11話 被害者の告白

「やっぱりキミ、何か知ってるんじゃないか?」

「知ってたら言ってますよ」

「そう……」


 白、ではなくグレーゾーンとして見られているのだろうというのは自覚があった。多分オレの行動規制が緩いのも泳がせて情報を得るためだ。多分つけられている。別に構わないけれど。


「……捜査は、どうなってるんですか」

「死亡推定時刻は朝の4時30分から5時15分。凶器は刃渡り28センチの包丁、見つかってはないけれど検視の結果からはそう出てる。胸元の傷は大抵肋骨までで止まっていて、直接の死因は腹部の刺傷」


 あらかた予想通りだ。腹部の大きい刺し傷、他にもまだらに刺した後があって、仰向けにされていた。


「んで、まあオレが防犯カメラに映ってたのが4時50分を過ぎたあたりだったんでしたっけ。じゃあまあ白じゃないっすね」

「そうだ」

「何か知ってるか、なんて抽象的な質問じゃオレも答えられませんよ。オレだってカオリさんが殺されたことには腹が立ってます。協力できることなら詳細に答えます、だからそんな曖昧な聞き方しないでもらっていいですか」

「…………」

「それか、何か問題でも」

「……聞きたいことはある、けれどそれを聞いていいものかわからない」

「どういうことですか」

「……キミは、自分がどこの子供だか、わかるかい」

「知りません、教えてもらえるなら教えてください」


 ずっとそれが知りたくて生きてきたのだ。別に親がどこの誰かなんてどうでもいい、どうして自分がここにいるかだけでも知りたいというのに。


「……」

「なにを勿体ぶるんですか」

「いや、なんでもない」

「そんなこと、カオリさんの遺物の中に資料かなんかあるもんじゃないんですか!?なんで言わないんですか!?隠すくらいならちゃんと言ってくださいよ!!そもそもそんなに気になるなら、DNAでもなんでも調べればいいでしょう!?」


 わかっていた。なにかきっと普通の孤児とは”違う”ことは。だって、おかしい。なんで自分は施設にくる前の記憶がほとんどない?物心はとうについていておかしくない年齢だったはずなのに。


「……はぁ……オレたちはいつ施設に戻れますか」

「……」

「戻れないのであればそれでいいです。ただ、カオリさんの遺したものを、見せてもらうことはできますか」

「だめだ」


 そんなこと言われたら、意地でも知らなくちゃいけなくなる。


「……オレは何も知りません。何も知らないけど、一つだけ覚えていることはあるんです」

「覚えてる?」

「オレ、昔。頭打ったってまえ、話したじゃないですか」


 じわり、と後頭部が熱を持った気がした。今でも天気が悪い時は古傷が痛む。




「そのとき、怪我をさせた……オレを突き落としたのは、カオリさんでした」




 何を言ったのかは覚えてない。ただ、彼女に聞きたいことがあって、それを尋ねた。

 そしたら、すごい勢いで体を押されて、突き落とされた。

 気が付いた時は病院のベッドの上で、体が全く動かせなかった。


『ごめんね……ごめん……』


 目が覚めたばかりのころ、そうやって彼女はオレの隣で泣いていた。なんで泣いてるの、聞きたかったけれど声の出し方がわからなかった。

 体が思ったように動くようになったのはそれからだいぶ後のことで、ずっとずっと聞けないまま彼女は死んでしまった。あの時なんで泣いていたのか聞きたかったけれど、聞いたらまた悲しそうな顔をされそうで、オレはなぜだかカオリさんのそんな顔だけは……絶対に見たくなかった。

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