14話 2番目の窮愁
「とりあえず絶対安静。……無理してた?」
「多少……は……」
「……そう。考えるなっていう方が無理だけど、ちゃんと休める時は休んでね」
「わかった……」
静かに戸が閉まる。せっかく学校や買い物くらいには出歩けるようになったというのに早速これだ。朝からだるくて動けないな、と思って熱を計ったら38度台。喉がガラガラだったので水を飲んだら、うっかり気道に入ってしまって、そのまま咳込んで軽度の発作を起こした、というのがこれまでのオチだ。まだ軽く息が上がっている。胸元が焼け爛れるような感覚と、薄暗くなる視界。咳き込むともう全身の倦怠感がひどい。
ただ、息苦しさを覚えると安心した。ああ、これがおれだ。人に縋って、迷惑をかけて、そうやって生きていくしかないおれだ。
物心ついた時からずっとこうだ。すぐ息を切らして、すぐ気道が狭くなって。昔よりはまだ見栄えがする体調になったものの、それでも普通の人々と比べたら自分は弱っちいし、到底一人で生きていける人間とは言い切れない。
「ほんと、かっこわる」
個性だとか、自分だとか、そういうことを大事にしなさいなんて言われるけれど、よりによってこんなものを持っている自分のどこを大事にしろというんだろうか。折角なら、もうちょっと別の何かが欲しかったと心の底から思う。じゃあなにか自分に才能があるか?この弱点をカバーするほどの人間性はあるか?ないのは自分がよくわかっている。
母さんじゃなくておれが殺されればよかったのに。そうしたら、少しは悲しまれるかもしれないけど、母さんほどのダメージはなかったはずだ。
『体調悪いときは考えたらだめ、それでも考えたいなら楽しいことを考えて』
『母さんも、みんなもみっちゃんのこと、大好きだからね』
……母さん。なにも恩返しできなくてごめんね。こんなにめんどくさい人間を育ててくれたのに、なにも返せなかった。
ただ、こんなに手が掛かるおれのことを見捨てないでいてくれた家族のことを、大切にしたかった、それだけなのに。母さんは、いつもおれに無理しないでとか、そういう言葉をかけてくれて、それがものすごくおれには自分のしたいことが否定されているようで、その優しさがずっと辛くて。
それすらも間違いだと言われるのなら、おれが生きてる理由って、一体なんだというのだろう。
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