98話 なにが願いか…①
「ねえ、リツ……いつまで、こんなことし続けるの」
「こんなこと?」
「……この薬、毒。だよね」
昨日渡した小分け袋を見せられる。なんだ、まだ使ってなかったのか。
「ユウちゃん、それは違うよ。それは開放するお薬。君だって飲んで育ってきたでしょう?それの効能違いみたいなものだよ」
大麻にケシ、一般流通しているものだとセントジョーンズワートやフィーバーフューなど、それらに慣れさせて育ててきた子供だ。だから薬に大して疑問を持つわけがない。どこでそんな知識を得てきたのかと思う。まあ十中八九学校教育だろう。
「でも……おれが、薬を飲ませた人たち、みんな死んで……」
「死ぬことは悪いこと?」
「それは、悪いでしょ。殺人は」
「社会が言う罪ってのはね、強者のためにあるんだよ。だから信じちゃダメ」
「……」
憲法はともかく……いや、色々と言いたいことはあるのだが、法律なんてものは政治家が自分の実績作りのために作るようなものだ。彼らにとって都合がいいよう、まあ都合というものに諸々と含まれているのだろうが、国を回すためにあるにすぎない。一般庶民が住みやすくする、というのは彼らにとっても都合がいいのだ。
「そもそも、じゃあ殺人罪って何?ってことだよ。死にたいって思っている人に情けをかけることすらこの国は認めていないんだよ?それが本当に正しいと思う?唯一刑罰に処されない人殺しが自殺と死刑執行だけなんだよ。おかしいだろう」
「……」
「死ぬっていう人生最後の締め括りを、本人の采配に任せないってのは節穴だと思わない?」
「それは……そうかもしれないけど、さ……でも、おれが薬を飲ませた、人たちって、別にそんなこと望んでたかどうか」
「僕たちの教義は?」
「……『疎外され続けた魂にこそ、極上なる輪廻が与えられる……』」
「そう、いわば彼らは社会から疎外された、そろそろ次の人生を待つ魂なんだよ。だけれど、彼らはこの真実を知らないから、ずっと生き続けてしまう……だから、僕たちが送ってあげる必要があるんだ。ユウちゃんは賢いからわかるよね?」
「……そっ、か……」
「えらいえらい。流石僕の認めた子だ」
そもそも、ずっとこの環境で彼は育ってきたのだ。それに本人に悪いことの自覚があろうとなかろうと、人殺しというのは精神的に負荷を負う。それを僕の言葉と薬で楽にしてあげる。それを繰り返して繰り返して、僕なしで生きていけなくなってしまえばいいのだ。
「リツはさ、どうしてこんなことしてるの?」
「みんなを幸せにするためだよ?」
「リツが思う、幸せって。なに?」
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