二
酒が入っていた私は軽くシャワーを浴びると、直ぐに眠りに落ちてしまいました。どれくらいの時間が経ったでしょうか。ふと喉の渇きを覚えた私は夜中に目を覚ましました。風は止む気配がなく、外では木の葉が揺れる音が聞こえます。すると私の携帯に着信が入っていることに気付きました。それも一時間も前から何件もです。相手は担当編集です。何事かと思っていると、彼女から電話が掛かってきました。何か退っ引きならない問題でも生じたのでしょうか。心配になった私は直様電話に出ました。彼女は小さな声で話しかけてきました。
「ああ、先生。起きてらっしゃいましたか」
「どうしたんだい、こんな夜中に。何かあったのかい」
「そうなんです、先生。実は外から窓をコツコツと叩く音がするのです。人の声が聞こえてくるのです」
震える声でそう彼女は伝えてきました。私達の部屋はホテルの三階にあります。ベランダなどもございませんので、誰かが外から窓を叩くなど到底不可能です。
「落ち着きたまえ。私の部屋に来なさい。そっちの方が良いだろう」
彼女に伝えるとはい、と返事をするや否や、彼女は私の部屋に飛び込んできました。その顔は蒼白く、相当な恐怖を感じていたことを物語っておりました。
彼女に水を飲ませて、落ち着かせたところで事情を聞きました。彼女の話では、一時間ほど前からその音は聞こえていたそうです。最初は気の所為だと思っていたのですが、時折ばんばんと強く叩く時もあったそうです。
疲れ果てて眠りこけていた彼女も流石に目を覚ましてしまいました。またよくを澄ましている、外から人の声のような音も聞こえてきだのだそうです。この部屋には何かがある。そう感じた彼女は、恐怖に耐えながら部屋を探りました。すると隠すように御札が壁に貼ってあったそうです。そして勇気を振り絞りカーテンを少し開けて外をみたのですが、そこには何も無かったのです。「信じたくありませんが、きっと心霊現象です」と震えながら彼女は話します。当然私も恐怖を感じていたのですが、それ以上にある思いが胸を突き動かしていました。好奇心です。作家の性とも言える抑えようも無い興味が湧いてきたのです。
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