第67話・平和な時間

 魔王城に戻り、竜の里で起きた事を愛好家に説明する。


「それでそのあとはどうしましたか?」


「食料を融通していただければ幸いですと言われたよ。オウマ自身、このままでは飢えて死ぬのは分かっているらしいが」


「ならどうします?」


「無理矢理攻め込んで土地を奪い、生活基準を整える」


 らしいですねとユニは納得してフレンドであるプレイヤーにメールを出す。


 後日、水晶が率いる若き竜王の軍勢に略奪されて土地を開拓する事になった。


「………」


「オウマ、ここにいましたか」


 ミコトはモミジを連れてオウマの様子を見に来た。オウマはカリバーと試合負けてしまった後は、何を言わずに山頂に居続けていた。


「姫様、やはり限界だったのでしょうか」


 オウマが絞り出した言葉に頷くしか無かったミコト。


「カリバー様は十分強いですが、一対一ならば貴方に分があるはずでした」


「情けない。食事を満足に得られず、戦もできない事態になるなんて」


 それでもコボルト族や老人達、姫様よりマシであった。


 姫様と老人達は自分の分を崩し、戦う者と子供達に食料を渡す。コボルト族も自分達は戦えないからと、手に入れた肉や山菜を提供してくれていた。


 雪の中での食料集めはコボルト族に頼っていたのに、彼らは自分らの分を鬼族と竜族に渡してくれていたのだ。


「ここ数年は本当に情けない。守るはずの者達に守られて、結局無理をさせていただけか」


 こうしてまともに考え事をするのも開拓者が来てからだ。オウマは情けなさ過ぎて里にいられ無くなり、封印を監視する頂まで逃げて来た。


「彼らは近づいては成らない場所や開拓をしてはいけない場所を聞き、できる限りの開拓をするそうです」


「それは時計兎と言う男の命ですか?」


「彼らの話を聞く限り棟梁と言う訳では無いですが、ここを開拓する事を無理を言って押し通したようです」


「もうあの時点で俺は完膚なきまでに負けていたのか」


「お父様」


 モミジが心配するが、立ち上がるオウマは仕方ないと呟く。


「話を聞く限り、海の災いが解放されたようです。私の力だって必要な時が来るはずです。その時に腹が減ったから戦えぬのなら、肉壁の価値すら無い。大人しく軍門に下り、時が来るのに備えます」


「ええ、いま若き竜王も成長途中です。貴方が居なければ皆が不安がります」


「若き魔王と竜王、新たな世代の為に鬼族首領として、この身を尽くす所存です」


 こうして何事も無く、竜の里の開拓が始まった。


 ◇◆◇◆◇


「一気に昔よりも面倒見なきゃいけなくなった。時計兎です」


【一服野郎】「おう」

【神風零式】「一国の主ですもんね」

【侍ハート】「色々大変そう」


「と言う訳で、各々の配信で会議を始めます。議題はいっぱいですので、楽しんでください」


「それでは議題です」


 いつものメンバーに加えて『従者同盟』と『ロザリオ様親衛隊』も加わり、数多くの問題点の解決に乗り出す。


「まずは魔王城近辺の開拓ですが、作物が育ちません」


「病魔の汚染って奴か。木も黒いし、普通の土台じゃねえのか」


「ええ。解決策を探したところ、農業コボルトが樹の精霊石を使う事で『神聖な土』を作る事に成功しました。それで作物を作れるようです」


「汚染された土にも利用できる点があるはずだから、大規模な農園を作ろうか。汚染された土の範囲、浄化した範囲の畑を作り、栽培を始めよう。汚染された畑はそこだけで育つ植物の発見、それと食料の確保優先で進めて」


「次にレベリングですが、魔王城付近はレベル6か5くらいが平均ですね。初心者の活動には不向きです」


「生産職の簡単な仕事を増やそう。魔王城は物質不足もあるから、椅子もテーブルもコップから皿まで足りない。鍛冶師コボルトに生産する場所を作らせて、無料提供する準備を始めてくれ」


 ………

 ……

 …


「竜の里の開拓は食料メインで良いんですか?」


「防衛システムも優先だな。オウマとミコトに兵器や防壁を見せて、どの位置に設置するか話し合おう。正直陸分からないからな。彼らの信頼度を高めつつ、情報を集めるところから始めよう」


 こうして話し合いが終わり、だいぶ開拓の方針は決まった。


 竜の里は防衛基地兼集落として機能するように、寝泊まりする場所と食料の確保、そして戦う為の準備を同時に進める。


 魔王城は汚染された土地でできる事を検証しつつ、食料などの確保。いずれ来る初心者用にクエストの準備を始めた。


 竜の里は近くにある。あそこがスタート地点になれば逆に助かる。コボルトでも活動できるレベル帯だから、移動できれば色々選択肢が増える。


「兎はこれからどうするの?」


 マーリンがそう聞くと、決まった答えとしてレベリングである。って言うかやばいからな。


「次の封印系はオウマレベルのワールドクエストだ。さすがにいまのカリバー帯くらい戦闘特化にしないと戦えない。検証班である図書館を支援しつつ、プレイヤーのレベルを上げないといけない」


「だから配信で情報を拡散するんですね?」


「次のワールドクエストで活躍したいのなら、特化にするか、カリバー達のレベルまで上げるかしないといけないからな。俺は後者だから、戦闘スキル上げないと」


「ステータスにもSPを振ってくださいね」


「あいよー」


 それ以外にやる事は………


「同盟ギルドを増やしてくれ」


「いまの状態で有名どころから無条件協力は愛好家、黄昏、神技。条件付きで従者、図書館、親衛隊に武狼だけですからね。分かりました、掲示板とかに載せてみます」


「頼む。後は各々のプレイヤーレベル上げくらいかな? ロザリオも上げないと危ないんだっけ?」


「ぶっちゃけロザリオさんはデスるのは禁止されているようなものですからね。復活イベント作らなきゃいけません」


「死に戻りはプレイヤーと魔動人形、従魔のみだからな。ロザリオは大変だな」


 そんな会話をしつつ、全員がレベル上げなどに動く。しばらくは平和なひと時を過ごすのであった。

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