5


 バーナードに案内された村長の家は少し離れた小高い丘の上にあった。

 明らかに砦の指令所だ。石造りの武骨な三階建ての塔に近い。最上部には物見台のような建物まである。

 塔の周辺には防壁が不規則に並べられている。意図的に修復していないのかあちこち破壊された跡が残っている。

 本当に砦だったんだと印象付ける場所だ。

 村長はなかなか物騒な所に住んでらっしゃる。こりゃ武闘派で間違いないな。

 凄い村だぞ。

 

 外面はともかく案内された建物内は普通に住居だった。そりゃそうだ。だけど豪華ではない。質素を旨とするという感じだ。

 バーナードは本当にこっちの家宰らしく使用人が皆挨拶をし、指示を仰いでいる。バーナードが確認する所によると村長は書斎にいるそうだ。

 そのまま案内されるようだ。てっきり応接室のような場所かと思ったんだが。ま、俺はどこでもいいけどさ。

 

 バーナードに案内されるまま書斎に入る。

 書斎にいたのは初老の男だった。

 短い金髪で深い皺が刻まれた鋭い青い目をしている。なんというか・・全てを見透かす目をしているような気がする。

 よく見れば傷跡が顔のあちこちにある。歴戦の戦士という雰囲気だ。成程、バーナードの主人というのが納得だ。

 

「将軍。報告した者を連れて来ました」

「ご苦労。よく来てくれたね。ひとまず座ってくれ」

「はい」


 言われるままに勧められたソファーに座る。村長の眼光の鋭さは緩まない。殺意は感じないが、嘘や冗談は許さない感じだ。

 なんとなくなんだが、このような視線には慣れている気がする。だけど目の前の人物には覚えがない。それすら俺は忘れているのだろうか?しかし村長の視線は変わらない。

 ・・・やはり俺は知らない人物のようだ。

 それにしても視線が痛い。しかも何かチリチリする。

 ・・・これは。

 何故か分かる。どうやら俺は”視られている”ようだ。

 それが表情に出てしまったのか村長は軽い笑みを浮かべる。っ・・。

 


「君は自分の事も覚えていないと聞いた。今も思い出せないのだろうか?」

「はい。・・・今も思い出せません。何か情報を持ってられるのですか?」

「・・・ほう。何故、そのような事を聞くのだね?嘘偽りなく言いたまえ」


 ちらりと見えた笑みはあっと言う間に消えていた。既に厳しい表情に戻っている。最初から嘘をいうつもりは無かったが、本当に嘘偽りは見抜かれる様子だ。村長ってこんなに鋭いのか?

 

「適切な表現が難しいのですが、俺の何かを”視て”いると思ったからです」

「ふむ。儂の目の事かな?」

「そうですね。そのように感じました」


 まただ。

 一瞬だけ笑みを浮かべた。殆ど同時にバーナードの目が驚いたように見えた。

 どうやら俺の予測は当たっているようだ。それにしても一体何を視ているのだろうか?おおよそ検討はつくが、気になる。

 これでバーナードが判断を仰ぐと言った意味の一端が分かったような気がした。何らかの手段で人物鑑定のような事ができるのだろう。どこまで視えるのか分からないが偽証は許されないのが分かった。

 俺について何か分かるのであればありがたい。

 

「さて、君は何処から来たんだろうね?ウィリアム君」


 え?それは俺の名前?ウィリアムというのか?


「将軍?視えていないのですか?」


 俺も驚いていたがバーナードも驚いた様子だ。だが、ニュアンスが少々違うぞ。視えていない?どういうことだ?

 

「ああ、殆ど分からない。ここまで視えないとは思っていなかったよ。ウィリアム君は相当なものだ」


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忘却の戦士 ナギサ コウガ @ngskgsn

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