第10話
有紀と智也が母屋の居間に行くと、すでに夫婦がいた。二つを繋げて臨時に設置されたテーブルを前に、義男は胡坐をかき、一二三は少し崩した座り方をしている。夕食のメニューは素麺だと知らされていたが、ご馳走と思えるほどの総菜が用意されていた。
千夏はキビキビと動いている。まだ料理を作っているらしく、台所から炒め物の音とともに、おいしそうな匂いが流れてきた。
りん子はテーブルの周りを走り回っていた。不気味なことを仕出かすこともなく、ふつうの子供が親戚の家に来て興奮したかのように、一人ではしゃいでいた。ときおり夫婦の前で立ち止まり、じっと見つめたりする。すると酔っぱらった義男が手をかざして、気を込める仕草をした。
「どうだ、サイキックだぞ。悪霊たいさ~ん」と小学生みたいな真似をした。りん子は小憎たらしく鼻で笑うと、再び走り出した。夫と同じく酔っぱらっていた一二三がケタケタと笑い、その様子を見ていたサイキックカップルは無表情だった。
「あら、お二人さんが来てたのね。さあさあ、そこに座って。いまビールをだすから」
有紀と智也の顔を見て、千夏は嬉しそうだった。作ってきた炒め物をテーブルに置き、心からの笑顔をプライスレスでサービスした。
突っ立っていた二人は、愛想笑いをしている。一二三が座るように促すと、周囲を走り回る女児を気にしながら腰を下ろした。
「なあなあ、いつやるんだ。とりあえずよう、ビール飲んでからにしてくれよな、ぶふぇ」
「あんた、屁えするんじゃないよ。臭いねえ、なに食ったらこんなになるんだい」
夫婦に緊張感はまるでなかった。作戦として、わざと気にしていないフリをしていたわけではない。数時間前、この世の現象とは思えぬ災禍に見舞われて恐れ慄いていたのに、生来のお気楽さで、能天気ぶりを遺憾なく発揮していた。ヘラヘラ笑いながら飲み食いに励み、りん子に対しては無防備に過ぎた。
「千夏さんもこちらに来たらどうですか」
声をかけたのは智也だ。台所で忙しくしている千夏に届くように、声は大きめである。
「ちょっと待って、豚の角煮がもう少しなのよ」
「もう十分にご馳走が並んでますよ。りん子ちゃんも待ちくたびれたようですし」
だらしない姿勢の夫婦とは対照的に、二人は正座を崩さなかった。ぐるぐると回っているりん子が後ろを通過するたびに、有紀は腰を浮かした。無駄だと承知しているが、テーブルに置いてある手にはフォークを握っている。
「はい、お待たせしました。千夏特性の豚ちゃんの角煮、ここに爆誕で~す。いえーい」
平皿に黒褐色のブロック肉を載せて千夏がやってきた。出来に満足してか上機嫌である。
「もう、お肉がトロットロなんだから。ご飯にぴったりなの。もってくる?」
「奥さん、おかずだけでいいって。さすがにメシは食えんなあ」
「千夏さんも飲みませんか。ビールが冷えてますし」
智也がコップにビールを注いで千夏の前に置いた。彼女は礼を言うが、飲まずに台所へ引き返した。そして、小さな茶碗にご飯を盛って帰ってきた。走り回っているりん子を捕まえて食べさせようとするが、小さなカイブツは壮大なイヤイヤをして彼女の手許から離れた。
「りんちゃん、お腹すいてないの」
返事は、ぶっちょう面である。そして走り出した。
「奥さん、ガキんちょはそんなもんだ。ほっといたら、そのうち腹へって食うって」
「そうそう、ほっといたほうがいいよ。心配だったら、おにぎりでも作ればいいさ」
「まあ、そうね」
夫婦の助言に従って、りん子を好きにさせることにした。台所に戻っておにぎりをこしらえ、ラップに包んでからテーブルに戻ってきた。
「智也君。じゃあ、頂くね」
