激震!復活のヤギ男

 空から、翼の生えた悪魔の首のような、飛翔する謎の生き物が現れた。

 まさか……あれは!? 間違いない、あの夜、僕のことを窓の外から覗き込んでいた生首! ヤギ男と、深夜に見た生首の謎が、よもやこんなところで解明されるとは!

「行け! 偵察者サーチャー!」

 空から突如として現れた、『サーちゃん』? と呼ばれていたような気がする悪魔の首は、猛烈な勢いでヤギ男に向かって飛んでいく。

 突進攻撃だけなのだろうか? 見た感じ、そこまで強くはなさそうだ。

「雑魚、お前の相手は俺がしてやるよ。今度は、トドメまで刺してやるからよ!」

 久慈は、その片手に抱えていたミィコを放り投げ、ドロドロとした赤黒いオーラを纏った拳を構えて、僕に向かってくる。

「ミィコ!」

 僕は放り投げられたミィコを心配しつつ、久慈の攻撃を肉球ぷにぷにロッドで受け止める。

 な、なんだこれ!? 僕はその魔法付与マジカルエンチャントされた肉球ぷにぷにロッドの性質に驚きを隠せなかった!

 これは、いわゆる、物体の質量を変化させているのだろうけど、軽いのに重い、重いのに軽いという、矛盾がそこに生じていた。おそらく、久慈からはコンクリートの塊を殴っているような感覚なのだろう。逆に、僕からは、肉球ぷにぷにロッドの軽さで、コンクリートの塊を振り回しているという、まさに頭がバグる状況となっていた。

「クソッ! お前まさか! あの女と同じような武器を! こんなわけがわからない武器を使いやがって! お前ら、マジで反則だろ!」

「そうだよ! あの錫杖でやられた傷が、また痛み始めたか!?」

 僕は虚勢を張る! ナメられてはおしまいだ。 僕の方が格上だと、相手に思わせなければ。

「クソが! お前の構えは、ガードがガラ空きなんだよ!」

 虚勢を張る僕に、久慈はそう言って連続攻撃を仕掛けてくる!

 防戦一方になってたまるか……!


 ――魔法付与マジカルエンチャントされた肉球ぷにぷにロッドは、驚くほど僕の手に馴染み、僕の脳裏に、幾何学的楽園ジオメトリック・エデンでの経験が鮮明によみがえってくる。

 僕は完全に心の安らぎを取り戻し、そうして精神が安定していくのを感じた。僕の中で、あの自信に満ち溢れた僕が僕になり、僕は僕でなくなる――そんな、不思議な感覚に僕は陥っていく。

 感情が高ぶる――今なら、使える! 僕の能力が!

光爆発ライトバーン!」

 僕は、自分の能力を肉球ぷにぷにロッドに込めて、一気に撃ち放った!

