運営側2
ボクはロザリオと言うキャラでゲームしてから色々あった。いろんな人が病気を治すのを応援してくれると共に、治療中でもゲームができる環境を作り、ゲームを体験する。
兎さんが何か急に顔を見たいと言って現れてお話した。手紙を渡したし、GМ側からOKをもらえたのでロザリオとしてやれる事ができてホッとする。
彼がログアウトしたところで自分もログアウトした。と言ってもまだゲームの中、GМやゲームスタッフしかログインできない空間。GМスペースで時間を過ごす。
(だけどみんな慌ただしい)
普段は最新鋭の技術者の集まりにしてはアットホームな雰囲気だ。こちらの事情を知っていても忌避する事は無く、気軽に話しかけたりする人ばかり。
だけど今回のイベントでなにかあったのだろうか? スタッフ達は大慌てで現実と仮想を行き来している。いまはゲストルームで大人しくしよう。
「あっ、石動ちゃん、こんちゃーす」
「あっ、どうも」
マリーさんは自分と似た病気の人で治療中の外国人。どこでなにしているか知らないが、同い年もあってこうして会話する事がある。
いまの状況話し合うがお互い分からず首を傾げた。
「おじさんなら知ってるかも」
「あーあの人」
「うん、石動さんも知ってると思うけど、娘さんがβ版してて気に入ってくれて嬉しいって喜んでる。あの人なら色々教えてもらえるけど、まあゲームに関する話なら無理だけどね」
「まあね」
おじさんはゲームの、それもかなり深いところを担当しているプログラマーであり、他にも兼用して仕事する凄腕らしい。娘さんには甘く、娘さんくらいの自分達にも優しい人だ。
「なにも無ければいいんだけど」
「そうだね~」
みんな優しい人達、だからなにも無ければ良い。そんな話し合いをしながら、どたばたする様子を見て居た。
◇◆◇◆◇
「気持ちは変わらないのかね?」
「はい、責任を取りたいと思います」
それを言われて管理スタッフルームは静かになる。
いま頭を下げて辞表を取り出したのはゲームプログラム担当の、それも高いGМ権限を持つ人だ。彼が今回のイベントレイドボスの出現地を決めて調整した人であり、娘に情報を盗まれた人だ。
正直この件に関しては運営側は余り褒められた事はしていない。前々からマナーが悪く、注意や軽いペナルティ程度で済ませていた害悪プレイヤーであるギルドマスター達がやらかした。
レイドボスはフィールドを自由に動ける設定にしていたが、一斉に王国へ一直線に向かい始め、プレイヤー達の動きを見たら発覚した事件。違法ツールによるログの隠ぺいが確認され、大急ぎでデータをサルベージする。
正直、件の父親がいなければログの修復もできなかったとスタッフは思う。できれば辞めて欲しく無いが事態は重い。どうすればいいか分からなかった。
「あの、相川さんの娘さんは脅されています、情報を持ってこいって復元したログで脅迫されているのは判明してるじゃないですか」
「しかし、情報の漏えいは私の責任だ。娘が獅子戦記にいるのは分かっていたのに、こうなるまで放置した責任がある」
「それは………」
「なによりこれは一つ間違えていたら王国ロストと言うことにもなっていた。いまの段階でスタート地点の一つである王国がロストするのは想定には無い。いくら先が分からないと言ってもAIの行動を読み、イベントを決めるのが我々の仕事だ。もしも王国ロストなんてことになっていたら、みんなに迷惑をかけたところだ。なにより時計兎君を筆頭に気分を害したプレイヤーはいるんだ。責任は取らなければいけない」
そう言って主任や仲間達は何も言えなくなり、全員が静まり返った。
「それは困るよ君」
そう言って社長である上条社長がログインしてきた。
「社長ッ!?」
「社長!? こ、この度は私の所為でイベントが失敗になり、申し訳ございません」
「うん。さすがにイベントは成功とは言えないね。少なくても時計兎君達はどこか納得ができない顔をしている。どう足掻いても減給程度はしなければいけない」
「はい、他にも責任はこの私の首で」
「だからそれは困るよ。ただでさえプログラミングには手を焼いているのに、君が抜けてしまうとこの先の運営に響く」
「で、ですが、情報の漏えいが………」
「話を聞くがどうして情報は漏えいしたんだい?」
「………おそらく、パスワードを娘の誕生日にしていたためかと」
「なるほど、娘思いだ。だからこそ君は辞めるべきではない」
「それは」
「いま君が仕事を降りたとなれば、娘さんはどうする? 心に消えない傷ができてしまう。それでいいのかい?」
「ッ!?」
確かにとスタッフ達は思う。
「そうですよ、いま貴方がいなくなると大量のAI搭載のNPCの管理ができなくなります」