一通りの準備を終えてから、千夏はぬるくて気の抜けたビールをグイグイと飲み始めた。その様子を、サイキックたちが神妙な顔つきで見ている。
「千夏さん、加工場にある機械のことでちょっと訊きたいんですけど」
「え、なあに」
智也の突然の申し出に、千夏は?とした表情だ。
「すみませんが、教えてくれませんか。すごく興味深いので」
「明日にしましょうよ。せっかくみんなでご飯食べているのに」
お願いします、お願いしますと、智也の手が千夏を強引に立たせた。
「おいい、こらあ、ういいー。おめえなあ、レデーに手をだすんじゃねえ、ぶふぉ。また屁えこいちまったあ」
酔っ払いの義男は作戦のことをすっかりと忘れていた。それどころか、余計な正義感を出して、威勢のいいままに立ち上がろうとしたが、よろけてひどい臭いのする屁を放出して座り込んでしまった。
「おめえも、豚みてえに食ってねえで、なんか言ってやれってんだあ、ちくしょうめ」
一二三は豚の角煮に齧りついて、さらにりん子のおにぎりにまで手を付けていた。夫と同じく酔っぱらっていて、有紀たちとの段取りなど片隅にもなかった。
「やっぱり明日にしましょう。ご飯食べてる途中だし」
「じつは田舎の叔父が水産業をやってまして、中古の機械を探していたんですよ。さっきケイタイで撮ってメールしたら、買いたいって言ってきたので、どうかなと思いまして」
とっさの嘘である。智也の親類に水産業を営んでいる者などいない。
「え、ホント。それってすごくうれしくて、おいしいお話じゃないの」
商売の話には目の色が変わった。説明書を持ってくると言って、千夏はいったん居間を出た。ウキウキしている様子が、その後ろ姿からわかる。
「ビールにハルシオンを混ぜたから、すぐに効いてくると思う」
「じゃあ、二時間ぐらいは邪魔が入らないね。思いっきりやれるわ」
有紀は自信ありげに胸を張り、りん子を憎々しげに見つめていた。
「千夏さんが加工場で寝入ったら、僕たちの部屋に寝せておくよ」
「そうして。ついでに言うと智也も、そっちにいてよ。万が一とは思うけど、とばっちりでケガしたくはないでしょう」
智也は探索専門のサイキックである。実際の闘いは有紀が担当していた。
「あの二人はどうする」
たらふく食って酒を飲んだ夫婦は、もはや人事不省な状態であった。目が座りきった一二三は不平ばかりのひとり言を連発し、義男はいびきをかいて寝ていた。
「知らない。ちゃんと警告したよ。バカは死んでも治らないから放っておく」
溺死体のように寝ている義男の頭部を、有紀は足のつま先でグリグリといじる。智也がやめるように注意していると、千夏が帰ってきた。
「さあ智也君、商談しましょうか。値引き交渉は負けないよ。その前に、やっぱり、りんちゃんにご飯を食べさせておくから」
千夏は周回しているりん子を止めて、テーブルの前に座らせた。鶏のから揚げやサラダ、角煮を小皿にとって置いた。強炭酸のジュースをコップに注ぐと、女の子はすぐに飲み始めた。不器用に箸を掴み、かき込むように料理を食べる。
千夏はさっき作っておいたおにぎりを探すが、それは一二三に食べられていた。テーブルにふせって、夫と同じくいびきをかいて寝てしまった中年女を、キッと睨んでから立ち上がった。頭を叩いてやろうと手をあげるが、寸前で思いとどまる。智也に向き直りニッコリとした。
千夏と智也が居間を出て行った。足音が鎮まるのを待って、有紀が立ち位置をずらした。から揚げを食っているりん子を見据えて、大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。
「ぐおりゃあああああああ」
