは裏腹に、ミィコは上目遣いで僕を見ながら、なんだか目を輝かせて微笑んでいた。
ま、まあ、可愛いやつめ……。
そうこうしているうちに、黒いスーツに身を包んだ凛とした雰囲気の女性が、僕らのもとへと駆け寄ってくる――三ケ田さんだ。
その三ケ田さんに続き、数名の対異能超人特殊部隊もやってきた。彼らは、黒光りするポンプアクション式のショットガンと、黒い防弾メットに黒いボディアーマーの重武装だ。
「リッカさん! こちらです!」
ミィコが三ケ田さんに手を振っている。
「神子ちゃん、さとりくん、遅くなって申し訳ない」
僕に挨拶した三ケ田さんは、すぐさま特殊部隊の人たちに久慈の確保するよう指示を出していた。
「三ケ田さん、お忙しいところありがとうございます。心強いです」
「いや、これも仕事だ。それに、君たちが無事で本当に良かったよ」
三ケ田さんは僕とミィコのことを心配してくれていたのか、僕たちの無事が確認できたことで嬉しそうな表情をしている。
「リッカさん! もう一人の場所へ案内しますので!」
そうだ、藍里の所にはまだ八神がいる。
「そうだったな、神子ちゃん、よろしく頼む」
三ケ田さんは、そう言ってからミィコの後をついて行こうとした――
「ちょっと、待ってください!」
僕は、ある異変に気が付いて叫んだ! なんと、ヤギ男まで拘束され、特殊部隊に連行されているではないか!
「ん、さとりくん、どうかしたか?」
三ケ田さんは足を止め、何事かと振り返る。
「あの、ヤギの人、あの人は僕たちを助けてくれたヒーローですよ!」
僕が声を上げて三ケ田さんにそう伝えると――
「あああ! ゴーティモ! ゴーティモはミコの恩人です! 手荒に扱わないであげてください!」
ヤギ男が連行されていくのに気付いたミィコも、僕に続いて悲痛な声を荒げていた。
「なんだと! それは誠か!? 申し訳ない……てっきり、先日の事件に関係のあるヤギ男かと思っていた――本当に、申し訳ない」
先日の事件……おそらく、神社での一件だろう。
――三ケ田さんは、ヤギ男のもとへと全力で駆け出した。
ヤギ男の拘束を解くように、周りの特殊部隊の人たちに指示を出している。
そして、三ケ田さんはヤギ男に対して、何度も、何度も謝っている。普段の凛とした雰囲気の三ケ田さんとは裏腹に、こういう時の三ケ田さんは本当に腰が低い。あの半泣きのような表情、きっと、本人は気付いていないのだろう。
無事、ヤギ男は解放され、僕たちに手を振ってどこかへ去っていった。
ヤギ男、貴方は本当にヒーローだ! ありがとう!
ミィコもゴーティモに大手を振ってさよならの挨拶をしている。
「ゴーティモ、本当に良かったです……」
ミィコはなんだか目に涙を浮かべて、感動の眼差しでゴーティモ――じゃなくて、ヤギ男を見送っていた。
――三ケ田さんが猫耳をピョコピョコさせながら、僕らのもとへと戻ってきた。
「本当に、すまなかった。まさか、こんなことに――」
「三ケ田さん、耳、出てますよ」
僕はとにかく、申し訳なさそうにしている三ケ田さんに、それをどうしても指摘してあげたかった。
「な、なんだと! またか、この忌々しい耳め……! 落ち着け、落ち着け、私……」
三ケ田さんは何とか自分を落ち着かせようと試みている。
「ミコ的には、リッカさんの耳、とっても可愛いと思います!」
「神子ちゃん、可愛いとか、可愛くないとか、そういう問題ではないのだ! このことを本部に知られたら、私は職を失ってしまう……」
三ケ田さんは深刻そうな顔をしている。個人的には、そのくらいなんてことないと思うのだが……そういうものでもないのだろうか? いや、これだけ頻繁に出現する三ケ田さんの猫耳や猫尻尾、すでに本部の人たちに気付かれているのでは? ――僕はそう思ったが、あえて口には出さなかった。
「リッカさん……ごめんなさい、ミコ、軽率でした」
ミィコはなんだか申し訳なさそうにしている。
――そうだ、あまり藍里たちを待たせてはいけない! こんなことをしている場合ではないのだ!
「と、とにかく、藍里たちと合流しましょう!」
僕は、三ケ田さんとミィコを急かした。
「そ、そうだったな! 耳もなんとか消えてくれたし、気を取り直していくとしよう」
そうこうしているうちに、三ケ田さんの猫耳はすっかりと消えていた。
「はい! ミコが案内します! ついてきてください!」
ミィコがそう言って先頭に立って歩き始める。
三ケ田さんは、特殊部隊の隊員を二名ほど呼び、その隊員たちと一緒にミィコの後を追う。
僕もその後を追う――
なぜだろう? 妙に胸騒ぎがする――これが杞憂であればよいのだが……。
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