第28話 黄鱗きいろ

「話は聞いていましたねチュパカブラ」

「吸血鬼……」

「私たちはこれから口裏を合わせて事件を隠滅します。あなたも協力してくれますよね」

 まだボソボソとアイデンティティを主張してくる人外(暫定)を見下ろします。

 まあ呑むでしょうね。メリットしかないはずですし。

 しかし等々等期さんはきょとんと首をかしげました。

「え? 嫌だけど?」

「は?」

「そもそもさあ、僕としてはヤバい男がオーナーのペンションだっていうから、何か犯罪が起きないかなってウキウキしながら来たわけよこっちは」

 はーやれやれと等々等期さんはためいきをつきます。

 何? 突然黒幕ムーブですか? フィクサーになるには知性もカリスマも足りないのでは?

「それがさーーーつまんない! 人が死んで、そこに探偵がいあわせるとか最っ高のシチュエーションじゃん! どうしてこうなるのさ! もっと醜い人間ドラマとか見せろよー!」

「はあ」

「ばーかばーか! 脳みそ小さい短命種ども! お前らの悪事なんてさっさとバレて破滅しちゃえ!」

 等々等期さんは無様に縛られたまま、ぎゃーぎゃー騒いでいます。

 私たちはそんな彼から距離を取って目を見合わせました。

「ひそひそ……これさぁ……」

「ぼそぼそ……爆弾……」

「こそこそ……いっそ派手に……」

「あのっ、あのっ……」



 ペンションモブは爆発炎上していました。

 いやーよく燃えますね。このペンションにこびりついた人の業もきっと浄化していくことでしょう。

 送り火というやつです。名も知らぬ被害者の方々、どうぞ安らかに。知らんけど。

「じゃ、帰りますか」

「うん!」

「そうね」

「そうだな」

 ザッ……とクールな足音とともに、私たちはペンションを後にするのでした。



**


***


 瓦礫の山となったペンションの跡地。

 その上をぴよぴよと飛び回る小さな影があった。

「ご主人たまぁー……! どこでちかぁー……!」

 手のひらサイズの喋るコウモリは、めそめそと泣きながら誰かを捜し回っている。

「ご主人たまぁーーーーー!」

「チッ、ここ、ここだよ、クソが……」

 積み重なる瓦礫の下から覗いた手首がぱたぱたと動かされる。

 ぽんっと音がしてコウモリは人間――魚囃子へと姿を変えた。

「ご、ご主人たま! しっかりー!」

 魚囃子はあわあわしながら瓦礫をどける。その下から現れたのはボロボロになった等々等期であった。

「あんのクソ人間どもが……証拠隠滅に邪魔者ごと爆破するとか人の心はないの!?」

「ご主人たまは人ではありまちぇんが……」

「うるさいな使い魔は黙ってろよ!」

「ぴぃーー!」

 大声に驚いたのか、ぽんっと音を立てて魚囃子はコウモリの姿に戻る。

 等々等期は悔しそうに歯ぎしりをした。

「特にあの探偵と鬼畜助手……近いうちに絶対に目に物見せてやるからな……」

 

「フフ、クク、フハハハハハ!」


~第一章 完~

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