 甲高い爆発音とともに、久慈が吹き飛ばされる。

 謎の質量と光爆発の相乗効果により、久慈が身に纏っていた謎のオーラは完全に消え去っていた。

「て、てめえ……雑魚が、小賢しい真似をしやがって……」

 久慈は爆発の衝撃で動けなくなっているようだ。

「僕を、雑魚呼ばわりするな。次に雑魚呼ばわりしたら、その時は――」

 気分の高揚は、僕の言動にまで影響していた。それは、普段の僕ではとてもじゃないけど言えないような、そんな大胆な発言をすることができる。


 僕が勝利の余韻に浸っていると……ふと、ミィコと目が合う――

「サトリ!」

 ミィコが駆け寄ってきて――そのまま僕に飛びかかり、抱き着いてきた。

「よしよし、怖かったよな……」

「サトリ、サトリが、来てくれて……本当に、よかったです……あと、ゴーティモが助けてくれました……ありがとうございます、ゴーティモ」

「そうだね、ゴーティモ……」

 いや、あれは、ゴーティモじゃない――と、言いたかったのだが、ミィコにこれ以上のショックを与えないように、彼はゴーティモなのだということに、僕はしておいた。


 サーちゃんとかいう変な悪魔の首を完膚なきまでに叩きのめした、ゴーティモ――じゃなくて、ヤギ男、いや、ゴーティモ? その彼が僕らのもとへとやってきた。

「君、強いんだね」

「いえ、そんな……貴方のおかげです。ありがとうございました」

 本当に、彼がいなかったら今頃ミィコは連れ去られてしまっていたかもしれない。本当に感謝感激だ。

「ゴーティモ! ありがとうございました! 本当に助かりました!」

 ミィコは相変わらず彼のことをゴーティモと呼んでいる。

「いやいや、ゴーティモだなんて……まあ、そう呼ばれて悪い気はしないがね。それはともかく、君たちのお役に立てたようでなによりだ。最近は異能超人とやらで物騒な世の中になってしまったからね……かくいう私も、この通り、その異能超人の一人なのだがね」

 ヤギ男はワッハッハと大声で豪快な笑いを見せた。


 ――僕とヤギ男は、久慈を拘束し、ミィコが携帯電話で三ケ田さんに連絡している。

「リッカさん、今から来てくださるそうです! 大体、15分くらいかかるって仰ってました」

 到着まで15分か……三ケ田さん、かなり急いできてくれるのだろう。

 今のうちに、愛唯と藍里にも連絡を取っておこう。


 僕は愛唯に電話をかける――

「さとりん!」

 まさかの、ワンコールで通話中となり、愛唯が嬉しそうに僕の名を呼ぶ。

「あ、ああ、愛唯、こっちは無事に片付いたよ。ミィコが連れ去られるのも、なんとか阻止できた」

 僕は愛唯に現状報告をする。

「うん、こっちも藍里ちゃんが八神ってやつをぼっこぼこにしてたよ! 八神は今、のびてる、生きてると思う……多分」

「多分って……恐ろしいな」

 僕はそう言って、藍里の容赦なさに恐れおののいた……。

「ちなみに、警備員さんが縄を持ってきてくれたから、八神はその縄で拘束されてるよ。だから、もう大丈夫。そっちは?」

 八神も拘束されている、か。久慈もしっかりと拘束していることを伝えよう。

「こっちは――あ! すごいんだよ、神社で見かけたヤギ男が実は生きていてさ、彼が助けてくれたんだよ!」

 なによりも、僕的には、あのヤギ男が助けてくれたことを一番の話題にしたかった。久慈はすでに拘束されている、という話よりも、だ!

「え!? 本当に!? やっぱりね! 実はね、キングさん――いえ、あのリーゼントの人の能力、実は幻覚だったんだって。でも、驚きだよね……あの時暴れていたヤギ男が正義の味方だったなんてね、意外すぎ! しかも、さとりんを助けてくれたなんて! 運命かも!」

 え、幻覚? ということは、リーゼント男の能力に殺傷能力はないということか。というか、運命? なんか、僕はちょっぴり嬉しくない運命を感じてしまう。

「愛唯のその話も、十分なほどに意外すぎるよ!」

「うんうん、本当に意外すぎちゃうよね~!」

 僕と愛唯は和気あいあいと話をしていた――いや、そうじゃない! そんな場合ではなかった。

「とにかく、こっちも、そのヤギ男が久慈を拘束してくれてる。それから、三ケ田さん――ええと、異能超人対策課の人にも連絡してあるから、もう少しで到着するはずだよ」

 僕は、三ケ田さんがこちらに向かってくれていることを愛唯に伝えた。

「三ケ田さん? なんだか、古風な感じのする女性の方? たまに布津さんと一緒に行動している人よね」

 布津さん? そういえば、三ケ田さんが大そう怖がっていた上司、それが布津さんだったような。なるほど、愛唯も、アンリ&マユ経由で異能超人対策課の人たちとの繋がりがあるってことか。

「多分、そうだと思う。とにかく、三ケ田さんが到着次第、僕たちもそっちに向かうよ」

「分かった! 藍里ちゃんにもそう伝えておくね」

 ――終話。

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