第79話・大聖樹の決戦4

 八つの首が消えた。ロザリオの秘術は二つも首をかき消したようだ。


 残ったのは脈動する紫の塊。それから羽が生える。雄叫びを上げ、紫の液体と隠された魔法陣を展開して、花の蕾から浮かび上がる虫。


 ハエのような姿をしていて、忌々し気に唸り声をあげていた。


「あれは?」


「回復、魔法? 大聖樹に危害を加えていた術式は、回復魔法ですか!?」


 真っ赤になって湯気を立てているロザリオを控えさせているとミコトは愕然と言う。


「なるほど、回復魔法でなにかしら大聖樹にダメージを与えて、暴走を引き起こしたってわけか」


「なら、それなら仕組みは分かります」


 大聖樹は生命を司る存在でありデリケートな存在らしく、その大聖樹が必要以上に力を貯め込んで異常を探知。大樹の兵士達がそれを治そうとするが、どこも異常なぞない事態。


 回復魔法を長時間かけ続けると人はどうなるか、今後の考察に使われそうだ。とりあえずネタは分かった。なら後は解決編と行こうか。


 憎々しげにこちらに怨嗟の声を上げるハエの王に対して、白薔薇は両手戦斧を構え、バンダナは剣を構える。


「さてと、この状態ならもうHP削るだけで良いな?」


 まだだ。そう呟いた瞬間、朽ちた身体の亡骸ドラゴンがすっ飛んで来た。


 鎖などの部分が肉塊が欠けて、ボロボロの亡骸ドラゴンの頭部に沈み込むようにハエが一つになる。


 石舞台と亡骸ドラゴンが一体化して、蕾は頭上、天へと上げられる。


「いいね、第二ラウンドだ」


「了、殲滅プラグラムを遂行します」


「彼女のために、お前を倒す」


 ここに最弱の勇者と機械人形、そしてトリッキーなプレイヤーの戦いが始まった。


 ◇◆◇◆◇


 なぜだ。そう彼らは思った。


 陸の封印、魔術蠅ベルゼブブは混乱している。


 ベルゼブブは実はGMが動かすボスモンスターである。ムカデの時から精鋭のGMプレイヤーがチームを組み、プレイヤーを追い込むように訓練していた。


 だがそれでもありえない動きをされると挫けそうになる。


 白薔薇は良い、この子のいまのAIレベルはかなりの上位に入り、かなり戦闘特化に育ったNPCだ。高出力のアタッカーとして五本の指に入るほどダメージソースをたたき出す。兎が優先しているからか、NPCの中では確実に実践慣れしたアタッカーだ。


 バンダナはさじを投げた。本来なら最弱モンスターの一角であり、育ってもそこそこのはずなのに、オウマと言う太刀のスペシャリストから闘気術を聞き、推測の枠を超えて強くなった最弱最強モンスターだ。だから良い。


 だけどあんたは違うよね?


 鎧姿でバク天をしながら火魔法を使いチクチク攻撃しつつ、バンダナと共に白薔薇のサポートに回りながらチクチククリティカルダメージを稼ぐ男。


 戦闘の裏でGM達の怒声が飛ぶ。決して兎から目を離すなと言う声と共に、白薔薇への警戒しつつ、ノックバックで石舞台から落とそうとするが、兎が阻む。


 なぜかずっとニヤニヤしながら戦う兎に不気味に思う中、マーリン、カリバーがやってくる。


「くそ、前出てくれれば人体に有害な毒攻撃出せるのに」


「毒に警戒しているのか、ずっと後ろに控えてる。いまロザリオ動けないから潰すチャンスなのに」


「ルールは守れ、一定ラインまで近くにいないキャラは放っておき、近いキャラから潰すんだ!」


 それからは白薔薇にダメージを稼がせ、全員がサポートしたりする。ラストアタックを白薔薇に渡す気かと思いながら、彼らは必至に戦う。


「………あれこれって」


「魔法攻撃どうした!? 酸の雨で穿てないか」


「………いやたぶんこれバレてる」


「バレるってなんだよッ。もう回復魔法で異常を引き起こしていたのバレてるだろ!!」


 そう言いながら、兎達もハンドサインでなにか話し合っている。こういうときログ確認したいが、それはさすがにやりすぎだろう。


「いやたぶんだけどこれ」


 中身あることがバレてるだろう。その言葉にGMプレイヤーはなにを言いたいか分からず、そして気づく。


「モンスター戦から得意の対人戦に切り替えてこっちを追い込んでるだと………」


 それに気づかれた兎達は、すぐに動く。


 明らかにこちらの視界、システムアシストを受けているのに気づかれた視界からの光魔法で目くらまし。


 すぐに光をシャットダウンシステムが機能して光は開始したが、バンダナを見失った。


 すぐに探すとクロに乗ってライダーしていた。機動力が上がり追いつめられる。


「そろそろブレス攻撃入ります」


 そう言って自動的に入るブレス攻撃のモーションに入ると、兎が口の傍に飛び、アイテムボックスから大岩を取り出した。はい?


「なんでそんなん持ってるの!?」


 口を塞がれ、暴発するブレス。そして………


「対人戦もう少し勉強して来いウンエーさん」


 ラストアタックはマーリンの最大までに溜めた魔力攻撃であった。


「………今度プロ呼んで対処してもらうしかねえぇぇぇぇぇぇ」


 倒されたGMプレイヤーはそう叫び声をあげ、最後の最後でバレちゃいけないところがバレて終わったイベントであった。


 ワールドクエスト・陸の封印、元凶撃破。


 プレイヤー達はとりあえず勝ったことを喜んだ。

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