第58話・不浄の大地対プレイヤー4

 不浄の大地ベヒーモスは不浄が集まり生まれた存在である。この存在の目的は世界を汚染することであり、自然を穢し、清浄を汚す為に存在する。


 その巨体は全てを踏みつぶし、その流れ出る血は全てを燃やす。


 海の中に封印されたのは、海の方が被害は少ないから。古代の人々は海へと追いやり、追い詰めて封印した。


 本来の姿は金の巨大な瞳であり、それが溶岩を流して特殊な貴金属を生み出し、それを固めいまの姿へと変わった存在。あり方は変わらない。全てを塗りつぶす。


 ただそれだけの目的で、封印が解かれたいまもなお、海へと自分を押し込める封印の破壊しか考えて居なかった。


 だが、いまの不浄の大地ベヒーモスは存在の危機に瀕している。


 大昔ではあり得なかった徹底抗戦により、疲労して本体が大量の酸素を取り込まなければいけないところまで追い詰められた。不浄の大地ベヒーモスは瞳から空気中の魔力を吸い上げ、溶岩である血液を作り出す性質を持つのだ。


 ついに中央がひび割れ、中から巨大な瞳が目を出す。その様子に時計兎は………


「おっ、良い位置に顔を出したなカバ。一撃でキルしてやるから覚悟しろ」


 理解不能。そう不浄の大地ベヒーモスは思った。不浄の大地ベヒーモスのAIは会話こそ不可能だが、プレイヤーが言っている言葉は理解できた。


 例え、先ほどから撃っている。超遠距離射撃を何度も放ち、自身に当てられるのであれば確かに倒せるだろう。


 だが瞼を閉じ、防御態勢であるのならば耐えられる。その間に封印の要の一つを破壊する。できると確信していた。


 砲撃もあと一回、大丈夫。瞼を開けていたとしても耐えられる。蓄えられた生命力で耐えられると確信して、大量の酸素を吸収し出す。


「ほぉー俺らのこと無視か」


「なめられてるね。まあまだレッドゾーンにすら入ってないから、どんだけ頑張っても正攻法じゃ不浄の大地ベヒーモスが要石を破壊するのを止められないからね」


 その通りだと不浄の大地ベヒーモスはニヤリと笑う。その様子に対して、彼らが前に出る。


「おいカバ。いいか? お前を倒すのは俺らプレイヤーじゃねえ」


「僕達だ」


 そう言って前に出たのは、ジュエルマジシャンコボルトと言う、宝石魔法を使うコボルト達。


 四方八方を囲み、オーブも構える。何をする気だ?


「第二射目、お前の背中で暴れていたコボルトは一匹も欠ける事も無く耐えきった。理由は分かるか?」


 ? そう言えば何故だろう? そのような防壁を張ろうと、余波だけで消し飛んでいるはずだ。例え洞窟内、外装の隙間に隠れていたとしても。


 強力な防壁魔法を張る者がいるのか? コボルト、弱き種族に? 不浄の大地ベヒーモスは見下しながらコボルトを見た。


「第一射目は実は第二射目だ。練習用に軽いのを一発、海に撃った。試運転も兼ねての砲撃だ」


 それを見て思った。あっ、これ魔法ダメじゃねえ?


「「「【煌めく反射】ッ!!」」」


 高レベルの魔力反射する壁を張るコボルト達。自分は魔法攻撃は愚か、攻撃をまだしていないのにそれをする理由は分からない。


 そして作られた壁は、頭上が空いた状態で不浄の大地ベヒーモスを包み込む。


「殺れ、白薔薇」


 ◇◆◇◆◇


 最後の第三射目の狙撃手は白薔薇で決まっていた。


 前方の攻撃を終えて相手の本体が出た瞬間に移動、射撃台に乗り込みトリガーを構える。


「了、委細問題なく。命令オーダーを執行します」


 白薔薇は第三射目を撃つ。それは【反射】の内側、不浄の大地ベヒーモスを狙いつけての一撃。


 全ての決着を付ける。会心の一撃である。


 ◇◆◇◆◇


 本来ならHPは現状、三分の一減った状態で、さらに一割減る程度だった。そこから不浄の大地ベヒーモスは攻撃態勢に入り、動くフィールドで不浄の大地ベヒーモスと戦うシナリオが進むはずだった。


 だが、反射する。不浄の大地ベヒーモスの体力を一割削る一撃が、反射し続けた。コボルト達は衝撃で吹き飛びかけたが全員が押さえつけて踏ん張り、プレイヤーの手も借りて耐え抜く。


 悲鳴が響く。


 こんなあっけなく終わるつもりは無かった。ここからが本番になるはずだった。ここからお前達を絶望させるはずだった。


 そんな沈痛な思いが込められた悲鳴が、GМルームにもこだまするように響き渡り、各場所で悲鳴が響き渡る。


 本体が消え、繋がれた欠片が解き放たれる中、近くに来てくれたジャンヌが乗る船に全員が慌てて乗り込む。


 最後に、時計兎が不浄の大地ベヒーモスに一言呟く。


「たぶん【反射】にテコ入れされるから、二度と出てこないでくれ」


「いいから早く乗れッ。欠片が降り注いで潰されそうなんだよ!?」


 そう言って船に乗り込み、ファンファーレと共に鐘が鳴り響いた。


『ワールドクエスト・封印された災い(海)が攻略されました。プレイヤーの勝利です』


『これに伴い全プレイヤーは災いを乗り越えし者の称号を獲得』


『以下、特別活躍したプレイヤーには不浄を討ち破る者の称号が送られます』


 レベルアップと共に鳴り響くメッセージに、プレイヤー達は勝利の雄たけびを上げるのであった。

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