「ボスモンスターのランダムポップの管理もですね。新しいモンスターも出現させないといけませんし、仕事は山積みです」
「仕事で挽回しましょう。娘さんだってこんな事で辞めたと知ったら泣いてしまいますよ」
「言っちゃ悪いが、娘さんもそれなりの処理をすればいいと思います。このまま出て行くのは違うと思いますね」
「ですね。無罪放免は無理ですが、事件の事を考えれば被害者ですし、しっかり話し合って決める方が良いと思います。簡単に辞めるだけで終わるのは納得できません」
「み、みんな……」
甘い話である。だけどスタッフ達はVRMMOと言うゲームができるのは彼の力があってこそと理解している。つまらない理由で辞めてもらっては困るのだ。
「私は君達スタッフに感謝しているんだよ。夢のようなゲームを売り出したいと思ったら、VRと言う夢のようなゲームを売れるようになったんだからね」
なにより、そう呟く。
「全人類が楽しめるゲーム。病気の子が病気に打ち勝つゲームを作りたい。私の夢を笑わずに、入院している子が楽しくゲームできる環境作りに君達が協力してくれたおかげで実現できている」
「社長………」
「責任を感じるなら辞めるべきではない。なに、あとは私達がなんとかしよう。君には今回使われた、ログの書き換えに関する対抗策を考えてもらわないといけない。仕事は山積みだよ君」
「そうだな。現場管理としては甘すぎる処罰だが、お前さんが抜けると困る。今回不正する輩が出た以上、今後の対策は考えないといけない。運営と同時にするとなると、いま辞められた方が被害がでかい」
そう言って主任は辞表のデータをゴミ箱に突っ込む。
「まだまだVRゲームは伸び出している。いまさら辞める事は認めない」
涙を流すスタッフの肩を優しくたたき、社長は少しおちゃらけて告げる。
「それに、このまま君が辞めたら娘が急いでなんとかしてと言ってきた手前でね。いっや~お互い娘には甘いねえ」
「娘さんですか」
「ああ、国お抱えの魔術師になりたいから、そういう名前でプレイしてるんだ。今回活躍したみたいだから動画楽しみにしてるんだよ」
そう言ってほほえみ、ありがとうございます!と涙を流して頭を下げた。
「よし、まずはこのバカと娘さんの会話データを全部サルベージする。誰が悪いかはっきりさせて記者会見を開かないとな」
「はいッ!」
「さあ仕事を始めよう、まだまだこのゲームは盛り上がるぞ~」
甘い処罰ではあるが機密漏えいしたスタッフは減給だけで済ませ、その後の記者会見などは社長が矢面に立ち、しっかりと受け答えする。
残念ながら娘さんがキャラを一から作り直しても、この会社でゲームする際はブラックリスト入りのプレイヤーとして監視される。ギルマスと違いまだゲームする権利を持ち、この後どうするかしっかり話し合うと父親は決めるのであった。
◇◆◇◆◇
私の所為だ私の所為だ私の所為だ………
パパの仕事の邪魔をした。パパはきっと怒ってる。
どうしようどうしよう。
「ただいまー」
家に父が帰宅して、娘はびくりと身体を震わせる。足音を聞きながら部屋の前に来たのを察する。
「話をしよう、頼むから扉を開けてくれ」
「………」
ゆらりゆらりと扉を開ける。静かに父と対面して、震える身体を抱きしめられる。
「ごめんな、お前がそんなに追い詰められているとは知らず、パパのゲームは凄いだろと浮かれて居て」
「ぱぱ?」
「さすがに無罪放免はできないそうだが、それはきちんと話し合って決める方が良いとみんなに言われてね。しっかり話し合おう。仕事ばかりでそれを疎かにしててごめんな。今はしっかり話し合おう」
「………違う、違う。私がいけないの」
涙を流しながらどこで間違えたのか、何がいけなかったか考えた。
「生産職の人に迷惑をかけた。レイドさんがお互いプレイヤーなんだから協力し合うべきだって言ったのに、鼻で笑ったのがいけなかった。人に迷惑をかけてプレイした私がいけないのッ!」
「うん、うん。そうだね、いけないことをしたのに気づけてよかったよ」
「ごめんなさい!ごめんなさい! ゲームの情報持って来いって言われて、パパのパソコンを覗き込んだのッ。ごめんなさい!」
優しくあやしながら、何をどこまで話してしまったか話してこれからどうするか、辛いなら辞めても良いと言われた。
もうこのゲームを辞めても良いと思ったけど、パパが作ったゲームだから続けたい。許されるなら今度はきちんとマナーを守って。
迷惑をかけたレイドさんに謝りたいと思いながら、父と娘はしっかりと話し合ったのであった。
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