窓から呼ぶ音
裕理
一
作家である私が、当時の担当編集と共に一泊二日で取材旅行に出かけたときのことでございます。その日は風が強い日でした。私達は朝から車を借りて、目的地から目的地へ働き蜂の様にせかせかと飛び回っておりました。日も暮れた頃になりますと、クタクタのぼろ衣の様に疲れ果てておりました。無理なスケジュールを組んだことに加え、強風が私達の邪魔をし、体力を奪ったのです。
私達は疲れ切った体に鞭打って何とか予約していた宿に辿り着きました。古くから営業しているようなビジネスホテルです。駐車場には何本かの木が黒々とした葉を風に揺らしておりました。その姿は日本画に書かれた女の幽霊のようでした。そのせいで何やら気味の悪い雰囲気がしておりました。担当編集と何か良くないものが出てきそうだね、と話したことを覚えております。中へ入ってみますと、やはりロビーは何やら暗く、陰険な感じがしておりました。客室は当然綺麗にしておりましたが、古い造りをしておりました。今時のオートロックなどはなく、壁紙や置いてある家具が時代を感じさせました。
素泊まりでしたので、ホテルの近くにある飲食店で簡単に夕食を取りました。酒も入り、ほろ酔い気分の私達は部屋の嫌な空気のこともすっかり忘れてしまい、明日の予定や今後の創作活動について熱の籠もった話し合いをしました。
ホテルに戻り、私達はそれぞれの部屋へ入りました。担当編集は私と同じ歳頃の女性でしたので、部屋は別々に、隣同士で取っておりました。
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