第25話 青柴織部

 え!?

 ばっと振り向くと、バカ、もといアホ、もといマヌケ、もといアンポンタン……もとい、モキョ先生がむにゃむにゃとしながら上体を起こしています。

 い、い、生き返ってる!?

 おかしい、だってモキョ先生は死んでから六時間しないと生き返らないんですよ!? そしてほんの十数分前に私は一回殺しています。いえ殺していますなんて言うものじゃないんですけど。

「え……。さっき死んでいたんじゃ……」

「あーっ、あーっ、多分仮死状態だったのでは!?」

 だまされるか!? どうだ!?

 駄目ならば今すぐ部屋に戻って火薬をしかるべき手段で爆発させて謎ごと爆破させないといけないんですけれども!

「なるほど」

「仮死だったなら生き返るか」

「あり得ますね」

 バカでよかった~! 普段の行いがよかったからですね!

 ともかく目前の問題をどうにかしましょう。

 蘇るのには早すぎる――!!

 なにか異変が起きたのでしょうか? まあこの一族、異常が起きることが平常ですけどそれはともかく。

 犯人一同へ向かって手でタイムの形を作ると、モキョ先生のほうへすっ飛んでいきます。

「ちょちょちょちょっと待ってください。最近なんか変なもの食べました!?」

 変なことは普段からとてもよくしている(強調)ので、今更それが生き返りRTAに影響するとは思えません。

 だとしたら何か口に入れた――経口摂取したものによる影響ではないかと考えたのです。

「うーん、家の裏にいたカナブン? 口の中ちくちくした!」

「お家でもっと美味しいものが用意されているのになにしてんですか。違います、ペンション内でです」

「えーとえーと……あ! 等々等期くんとねえ、いっしょに夜食を食べたんだけどね」

 多分生首を見つける前のことでしょう。

 私が部屋でだらだらお嬢様見習いVTuberによるゾンビゲーム実況動画を見ている間にそんなことしていたんですか……。嫌になってしまいますわ~……。

「包丁で手を切っちゃってて、ちょっとだけ血が料理に交じっていたんだった!」

「はあ!?」

 この人、違和感を覚えてもその場で言わない悪癖はあるとはいえ……。

 人の血が混じっているんですよ? いくらなんでも不衛生では? お料理チャンネルなら炎上必須ですよ。

「何を作っていたか分かりませんが、等々等期さんは気づかなかったんですか?」

「うん!」

「なぜ……」

「オムライス作っていたからケチャップの色と混ざって分かんなかったんだね!」

 名推理ですねアホ。

 夜食に作っていいものではないだろ、オムライス。

 ペンション内の冷蔵庫にある調味料は自由に使っていいとはいえ遠慮のかけらもない使い方をするな。私がオーナーの立場ならキレていましたよ。

 ――まあ。

 現在進行形でぶっちぶっちにキレていますけど……。顔には出ないタイプなので。

「それを一緒に食べて? こんな早く目を覚ましたと?」

「だと思う!」

「等々等期さんはただのアホ死体損壊犯で……」

 いや、待てよ。

 生前何回も「自分は吸血鬼」って言っていましたよね。おかしいな……。もしかしてあれ、本当なのかな……。

 モキョ先生一族は不死とカリスマ性以外は特に能力がありません。つまり特別強くないので私たち三橋一族がサポートしているわけですけど。

 なんだっけ、そういえば昔パパが言っていましたね。


 ――世界は広いからね。六梨一族以外にも不老不死であったり、ヒトではない知的生命体がいるんだ。

 ――滅ぼせばいいのに。

 ――蜂蜜。

 ――ごめんなさいパパ。

 ――だから近い将来、会うことがあったなら……刺激しないですぐに六梨家と三橋家に報告するんだよ。しかるべき手段でどうにかするからね。

 ――そんなオオスズメバチの駆除みたいな。たとえば、どういう知的生命体を想定しているんですか?

 ――いい質問だ。六梨家の始祖様……モキョ様のおじいさまが珍しく警戒している種族がいるんだ。それは、


 ……本物(マジモン)の吸血鬼(ヴァンパイア)ってこと……!?

 絶賛死んでいる等々等期さんに視線を走らせます。

 あんな馬鹿が!?

「……、……」

 思考回路がショート寸前になってきました。

 月の光に導かれたいところですが、あいにく外は悪天候。自分の歩くところは自分で切り開けってことですねクソが!

「話を戻しましょう。先生、あなたが殺したってどういうことですか?」

「それはとても長い長い話になるんだけど――」

 モキョ先生はシリアスモードの顔になりました。こんな顔、チョコケーキかショートケーキで悩んでいる時ぐらいしかみたことがありません。

 私は生唾を飲み込んで次の言葉を待ちます。


「あれは、僕がバナナを食べながらペンション内を散歩していた時のことなんだけど――」


 あ、もうだいたい予想がつきました。

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