精神力の集中が始まり、こもった低重音が響きだした。大声というわけではなかったが、華奢な女性とは思えぬほどの胆力を感じさせた。昼間の集中とはケタ違いで、添加された薬物の効力が絶大であることを示していた。
超能力者による超自然的な剛力は、目に見える形で物理的な作用をもたらしていた。テーブルがガタガタと揺れだし、まるで帯電しているかのように空気が弾けた。
「あの世の子。見ろ、こっちを見ろ」
有紀が叫ぶ。髪の毛が逆立ち、瞳の全域が真っ赤に充血していた。いまにも血の涙滴を見せるばかりの気勢であり、形相が鬼であった。
「直ちに消滅しろ。その爛れた体躯もろとも消えてなくなれ。奈落の底へ帰れ。汚穢の海で溺れろ。失意の汚泥の中で腐っていくがいい」
はあああーっ、と力強く息が吐き出されて、サイキックの気合を最大値まで振り切らせた。するとテーブル上のコップが割れ、柔らかな豚の角煮肉が爆発し、テレビが沈黙した。天井のLED照明が点いたり消えたりを繰り返している。
いびきをかいて寝ていた義男が、跳ね上がるように上半身を起こした。とたんにゲエゲエと嘔吐した。顔をあげた一二三の鼻から鮮血がほとばしっていた。やがて夫と同じように吐しゃ物を撒き散らしらすと、今度は義男が鼻血を噴出させた。大量に吐き続けながら出血するというアクロバチックな共演だった。強烈な力場の出現に平衡感覚を狂わされ、さらに毛細血管を傷つけられて、二人は悶絶し悲鳴をあげていた。
「おまえら、うるさいっ。黙れ」
鬼女となった有紀は、中年たちの惨状を見ても集中力の持続を切断することはなく、りん子に対する熱視線は高温のままだ。意識が散ってしまうのを嫌って、喘ぎまくる義男と一二三を厳しく叱咤した。
「あんた、あんた、気持ち悪いし鼻痛いし、どうなってんのさ。お金取ってきなよ」
めまいやら出血やらに苛まれながらも、いくぶん酔いがさめた一二三は、二階にある現金のことを唐突に思い出したようだ。酒臭い反吐の飛沫を散布しながら金だ金だと喚いている。義男はダメージが大きくて、反吐と血にまみれながら床をゴロゴロと転がっていた。
りん子が席を立った。明と暗が交互に支配する中を少しばかり動き、二つ繋げたテーブルの向こう端に陣取った。手には脂ぎった煮豚の塊を持って、むしゃむしゃと食っている。有紀を気にしている様子はなかった。サイキックからの攻撃を避けたのではなくて、騒がしくて不潔な大人たちを嫌ったようである。
「くおうのーっ」
その舐め切った態度に有紀は激昂する。顔じゅうの青い血管が浮き出てきた。右手が空気を掴んで、握り潰した。
「バンッ」
弾けたのは、いや、爆発したのは、サイドボードの上に置かれていた陶器製の置物だ。鮭を咥えた獰猛なヒグマであったが、サイキックの敵ではなかった。
「次はおまえだ。穢れたことわりのバケモノめ」
手応えを得た有紀は、今度は左手を胸の前に突き出して、手のひらをギュッと握りこんだ。サイドボード内のグラス類とガラスが粉々となった。鋭利な破片の数々が後ろから吹き付けるが、りん子は平然としていた。ただし握っていた肉塊は吹っ飛んでしまい、わずかな脂身が小さな手を濡らしていた。
「なんで外すんだ、チクショウ」
りん子の心臓めがけて握り潰したはずが、ダメージをまったく与えることができない。少女はよそ見をしながら鼻をほじるなど、攻撃を微塵も感じていない様子だ。有紀は大人としての、そしてサイキックとしての矜持を傷つけられていた。
「ふんぐっ」
さらなる気合と精気とエネルギーを注入し、再度手を突き出した。かぎ状に曲げられた指が震えながら閉じられていく。充血が過ぎた目玉が、ググっと突き出てきた。
テーブルにあった葡萄がパンパンパンと爆竹のように弾けた。さらに桃やメロンも砕ける。果汁が全方位に飛び散って、甘い香りが充満した。
りん子の周囲は芳香剤の匂いだが、有紀のまわりは中年夫婦の酒臭い吐しゃ物と腸内ガスが混ざった悪臭だ。集中力が途切れそうになり、苛立ったサイキックは、もう片方の手を夫婦に向かってかざし、ためらうことなく握った。
「ほへええ」
「ふえええ」
絶命してもかまわないと思っていたので、その握りに手加減はなかった。義男はバタバタ暴れながら放屁を繰り返し、一二三は悲鳴をあげて痙攣していた。
りん子がテーブルの上に乗っていた。空気がバチバチと放電しているさなか、なにが嬉しいのか腰を振って踊っている。女児らしくキレのない緩い動きだが、いちおうダンスを維持していた。
もだえ苦しむ中年たちにサディスティックな視線が注がれている。薬物によって、ある種の高揚感に浸ってしまった有紀は、本来の敵に対しての注視がおろそかになっていた。
突如として、女児が走り出した。迫りくる弾丸の気配に、有紀がハッとして気づいた。
「ぐへっ」
強烈なるとび蹴りが腹の中央に突き刺さり、後ろに転げた。みごと不意打ちを食らわせたりん子は、キャッキャと喜びながら跳ねまわっている。
「うわああああ」
呪縛から解放された中年男が起き上がり、溺死寸前な息遣いで目をまん丸に見開いた。ゲエーと締めの反吐で床を汚した一二三は、なんとか立ち上がってみたが、自分の吐き出したゲル状物資に足をとられて転倒した。
「ぶっ殺してやる」
お腹を押さえた有紀がふらふらとやってきた。たまたまそこに置いてあった扇風機を持っている。鬼の形相は相変わらずで、強烈な殺気を放ちながら少女を見下ろしていた。
りん子は小ばかにするように、フンと鼻を鳴らした。
「くおのーっ、クソガキャーッ」
まるで暴力体育教師の怒声か、新宿アウトローの恫喝であった。有紀は手にした扇風機を高々と掲げて、自分を見据えている小さな頭部めがけて振り下ろした。
「どわーっ」
その送風装置が女児の頭部を激しく損傷させることはなかったが、中年男の背中を強く打ち据えて破片が飛び散ってしまった。りん子に当たる寸前に、義男が抱き着いたのだ。
「あんた、あんた、大丈夫かい、死んだのかい」
一二三が、うしろ手で背中の真ん中を押さえて呻いている義男の背中を叩いた。
「なにするんだよ、このチンコドブス。うちの亭主を殺す気かいっ」
「うるさい、そこをどけ。ババアはすっこんでろ、ぶっ殺すぞ」
「こんな小さな子に、なんてことするんだ。おめえは鬼か、こんちゅくしょう」
背中が痛い義男だが、子供を救う正義の味方であることを示した。
「バカかおまえは。鬼はその子共だ。ジジイ、さっきの話はどこにすっ飛んだんだ。頭悪いのもほどがあるぞ。汚い顔して頭の中は空っぽなのか、アル中、マヌケ、包茎」
散々に罵倒されてしまって、義男はふと考えた。そして、ここに来る前に部屋で話し合ったことを思い出した。
「あ、そうか。このガキんちょは、あの世のバケモンだったか。忘れてた」
すぐそばに立っている女の子を見ながら、のん気そうに呟いた。りん子は、握っていたブドウの粒を義男に差し出した。
「なんだい嬢ちゃん、くれるんかいな」
りん子が笑顔で頷くと、義男はそれをつまんで、さも美味そうに頬張った。
「うん、こりゃあ、うめえや。ありがとな」と言って頭を撫でた。
「この、ボケジジイーッ」
義男のとぼけ具合に、有紀の癇癪が爆発した。ゲンコツを握りしめて、間のぬけた中年面に向かって一直線に突き出した。
だが、そのストレートパンチは、ごま塩頭の無精ひげ面の五ミリほど前で静止した。
「くっ、くっ」
