第27話 青柴織部

 ぎゅむっと私はモキョ先生の足をかかとですりつぶします。

 そもそも! あなたが! ホウ酸団子を食べて死ぬからこんなややこしい事態になるんでしょうに!

 まとめるとこうなります。


 ・すでに客を一人屠っていた音猫さんが、モキョ先生を狙う

 ・が、モキョ先生の持っていたバナナの皮で滑って転んで死亡する

 ・それを見つけた等々等期さんが血を抜く

 ・次にそれを見つけた邪気さんが恨みとびっくりさせたい気分で解体する

 ・さらにそれを見つけた喪符松さんが犯人をあぶりだすべくあちこちに置いた

 ・そしてそれを見つけた魚囃子さんが証拠隠滅もかねて多めに死体を回収した

 ・モキョ先生がホウ酸団子を食べて死んだ


「わっかるかー--!!!」

 私はその場にうずくまって叫びます。

「わかるかぁ!!! せめて全員で秘密を共有して隠ぺいして事態が入り組むとかにしろー--ッ!!!」

 まともに犯罪をしていたのが被害者って何ですか!?

 マーダーミステリーやTRPGだったら卓ぶん投げて大乱闘ですよこんなの!! GMは鼻にダイスを突っ込まれてもおかしくない!! このシナリオを書いたのは誰だァ!!

 床に額を押し付けて嘆きます。

 蜂蜜、まだまだ修行が足りません……。こんなことでいちいち騒ぐなんて……。

 いや騒ぐでしょ(自己弁護)。

「『全員、アホ』ってなんだー--ッ!! これじゃアウトレイジじゃなくてアホレイジじゃないですかー--ッ!!!」

「ハニーちゃん」

 隣にしゃがみこんで肩をたたき、モキョ先生が慈母のようなまなざしで私を見ます。

「スタンドプレーから生じる、チームワークだったってことだね」

「よく分からないままアニメの名言を日常に活用するのやめたほうがいいですよ先生」

「人のこと言えないよ~」

 頬をつねり上げて笑い男にします。

 いひゃいよ~と言っているモキョ先生を見ているうちに気分が落ち着いてきたので立ち上がってズボンをはたきます。

 犯人一同はドン引きした表情でした。なんですか、見てはいけないものを見てしまったみたいな雰囲気。

 手を数回叩き空気を変えます。 

「今から作戦会議――いえ、口裏合わせをしますよ」

「「「口裏合わせ」」」

「もし協力してくれないなら爆破します」

「「「爆破」」」

 みんなで仲良くハモるんじゃない。

 モキョ先生は冷蔵庫をあさりに行きました。もう死ぬような物品はないので大丈夫でしょう。

「真相はオーナーの自爆で、事故死だったというわけですね」

 手を煩わせてくれちゃってえ……。

「思った以上に自業自得でびっくりしたわね」

「悪いことしていると自分に返ってくるって本当だな」

「ダーウィン賞を受賞できそうですね……」

 よっぽど恨みがあったか、どうでもいいのか、平然とした顔で皆さん発言します。

「私としても、色々と隠ぺいしたいことはあります。なので一つどうでしょう」

 ピン、と人差し指を立てました。

「この事件は『クソデカ蚊に襲撃されてオーナーが死亡』で終わらせませんか。私がどうにかするので」

 正確にはお兄ちゃんとパパがなんとかします。

「それ採用するんですかぁ!?」

 魚囃子さんが目を見開きました。ムキッ!!

「ひゃあ!!」

 よし……。キュートマッスルに畏怖するがいい。

「まあ私たちはそれでいいなら都合がいいけれど……」

「こちらとしてもありがたい話ではあるが……」

 話が早くて助かりますね。もうすこし謎解き中も話を早くしてほしかったんですけどね。

 喪符松さんはためらうように「あの」と言います。

「クソデカ蚊のせいで構わないから、もしも捜査中に死体が――私の兄の死体が見つかったら教えてほしいんだけど」

「え?」

「もともとは兄のペンションだったのよ。だから『ペンションモブ』でしょう?」

「ああ……確かに」

 途中までは覚えていたのですが、後半ほぼほぼ忘れていました。

「絶対音猫のせいだとは思っていたけど、証拠も死体も見つからなかった。だからいつか尻尾を掴もうと手伝いで入ったんだけれど――まさかそんな死に方をするなんて」

 あちこちに死体を置いた人間とは思えないほどしんみりした理由でした。

 なんでアホ事件のなかでこういうシリアスな事情が混じっているんですか。温度の高低差でグッピーとモキョ先生が死んじゃう。

「できる限りはどうにかします」

「ありがとう」

 いろいろこの人にはムカつきましたけど、そういうことがあったんですね。ムカつきましたけど。

 さて、承諾も得ましたしあとは――。

「……そろそろ縄解いてくれない?」

 あのチュパカブラをなんとかしなければ、ですね。

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