第74話・現実世界

 上条って聞いたとき、もしかしてと思ったら、マーリンは上条グループのお嬢様だった。


 アリスがだから分かったのかと魂が抜けたような顔で見て居る。おそらく逃げられないと言うか、被害者と加害者の関係だから色々感情がぶっ飛んだんだろうな。


「その辺はどうなったんだよ」


「あー、物凄く大変?」


 アリスの顔が青ざめて泡吹きそう。まあまあとマーリンが落ち着かせる。


「正直、パパさんを無罪にするのはごたついたよ? 元々回線繋いでないノートパソコンで時間外でもゲーム調整して発売日に間に合わせた実績はあるけど、稼働中も同じ感覚でデータを外に持ち出して調整してたのがあの件に繋がるから、スポンサーとかがうるさかった」


「娘が盗めたからおかしいとは思ったが、データを外でも調整してたのか」


「ぶっちゃけ、バグが無いのはパパさん筆頭に、残業チームと責任者が時間外でもゲーム調整してるからかな? 運営に至ってはチーム分けして交代交代で必死にしてる。その分のリターンが入ってきたから、なんとか株も右肩上がりだけど」


 そんな中で情報の漏えいは痛かったらしく、賛否両論だったらしい。


「とりあえず減給するだけでパパさんは地位をそのままかな?ってのがウチのお父さんの理想だけど、落ち着いたりしたらやっぱり席を外してもらう可能性はあるって」


「………そんなの聞いてない」


「んー正直、現場スタッフチームはそれはやめてほしいのが本音だよ。パパさんが居なかったら、そもそも正式稼働も怪しかったレベルだから。席を外すのならゲーム終了時に共に引退するとか。本人はそれで良いって言うけど、ウチは後3年くらい稼働させたいし、引き続きスタッフにいて欲しいのが現場の本音だから、そっち優先」


「おっ、3年も遊べるのか」


「うん。上位スキルや引き継ぎで新しい要素組み込んだり、病魔編が終わったら新しい敵出したりしてね」


 いまの調子なら2年は大丈夫だろうと言う話をしながら、アリスを落ち着かせる。そもそもスポンサーにもちゃんと話をして、辞めさせるのだけは止めてるらしい。


「そっちより問題は獅子戦記のギルマスの方だよ」


 マーリンが目が笑って無い顔で呟いた。話を聞くとこっちは話を小さい内に終わらして示談なりなんなりで終わらそうとしたらしい。正直初のVRMMOゲーム。どんな理由であっても悪目立ちは避けたいところ。


「なのに鬼の首を取ったように話を大きくしようとして、火消しが間に合わない」


「……一応聞くが、ギルマスの罪状って」


「恐喝でしょ、ゲーム内の暴力をどう判断するかでしょ? 営業妨害も適応されそう。それを話し合いだけで終わらそうとしたのに、裁判までやり始めて………マスコミ対策が大変になったから、よけいパパさんには外れて欲しくない状況」


 これ以上聞くのはやめておこう。マーリンもその方が良いよと言って、アリスには気にするなと言う。アリスは複雑そうな顔をしているが、諦めろと俺は言っておく。


「副ギルマスが行動してなくても、あのギルマスならなんかしてたって。噂だったけどリアルマネーでアイテム交換したって話もあったろ?」


「それは、だけどさすがにしてないと」


「待って、いま裁判起こす家の子としては無視できない情報だけど」


「確証が無いから無理だって」


「無理じゃない。ゲーム内会話なら、ログが永久保存されてる。β版からずっと。いまもしっかりとある」


「罪状が叩けば出てるかもしれないから、β版から洗ってくれ」


「もしかして、私β版から入るとこ間違えてたのかな」


「それいうと俺もだよ………」


 俺も魂が抜けそう。後日マーリンから頭から調べたら改善データの中にリアルマネーによるトレードが見つかって騒ぎになるのだが、子供には関係ないので知らない。


 奥の病室へと向かい、歩きながらドキドキする。個室らしい病室の前に来て、コンコンと扉を叩くマーリン。


『は、はーいっ』


 その声はゲームの中で聞いた、あの声だ。


「それじゃ、ごたいめーん♪」


 そう言って扉を開けた先に、パジャマだがちゃんとした衣類を着こむ少女。ロザリオがそこにいた。


「こ、こんにちは」


「こんにちは、こうして会うのは初めましてだね♪」


「うん。マーリンもそんな感じなんだね。ボクと同じでリアルデータ元にキャラそのままにしたの?」


「少しいじったけどおおむね変えて無いね」


「「こんにちは」」


「こんにちは、ライトちゃんレフトちゃん」


 こうして挨拶する中、俺は深呼吸をして、ゆっくりと前に出て話す出す。


「こんにちは」


 ◇◆◇◆◇


 朝からいままでドキドキする。初めての友達。学園にも通えなかったボクが、始めてお見舞いを受ける日。


 両親も心配して先生と共に待機する中、彼らは来た。


 マーリンさんはとても綺麗で美人さんだ。双子の二人も綺麗で、少し羨ましい。


 仲良さそうに後ろにいる三人は、カリバーさんにジャンヌさん、ユニさんだろう。後ろから顔をのぞかせるのはアリスさんかな? 顔色悪いけど大丈夫?


 そして、なんて言うのかな、なんでだろうな?


 この人があの人で居て欲しいって思っちゃう。カッコイイ男性、いやカリバーさんの方がカッコイイかもしれないけど、うん、ボクはこっちが良いかな。いやなに考えてるんだろう。


 病気持ちなんて娘、彼女にしたい人なんていない。うんいない。


 治りそうだからとか関係無く、いないからねボク。


 そう思いながらドキドキしてると、前に出て微笑みながら挨拶する。


 ああそうか、ゲームと変わらないなこの人は。


 そう思いながらボクは微笑みながら挨拶する。


「こんにちは兎さん。ボクは石動優奈、初めまして」


「俺は神里怜司、やっと会えてよかったよ。優奈」


 心臓が喉から出そう。顔が赤くなりそうなのを必死に振り払いながら、始めて名前を呼ばれたようにボクは微笑みながら、うんと頷いた。


「父の石動です。君は優奈のなんなんだ」


「お父さんッ!?」


 突然お父さんが出て来て、お母さんに後頭部を殴られる。ボクの分も殴っておいて………

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