第55話・不浄の大地対プレイヤー1

 それは宝玉でしか無かった。巨大な宝玉、それが汚れた海に生まれ落ち、巨大な姿になった。


 それは空間を震わせ、暗雲を呼び込む不浄。


 それは赤い血を流しながら進む。


 後に残るは穢れのみ。


 不浄纏いて山となり、地鳴りを響かせ、全てを塗り替える。


 そのモノの名は〝不浄の大地ベヒーモス〟………


 ◇◆◇◆◇


「伝令ッ!!伝令ッ!!」


 船に乗り、波に揺れる開拓者プレイヤー達。一隻の船に乗る者達が慌てながら、連絡し合う。


「黒い海面から浮上する物あり!!不浄の大地ベヒーモスの可能性あり!!」


「ついに来たか、第一陣の準備はどうだ?」


「委細問題なしッ!!いつでも沈む準備・・・・は終えております!!」


 まず封印の地より解放された不浄の大地ベヒーモスと戦うのは、パターン確認をする遊撃隊の出番。全員が動画配信準備をして居て、いつどんな方法でやられても良いように準備していた。


 海面から現れるそれを見て、彼らは騒ぎだす。


「いや、なんだあれは!?」


「マップを見ろ!?フィールドマップが急に現れたぞ?!」


「くそっ、まるで巨大な山じゃねえか!?」


 溶岩のような赤い血を流しながら、黒い巨山が水中から浮上してくる。


 所々に目玉のような金色の瞳があり、巨大な山を三つほど結び合わせたような姿をしたゴーレムが咆哮を放つ。


 波が高くなり、バランスを取りながら溶岩により海が温められ、魚などが浮いてくる始末。


「念のために耐久力だけは一番にしているが、このままじゃ転覆するぞ!!」


「空を見ろ!!プテラノドンみたいなモンスターが発生してる!!」


 触手のような黒い枝が生えて来て、四本足で歩くそれは海面に浮き始めた。どんな原理で浮いてるんだと疑問に思う中、よくよく見ると一人があっと呟いた。


「全体的に見てこいつ、黒いカバじゃねえ?」


 血の汗を流しながら、黒い枝を所々に生やしたカバ。そう言ったらしっくりくる。


「よし、彼奴の別名はカバだ。異論は認めん」


 現代に生きる者達にとってそれは、カバと表現されたがあながち外れてはいない。


 それは、カバは凶暴な生き物であるのだから………


 ………

 ……

 …


 同時刻、人魚島にて。


 いまだ人々が右往左往する中、動画を見て居る時計兎が驚いた。


「こいつ、カバって言った奴は天才か」


「兎っ。第一陣はどうだ?」


「カリバー、いまカバに噛み砕かれて船一隻ダメになって死に戻った」


「はあ?」


 ギルド『神技の騎士団』団長、カリバーはなにを言ってるんだと思いながら動画画面を見る。カバと言っているが、目も何も無い黒い塊のカバと言えばそう見えるなと納得。


 周りを飛ぶのも、カバの身の回りの世話をする小鳥のように見える。


 取りつこうとする船を啄み邪魔をしている。船は海面を気にしないといけない。溶岩に触れれば一発アウトて燃え上がり、海に落ちれば熱の所為か死亡扱い。


 カバに張り付くことができても、枝のような触手が邪魔をして払い落す。いまだ目玉に攻撃できている部隊はいない。


「これは………木工職人達が徹夜して作った第一陣、第二陣の船は良いとこ無しで終わるぞ」


「ああ。これどうやっても遠距離攻撃で、まずは外装に見えてる弱点を潰した方が良いな」


「そして上陸して、カバの内側の目玉探して攻略がパターンだろう。口の内側にも弱点があるから、早い船でかみ砕き攻撃を発生させて攻撃するってのもある」


 そう言いながら、連絡用の動画にコメントしておく。


「第一陣は捨てる、第二陣は下げて第三陣と合流。最終防衛ラインで戦いを始めて消耗させる」


「大きく出たな。総司令官殿」


 そう、重みがあるからと総司令官として立場に祭り上げられた兎はにんまりと笑い、それを見上げた。


「運営がどこまで予測しているか知らないが、大型モンスター初戦でこいつの製作は予想外だろう」


 ムラサメ組作、超巨大大筒大砲。リボルバーキャノン三世。


 全体魔鉱製品で作られており、第一、第二作品を使い捨てて作られたリボルバー式ミスリル弾薬発射砲台。


 火の精霊石を初め、大量の攻撃力強化の精霊石を使いこみ、あり得ないほど火力を高めた移動式砲台であり、発射速度、威力、リロードの早さは前線で戦うにはピカイチの性能を持つ。


「マジで良く作れたね………」


「ゲーマーの勘と廃人の組み合わせから最善の組み合わせを選ばせ、そして無限の資産で作らせた狂気の一品よ。少なくても時間の無さを無理矢理カバーして作ったから、それを〝三つ〟も用意できたのは助かった」


 そう言って三つの砲身を見ながら、カリバーはさすがに苦笑する。


「だけどこれ、島から移動できないけど今後どうするの?」


「この島用のアイテムだ。最悪六個目作らせるさ」


「マジか」


 そして周りに弾丸数を気にしないで済む、魔力を砲弾に変えて撃つレーザー砲をいくつも用意している。


「弓矢系の奴に任せるぞ。レーザーで狙い撃ち、火力でこいつらにダメを稼いでもらい、外装は狂気の砲身で削る」


「いや、僕的にはそれが一番怖いんだけど」


「資産を貯め込んでても勝てなきゃ意味ねえんだよ」


 そう言ってカリバーは三つの砲身とは別の、三つの砲身に苦笑いしながら、勝負に備えるのであった。

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