第44話・最悪な災厄

 ログインして今度はライトちゃんルートを探索するつもりである。今日は各々好きに行動する中、白薔薇とバンダナ達を連れて出向く。


 ロザリオは………女神像にお祈り中だ。彼女が持つ方では無く、教会の方なのに引っかかるが、邪魔しちゃ悪いか。


 こうして俺は火山エリアへと向かう。彼女は必死に悪い事が回避されますように祈る中で………


 ◇◆◇◆◇


「むっはー嫌な気配がするぞ」


「嫌な気配ですか?」


 彼の名前はカツ丼。ギルド『お昼のメニュー』のギルマスであり、彼は材料集めを主に活動するプレイヤーだ。


 リーフベアは火山の方を見つめながら、誰一人微動だにせずに見て居る。その様子に尋常じゃない気配を感じて、ウインドウを開いて動画を見る。いま配信しながら火山を進む時計兎。


『なら、誰もライトちゃんの動画見て分からないと』


【エリック】「火に包まれて終わりましたからね」

【神風零式】「よく分からなかったですね」

【ナアリ】「時計兎さんも気を付けて」


 そんな様子を見ながら、視線を上げる。そこでロザリオは女神像に祈りを捧げて居ている。具体的に何をすればいいか分からないが、中堅プレイヤーの意地はある。


 できる事があるならやってみせると覚悟を決めたところで………


「できたです~」


 そう大はしゃぎするムラサメが現れ、ミスタースミスもほうほうと鍜治場から出て来る。


「なにか凄い一品でもできたか?」


「はいです、これはすぐにでも渡さないといけないくらい、他との差が歴然の刀です。銘は………」


 そして彼は気楽に人を集めて言った。


「なら渡しに出向きます?」


 偶然は必然となり、奇跡へと変わり出す。


 ◇◆◇◆◇


 装備は大丈夫だ。真紅鷹のマントや精霊石のペンダントに、純度百%のミスリルの日本刀。


 メンバーも歴戦の戦士コボルトに白薔薇と準備万端でその場所に来た。


「なんだここ?」


 辺り一面が黒焦げになり、破壊の後がある。


 全員が異常事態に警戒する中、それは突然現れた。


 爆炎を吹き荒らしながらの出現に、全員が散って避けてそれを見る。


【グルルルルルル………ガッオーーーーンッ!!】


「ケルベロス?ネームドモンスターか」


 鑑定を使うとその名前が分かった。その名は『キングヘルケルベロス凶』。


 煉獄の王、その姿は王として相応しかった・・・。いまでは炎の制御はできず、辺りを地獄に変える地獄の王。


 その命は風前の灯火だがいまだ衰えることなく、呪いによって繋がれている。


 山の主。状態:憑依悪魔となっていた。


 憑依悪魔ってどういうことだ。ってか、真ん中の角は折れて居て血まみれの姿で口から涎と血を流しながら、手あたり次第に暴れ出す。


「散開しながら水魔法ッ!白薔薇行くぞ」


「了」


 あんな暴れ方されたら策も何も無い。こう言う時は正攻法に挑むだけだ。


 ミスリルの戦斧で叩きこみ、吹き飛ばす中で斬り込む。


 ウルフにまたがるバンダナとヘルム。俺と続いて戦う。


【ハカセ】「なにやら妙なモンスターですね」

【オウル】「はい。黒い霧を纏いながら、血と炎をまき散らすのはしようでしょうか?」

【レックス】「だいぶ弱ってるし、行ける行ける」

【スズカ】「ねえけど、この子、山の主なんですよね?」


 その言葉に斬り込む手が止まる。


【鋼丸】「……あの子達の父ちゃん?」

【神風零式】「なにしてるんですかお父さん!?」

【ナイト】「これ倒していいの?ダメなの!?」


 混乱する視聴者と共に一手引く。


「主!?」


「全員攻撃中止ッ!逃げるぞ」


「なぜですか!?」


「こいつはリトルケルベロスの父親の可能性がある」


 それに全員が驚いたとき、地鳴りのように空間を震わせる咆哮を放つ。やばいスタン入った。


 暴れまわるように炎をばらまき激突する。


「回復アイテム使用、耐えろ」


「で、ですがこのままだと全滅します」


 それを言われてバンダナ達を見る。NPCはリスポーンしない。バンダナ達はここで死んだらそこまでだ。


 だが逆に言えば向こうも同じだ。このまま戦うと彼奴らの親を殺すことになる。


『それはきっと良く無いもの。敵対する時は倒すしかないんだ』


 苦し気に、悲し気にロザリオが言った言葉を思い出してそう言うイベントかと歯ぎしりする。


「まずい、きっとこれあれだ。何かの要因で凶暴化した父ケルベロスを、プレイヤーが殺して助けるイベントだ」


【エタる】「なん、だと……」

【一服野郎】「それじゃ、母親の傷って、まさか父ちゃんが」

【ハカセ】「憑依悪魔と言うことは、操られている可能性があります」


「ああ、あの黒い霧が怪しい。だけど霧を攻撃する手段は無い。つまり一度全滅するか、俺と白薔薇が死に戻り覚悟でバンダナ達を逃がすか。ここで倒すしかない」


 正直アタック特化であるいまのパーティなら攻撃に回れば勝てる自信がある。


 だがそれは住人になったあの子達の父親を殺す事だ。それは嫌だ、俺はこういうのは嫌いだ。


 正解は分かる。だが気に入らない。


 ロザリオの苦し気な言葉は自分にできるプレイヤーへの助言であった。おそらく彼女はこれをどうにかできるか知らない。


 ただここで決めないと、俺はバンダナとヘルム。コボルト達を失うことになる。どうすればいいかなんて一つしかない。


「全員このまま彼奴を倒すぞ」


「主?それは」


「じ、自分達のことは良いんです。もともとゴブリンの時に無くなっていた命です」


「ダメだ。戻ったところで手は無い、なにより見ろ」


 もうすでに虫の息なのに身体を無理矢理動かす様はあまりにむごい。おそらくプレイヤーが介入するまであのモンスターは死ぬまで戦う。


【ユニ】「許可します」

【一服野郎】「会長!?」

【ユウ】「会長が許可した、だと………」


 ああそうだ、これしかない。効率的に早く処理しよう。


 そう決めて俺は日本刀を握りしめて、ボスへと斬り込むのだった。

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