4
結局の所、俺は助けられた。
俺を助けてくれた男はバーナードという。近くに村があり、その村長の家宰らしい。
いい身分の男がなぜ危険な森の近くにいたのか聞いてみたのだがスルーされてしまった。余計な事は喋りたくないらしい。
もともと寡黙な性質のようで最低限の説明のみだ。詳しい事はさっぱり分からない。
まずは助けてくれた事で感謝をするしかない。害は無いと判断されただけ良しとしないとな。
そんな簡単に信頼できる訳も無し。俺だって多分そうだ。助けて貰っただけでも大変ありがたい。感謝あるのみ。
バーナード家で俺の小汚い身なりを整えてから村長に会わせて判断を仰ぐという事のようだ。
村長に会わせるという所までは安全と判断されたようだ。
連れていかれた村は黒の森という危険な場所に近いためか外壁と呼んでいいほどの防壁に囲まれていた。聞けば昔は砦だったそうだ。
過去の魔王が襲撃したときに侵攻を食い止めた有名な砦だという。
そんな事を言われてもさっぱりな俺にバーナードはどう考えているのか。無表情な顔からは伺えなかった。つかみどころがない人だ。
ともあれ助けて貰ったのは間違いない。返せる範囲で恩義は返さないと。
すれ違う村人もそれなりの体格の連中が多かった。怠惰な村では無いのだろう。活気あふれている村という印象だ。
バーナードの家は村の入口に近いこじんまりとした小さな家だった。
そこで簡単な食事や着替えを貰う。やっと人心地つく。とりあえず瀕死からは抜け出せた。
衣服はバーナードが着ているものを貸して貰っている。
俺のほうが体が大きいみたいで袖や裾が短い。シャツのボタンも止められない所もある。う~ん、不格好かも・・・しれない。
バーナードは180ちょっと位の体格で、日々鍛えられているのが分かる体格だ。貧弱な体ではない。だが俺は190を超える身長だ。筋肉もバーナードより厚みがあるようだ。
明確な体格の差があるのだ。多少の不格好は仕方ない。
この時ばかりはバーナードの視線に感情が含まれているように思えた。そこは敢えてスルーする。
それまで着ていた服はボロボロに近いので捨ててもらう事にした。バーナードの奥方や従者がいれば繕ってもらえそうだが、どうやらバーナードは一人暮らしのようだ。結構な年齢だと思うのだが。敢えてスルーしておく。
皮鎧も再利用できない程破損しているので同様に捨ててもらう事にした。短剣はなかったそうだ。川を流れている時に落としたのだろう。こればっかりは仕方ない。
僅かばかりの金貨だけが今のところの俺の財産だ。なかなかハードな展開ではある。
そんな、とりとめない事を考えている所にバーナードが部屋に入って来た。
「そろそろ長に会ってもらう。体調はどうだ?」
「まぁなんとか。疲労は回復していないけど問題ない。助けて貰って感謝している」
「その調子で大人しくしてくれよ。礼儀が無い者を長は嫌う。生きていたければ殊勝にしているべきだ」
「了解。だけど意外だな。そんな簡単に長に会わせていいのか?」
「正直言うと俺には判断がつかない。魔族がここまで偽装する必要はないだろう。最初は嘘かと思ったが記憶が無いのは本当のようにも感じる。それも含めて長の判断に任せる事にした」
最初の慎重さはどこにいったのやら。短い時間で随分と警戒を解いてくれたようだ。ま、疑われるよりはずっといい。命の恩人の心証がいいのは何よりだ。
俺はいまだに何も思い出せない。少なくてもこの村やバーナードについては全く思い出さない。バーナードは勿論すれ違った村人も俺を知らないようだ。
少なくても俺はこの周辺で生活していないのだろう。だが、これから会う長は何か知っているかもしれない。それにしても判断を丸投げするとは。どういう長なんだろう?
「お前の長は人相でも見るのか?」
「いや、占術師では無い。会えば分かる」
「そこで俺が長の眼鏡に適わなかったらどうなる?」
「それも含めて長が判断する。ある意味お前は物騒な奴だ。この村で平和に暮らす事は無理だろう。お前が魔族では無いと長が判断したら悪いようにはならないと思う」
「断言できないのか。太鼓判では無いのか?」
「長のお考えは俺に測れるはずもない。あの方の指示に従うだけだ。なに、会ってすぐ斬られる事は無い。そこだけは保証する」
会って即斬るって・・・そっちのほうが物騒じゃないか。結構な武闘派なのか?
そもそもバーナードも相当な武芸の達人だと俺は直感している。なんとなくの勘ではあるが、確信に近いと思っている。何も思い出せなくても、こんな感覚は覚えているようだ。
だからバーナードは武闘派だ。脳ミソ筋肉では無いが剣で会話をするタイプだ。こいつもこの村で平和に暮らすのは無理なヤツだと思うのだが。
話しぶりだと長を相当信奉しているようにみえる。この村って武闘派集団の村なのかもしれない。すれ違った村人も一般人では無いような気がしてきた。
色々考えても仕方ない。こっちは保護されているようなもんだ。会って判断してもらうしかないのだろう。
ちょっと前までは死ぬ事を覚悟したんだ。会う位どうってことない。
俺はバーナードに頷くのみだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます