三
怯える彼女をこのまま置いておくのも気が引けますが、私はこの作家の
「私も君の部屋の様子を確認してみようと思う。直ぐに戻るから大丈夫だ。待っていなさい」
行かないで、と懇願する彼女を宥め
「何もなかったよ」と彼女に伝えてあげよう、そうするときっと落ち着くだろうなどと考えなら部屋を出ようとした瞬間でした。突然窓の方からばん、と叩くような音がするのです。そして女の笑うような声が聞こえます。気の抜けていた私は肝を冷やして自分の部屋へ転がり込みました。
そんな私の姿を見て彼女は恐怖の色を顔に浮かべました。私は手が震えて鍵を閉めることすらできません。誰も入ってこないだろうと思い、そのままにしておきました。水を飲み、気分を落ち着かせました。平静を取り戻した時、ふとある疑問が浮かびました。それは先程の音を彼女は聞いているのか、というものです。もし彼女がその音を聞いていなければ、それは霊現象と考えた方が良いかも知れません。しかし音を聞いているならば、何かしらの自然現象と考えられます。
早速私は彼女に質問をしました。幾分か落ち着いた彼女は元の聡明さを取り戻しておりました。
「君、少し質問があるのだが、大丈夫かね。先程、何か不審な音がしなかったかね。私は君も部屋へ行ってからなのだが」
「ええ、しました。私の部屋の方からばん、と大きな音が。何かを叩くような音でした」
彼女の返答から私はある考えに確信を持ちました。それは窓を叩く音の正体についてです。窓を叩いていたのは外にある木なのです。止まない風に揺れる木の枝葉が窓に当たっているのです。それがあたかも人が外から叩いている様に聞こえていただけなのです。人の笑い声のような音もきっと風の音でしょう。私が彼女の部屋を出る際に鳴った大きな音も、丁度その時強風が吹いて鳴ったものでしょう。
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