青筋立てた有紀が力を込めるが、それ以上は一ミリも進まなかった。りん子が手のひらを見せていた。まるで念力で止めているかのようなスタイルである。
その手を横にサッと払うと、有紀の体が吹っ飛んだ。居間の内壁に激突し、石膏ボードに大穴を開けた。たいして硬くはない材質なのだが、衝突した本人は立ち上がれない。
「嬢ちゃんよう、なにしたんだ。いまのって脳張力か。やっぱバケモンはハンパねえなあ」
「怖いねえ。そこのお姉さんは死んじまったのかい。カッコだけはよかったんだけどねえ」
夫婦が他人事のように言う。有紀を助けるつもりも手助けすることもないようで、むしろ、りん子に親近感を抱いていた。
「あ、ガキんちょ、どこ行くんだ」
りん子が走り去ってしまった。有紀は、くの字に横たわって嗚咽を洩らしている。
「ほんと鉄砲玉だなあ、あのガキんちょは」
「あんたー、見なよ、あれ。見なって」
女房が指示を出しているのだが、亭主は、なにか食えるものが残っていないかと探していた。酔いがさめて、小腹がへったようだ。
「このバカ男っ。あれを見れっつってんだよ。なんかヘンなの来てるっしょや」
廊下から居間に何かが入ってきた。中を用心深く窺い、ゆっくりと忍び足でやってくる。豚の脂身の破片を指でつまみ、匂いを嗅いでいた義男が顔をあげた。
「ああ、なんだ、犬じゃねえか」
姿を見せたのは犬だった。かなりの大型であり、犬種としてはシェパードに近い風貌だが、飼い慣らされていない野性味があった。
「この家に犬なんていたのかい。それになんか臭いねえ。すごくケモノ臭いさ」
雨の日の動物園で寝そべるタヌキのような臭気がした。粘っこい涎をたらし、黄ばんだ牙を見せつけながらじりじりと近づいている。頭部を低くして攻撃の構えを見せつけた犬は、血走った眼で一二三をポイントした。
「なんか、あたしを見てるんだけど。イヤな予感しかしないさ」
「一二三、死んだマネしろ、死んだマネ」
「クマじゃないんだよ。そんなこと、できるわないっしょや」
女房の危機を悟った義男は、効果のほどは定かではない方法を指示した。だが、あきらかな生命の危機を前にして、一二三は亭主のたわ言に命を賭す気にはなれなかった。
犬は唸り声をあげ始めた。義男がブドウの皮を何度か投げつけたが、それらが届くわけもなく、また直撃しても少しのダメージも与えられないだろう。無駄なあがきであった。
「ヤバいねえ。たぶん狂犬病だよ、この犬。絶対狂犬病だって」
狂犬病と名指しされた犬は、喉の奥を響かせながら気迫と狂気を発散していた。一二三が後退しようとして尻もちをついてしまう。
「ひゃっ」
その刹那、犬が一二三に向かって跳びかかった。義男が止めようとするが、出足が遅過ぎて間に合わない。約一秒後には、その汚らしくも凶悪な牙が中年女の喉元を引き裂くことになったであろうが、それは寸前のところで回避された。涎をたらして敵意に満ちた唸り声を吐き出す犬の口は、一二三の顔の前で止まっていた。
犬の進撃を防いだのは、りん子であった。自分の体よりも大きな全長の獣を、尻尾をつかむだけで止めていた。鉄砲玉が戻ってきたのだ。
弱いところを握られた獣は、くるりと振り返って噛みつこうとするが、りん子はひらりと身をかわして首に抱きつき、さらに背中にしがみ付いた。
犬は暴れ馬のように跳ね上がるが、女の子を振り落とすことができない。無茶苦茶に暴れ、無軌道に突進し、壁やテーブルに激突し、しまいに夫婦に直撃した。勢いが相殺されぬまま二人そろってひっくり返り、床に後頭部を打ちつけて昏倒してしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます