第73話・仮想と現実

 今度のワールドクエストの日程が決まり、超大型イベント扱いで日にちが決まる。


 終了は一週間、始まれば一週間以内で片付くか、強制的に終わるだろう。NPCが命がけで止めるのか? そうはさせないようにしないと。


「大聖樹の騎士がフィールドに出るようになったぞ」


 騎士と言うだけあって、防御特化や魔法特化、近接が得意な個体が多く出て、フィールドに現れて襲われているらしい。まだ被害らしい被害は無いが、ミコト曰く、もうすぐ封印が解かれますとのこと。


 舞台になる場所は大聖樹がある場所。竜の里に集まるプレイヤー達。


 その中で回復魔法のスキルレベルが高いプレイヤーは秘術を習うクエストが発生している。


「これで後はなんとかなればいいが」


 そう青空の下で呟きながら、バスから降りる。


 珍しく現実世界。俺はバスに乗って来てしまった。


「この近くにロザリオがいるのか」


 少し緊張する中、俺は始めて現実で仲間と出会う事になるのであった。


 ◇◆◇◆◇


 ○×上条病院、上条グループが経営する病院の一つ。その側にあるカフェで集まる話をしていた。一応ライン交換しているから、分かるはず。


「『今着いた』」


 そうして俺は自撮りした画像をラインに乗せる。双子ちゃん達が了解と返事が来る中、後ろが騒がしい。


「「すいません、時計兎のお兄さんですか?」」


「ん、ああ。ライトちゃんとレフトちゃんか」


「「初めまして~」」


 リアルでも可愛らしい双子の姉妹がそこにいて、後ろでお姉さんらしい人とカッコイイ男性、中学生っぽい女の子と、にやにやしている美少女がそこにいた。にやついているので美少女度は下がってるが分かり易いな。


「ジャンヌ、カリバーにユニとマーリンか」


「やあやあ兎君。現実世界じゃ初めまして♪」


「やあ、こんにちは」


「どうもです」


「初めまして」


 マーリン、カリバー、ユニ、ジャンヌの順番で挨拶して、お互い自己紹介する。こういうのは初めてだから緊張する。


「どうしたのかな兎君?あまりにマーリンさん達が美人だから緊張するのかな?」


「そうですと言われたいのか? まあ半分正解だから良いけど」


「おっとそうなのか。くっふふ♪」


「マーリンふざけ過ぎです」


「ユニは……」


「同い年ですよ。双子の二人より背丈は低いですけど」


 諦めたような達成感で語るユニ。その後ろからもっとちびっ子な少女が来る。なんかぬいぐるみみたいな可愛らしさがあるが………


「副隊長、可愛いですね」


「殴りますよ」


 アリスはそう言って、双子ちゃんが左右から抱きしめてスリスリと頬ずりしてくる。嫌がる様子から本当に嫌なのだろう。


「その反動であんな美人お姉さんキャラロールしてたのか。背丈いじりまくってるじゃないか」


「そうですよッ、現実で中学生なのに小学生に間違えられるからゲームでお姉さんしてたんですよ」


「ぶっちゃけ、戦闘でミスするの多かったの、背丈が違い過ぎた所為じゃないか」


「……あんなに世界が変わると思わなかったんです」


 アリスは諦めた様子でそんな会話をしつつ、マーリンは時々頬を突いて来たり、現実であった感想を聞いてくる。こいつ美人だけど残念って付かないか?


「猫被りはうまいからな。モデルかアイドル扱いだ」


「しかも良いとこのお嬢様だから、人気は高いよ。まあ僕らもそうだけど」


「一般家庭俺だけか?」


「やめてください、ウチは親が獣医の家ですよ。私もそちら側です」


 ユニはそう言っているが、学園じゃ可愛いと人気らしい。双子ちゃんが左右で話しかけて教えてくれる。一般家庭は俺だけらしいな。


「まあだからって、反応変えられてもいやだろう? このままでいいか」


「当たり前だよ。君までそういうので話しかけられても困る」


「そうそう、気にしない気にしない」


 そう言って微笑むマーリン。こうして話を終えた後、面会の時間まで時間を潰す。結局集まりはゲームの中と変わらない会話をすることに。


「陸の封印は、無限湧きしそうな大群戦になりそうだよ。大聖樹から湧き出たらしいねえ」


「大聖樹が病魔に憑りつかれて起きたとされている。昔の人も大聖樹を刈り取るか封印するかしか無かった」


「確か、昔の竜王が命がけで封印したんだっけ。その亡骸は大聖樹と共にあるとか」


「先行して調べに行きたいけど、封印中は進むと時計が壊れたように時間がゆっくりになったり、動作がおかしくなっていつの間に戻ったり、通り過ぎたりするらしい」


 だが大聖樹の場所は分かり、後は対策だが、二パターンしかないらしい。


 綺羅星などの重要NPC曰く、竜の巫女であるミコトとモミジが命を捨てた大魔法による回復魔法で浄化する。却下。


 大地の恵みが無くなる恐れはあるが、大聖樹を伐採する。却下である。


 ちなみにどちらも一週間後に起きそうなイベント。たぶん、プレイヤーが一週間以内に攻略できなかったときのルートだ。


「正直、命がけで回復魔法使っても意味さなそうだよな」


「君もそう思う? 図書館もリーフベア達からその事を聞いて、あり得ない可能性が高いって」


 曰く、リーフベア達は大聖樹がおかしくなったが正常らしいと言っている。


 異常なのに正常とかどういうことだ?


「その謎を解かないと、回復魔法は意味が無いって図書館の主張だよ」


「だよな。どういう意味だろう」


「とりあえず、そろそろ時間ですから行きますか?」


「お会計はカリバーと兎君ね」


「割り勘な」


「はいはい」


 ジャンヌも払おうとするが、男らしく飲み物代くらい男子が払うと言う。何か言いたげだが妹達に引っ張られて先に店を出る。


 マーリンの奴、ケーキ頼みやがって。まあいいか、これくらいしか小遣いの使い道は無いからな俺。


「いいのかい?バイトしている様子は無いけど」


「ゲーム以外に金かけてないからな。課金ゲーもしてるけど気を付けてるし、家の手伝いでちょくちょく金は貯めてる」


 こうしてカリバーと割り勘で支払い、病院の方に出向くのである。


 やっと君に会える………

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