閑話 バカVS都市伝説!
目を覚ましたらきさらぎ駅にいました。終わり。何もかも終わりですよクソが。
なぜきさらぎ駅に?
モキョ先生がいるからです。これ以上の説明がいりますか? あの人はトラブルと怪異に好かれやすいんです。
当然そばにいる私もとばっちりを食らうわけで。
「あ~~」
二日酔いの兄みたいな声が出ました。
ベンチから身を起こしてあたりを見回します。
すぐ上には駅名――きさらぎ駅と書かれた看板があります。上りと下りの駅名は少なくとも12カ国の言語には該当せず読めません。
足元にはバカが転がっていました。
「先生起きてください」
つま先で小突くと、むにゃむにゃとか言いながらモキョ先生は寝返りを打ちました。
いや、起きろよ。
「起きてください。現在地はウキウキファンタジー空間ですよ」
「え!」
すかさずぱっちりお目覚めです。おはようございます。
好奇心だけで生きるな。
「ここどこ?」
「きさらぎ駅です。このままだと帰れなくて死ぬみたいですよ」
「へー」
反応が薄い……!
まあ死んで困るのは私だけですが……不死身の悪いところですよそういう余裕。
しかしどうしたものでしょうこの状況。
この蜂蜜、様々な技術は修めてきましたが、こういうオカルティックなのはあまり得手ではないんですよね。
「じゃあさーハニーちゃん」
「なんですか」
「この駅燃やしてさ、助けが来る目印にしない?」
「………………」
モキョのくせに割といい考えですね。それでいきましょう。
目指せきさらぎ駅RTA。これが一番早いと思います。
「ライター持ってます?」
「うーうん! シガレットチョコはあるよ!」
「じゃあ薪は先生でいいですね」
私は冷静に言い放ち、ティッシュを取り出してくしゃくしゃに丸めます。カバンからキーホルダーに偽装したファイアスターターを取り出してこすりました。
火がつきます。手帳を出して過ぎた月のページを破き、さらに火を安定させました。
「このまま駅舎に引火させます」
引火しました。風がないからちょっと威力も勢いも弱いですね。
怪異世界って無風なんだ。初めて知りました。
などと考えているとかすかに祭囃しが聞こえてきました。なんか片足のない老人か叫んでますし。カオスですね。
こちらがRTAしたからバグりましたか? デバッグしないあなた方が悪いんですよ。
「燃え移っちゃった!!」
「おめでとうございます」
なんで燃えてる建物に近寄るかな。バカなんですか?
幸い火種は小さく、ばたばたしてるうちに消えました。
さて……そろそろ怪異も逃げ出してほしいんですけどね。
腕を組みながら次を考えているとモキョ先生は「ちょっと降りてみるね!」と柵のないホームから道路へ降ります。勝手に歩き回るな。
その瞬間、突然現れた車に跳ね飛ばされました。めちゃくちゃ飛ぶ。落下したモキョ先生を眺めていると、運転席から男がなにか叫んできます。が、全く聞き覚えのない言語です。
やれやれ、人を轢いたショックでこちらがわの言語も話せなくなりましたか? 雑魚め。
「それより過失致死傷罪ですよ。怪異に日本の法律通じるかは疑問ですが」
「☓☓☓☓☓!!」
「それよりどう帰ればいいんですか?」
ため息交じりに呟くと、後ろから――線路から声がしました。
「迎えに来たよ」
うわ怖!!
モキョ先生の兄、桃弥さんでした。
「なぜここが……!? というか、どう来ましたか!?」
「そりゃあかわいい弟のためならお兄ちゃんは火の中水の中怪異の中いくさ。徒歩できたよ」
コンビニ行くみたいなノリで……。
運転席の男を、桃弥さんは自身の影でさっくり排除すると(あまりにファンタジーすぎますがもう何も言いません)転がっているモキョ先生をよっこいしょと持ち上げました。
「ハニーちゃん、モキョには道路に出る前に右左見るよう継続して伝えてくれないと」
「申し訳ありません……」
今回私わるくないのに……。轢いたの、いきなり現れた怪異なのに……。
「モキョは羽のように軽いなあ」
「正気ですか」
燃え盛る駅を後ろに、私たちは現世へ帰ったのでした。
おわり
迂闊探偵を殺さないのは難しい 黄鱗きいろ @cradleofdragon
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