第66話・限界の里
雪山の山頂付近、景色が広がる場所まで来る。崖もあり、遺跡らしい建物がある場所で遺跡の中に入る。
そこではコボルトの他に、角の生えた人々がいる。鑑定してみれば鬼族らしい。
「コボルト族、そいつらはなんだッ!?妙な人間を連れて来るなんて」
一人の鬼族が声を上げるがなんだろう。睨まれているが危険センサーに反応が無い気がする。
「皆様、この鱗を見てください。彼らが持っていたもので、竜族の王の気配がするらしいのです」
「なんだと!?」
その時、一人の目を閉じた少女が現れる。神子らしい姿をしていて、傍らに鬼族の少女が付き添う。
少女は水晶のように透き通った髪をしていて、角のような水晶が生えている。透き通る瞳の色は蒼であった。
目を開き、静かに告げるのは肯定の言葉。
「それは間違いなく、幼き竜族の王の鱗。本人が取った物で間違いない」
「それではこの人達は、竜王の使いですか?」
「いえ、彼らは開拓者。予言の中で語られる女神の使徒。プレイヤー様ですね」
「どうも」
鬼族の巫女さんも頭を下げ、全員がこちらを見る。コボルト、竜族、鬼族がここに住んでいるようだ。
「私の名前は『ミコト』、竜族の数少ない生き残りの長を務めています」
「私は『モミジ』、鬼族の巫女として竜族を守護する者です」
「時計兎、開拓者であり、幼き魔王の父親をしている」
それにざわめく周りに、ミコトで手を上げて静止させる。
「魔王も復活しようとしているのですか?」
「ああ、って言っても魔王になるかは分からないが」
綺羅星も言っていた事だが、魔王の生まれ変わりだからって魔王になる訳では無いらしい。前世の記憶はプレイヤーのように引き継がれないしと言っていた。
だが少なくても命姫、いまの幼き魔王と共に魔王城は開拓されている最中だと聞き、俺は竜の里が近くにあるから水晶、幼き竜王の事もあり、様子を見に来たと説明する。
「それはよかった。今後、魔王城から食料を買えれば助かります」
「ここの開拓は反対か?」
「反対に決まっているだろうッ!!」
「お父様!?」
鬼族の中で武人らしきものが現れ、その武器を向けてこちらを睨む。
「お前が何者かは知らない、開拓者であろうとここは神聖な竜の領域だッ。何人も穢すことは許されない」
「『オウマ』」
「姫君よ、いくらあなた様の命であろうと、これを変えることはできませぬ」
「……この状況でもか?」
「なに?」
俺は少し強きで睨み返す。
「この状況で俺に武器を向けて、勝てるとでも思っているのか」
「兎さんっ」
「問題ないバンダナ」
「貴様、竜の王の使いだからと言って、良い気になるなよ」
「それはこっちのセリフだ」
武器を構え、お互いが武器を向け合う。巫女は止めようとするが長が止めて、戦いは始まる。
◇◆◇◆◇
まあ勝つんだけど。
「くっ」
膝を折り、武器を落とすオウマと言う鬼族の武士。
正直に言えば、オウマは俺より強い。闘気術や刀系の上位スキル持ちで、ステータスもかなり高めに設定されているのは痛いほどわかった。
だがそれでもオウマは俺に勝てない要素があった。だから彼は負けたのだ。
「ひ、卑怯な……正々堂々と戦えッ」
「何もせず、ひたすら逃げ続けることが卑怯か? 本当に大丈夫か?」
「くっ」
歯を食いしばる。そう俺はひたすら逃げ続けた。回避と防御ばかりして、ひたすら攻撃を耐えただけだ。
それだけでオウマは武器を落として、膝を負った。
「これは、まさか」
バンダナも気づいたようだ。すぐに周りの様子を見る。
痩せた様子の住人や、武装した者達も覇気は無く、竜族の子供も何体かいるが、かなり弱っているのか飛んでいない。ただ黙っているだけだった。
「とりあえず飯の時間だ。全員分には行き渡るだろうから飯を食おう。あとの話はそれからだ」
「施しなど受けぬ」
「それはお前が決めろ。他の奴に強要するな」
「くっ………」
そのまま悔しそうに顔を反らして、他の者達も顔を伏せる。
「申し訳ない。この地を守ることは大事と思う余り」
「仕方ない。色々決めるためにも飯を食ってもらうぞ。でないとまともに意見が出せなくなるほど、
それに目を閉じて顔を反らす。一同なにも言わず、ただ黙り込む。
このゲーム、空腹ゲージが高過ぎると操作がおかしくなる。実際は腹が満腹でも、操作性がおかしくなるから、軽く物を食べるのが多い。
NPCの場合、プレイヤーのようにステータスに弱体化が入り、まともに戦えなくなるようで、オウマはその所為で負けた。
先ほど助けたコボルトも話を聞く限り、食料を求めていたらしい。料理を運ぶ際にバンダナが聞いてくれたようだ。
ここはもう長く滞在する拠点にはできない。その為には周りを開拓するしかないが、彼らは納得してくれるか。
飯を食わせて、体力など回復してくれないと話にもならない。ストレージの中の食料全てを使い切るつもりで料理を出して、飯を食わせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます