第33話・イベント五日目・全て彼奴が悪いんだ

 言葉の暴力的シーンがあります。不快な思いする方は申し訳ございません


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 お祭り五日目、メイド服を着た白薔薇に色々な期待や望みがプレイヤーから懇願される頃、軌道に乗る彼らとは対象的に彼らは苛立っていた。


「くそっ、擦り付けもうまく言っていないか。死に戻りすればいいのに、なに倒し切ってるんだよ」


 テーブルに頭を抱え、なぜうまくいかないか納得できず頭をかきむしる男。装備はやや良さそうではあるが見た目だけで、性能はある男が滞在していた頃よりも数段に落ちる。


 性能のよかった武具は耐久値の消耗が酷く、もう使い物にならず仕舞うしか無かったのが余計に苛立つ原因になる。回復させる為にメンテしたいのだが生産職プレイヤーは誰もしない。NPCはレッドになったら利用できなくなった。


「ね、ねえもうやめようよ」


 大人の女らしいプレイヤーがすでに涙目でギルマスの男に訴える。見た目と言動はかなりちぐはぐだった。これもある男がいた頃は見た目のように大人のお姉さんであったがいまは弱々しく、髪の先をいじり少し違和感を感じるくらい印象が変わった。男に睨まれてすぐに言葉が引っ込んだ。


「ああんッ!?なに言ってるんだッ、このまま泣き寝入りしろって言うのかよ!?」


 彼と彼女は『紅蓮の獅子戦記』の団長と副団長。すでにこのギルドは新規メンバーはキャラクターを勝手に変えて辞めたり、GМコールを盾にして辞めていき古参の者達しかいない。


「それはいやだけど、もう回復アイテムは底を尽くし、お金だって無いんだよ」


 彼らはなんでこうなったのか分からなかった。とある男がギルド資金なるギルドの為の資金を作り管理したり、アイテムの補充をしっかりしていたからだ。


 彼がそう言った行動は感謝される事は無く、むしろ幹部面して何様だと団長はムカついていた。


 ムカついていたが自分がやるかと言われればNOであり、やりたい奴にやらせればいいかと丸投げした。男は勝手に提案して実行した手前、怒られても仕方ないなと思い、その場は非を認めていた。


 その後は言い出し、実行した手前、男はきちんとギルドの為に管理していた。その男は新規の団員や周りの者から、副団長もしくば幹部だと勘違いされていたのだが。


「そんなん奪えばいいんだよ、PKありなんだからそれで食っていけるはずだッ」


 そんな訳は無い。PKしたレッドネームプレイヤーは基本敵と同じ赤マーカーになり町に入れず、セーフエリアを使用不可になる。元々このゲームのPKはフレンドリーファイヤーができるので結果的にPKができる仕様にしているだけだ。


 アイテムも奪えるのでメリットはあるが、デメリットの方が高いと公式は発表している。デスペナも通常より酷く、レッドプレイヤーはプレイヤーにキルされると元に戻るが、行った罪の重さによって課されるデスペナが続く。非推奨プレイと言うものである。


 それでもギルマスである彼は許されているのだから使ったっていいはずだと思いPKを選んだ。選んだ結果の責任を負う事は無いが………


 副ギルマスは髪の先をいじりながら、終始落ち着かず、泣きそうな顔をしていた。何名のギルドメンバーも疲れ切った顔でそこにいる。


「くそ、どれもこれもレイドが辞めた所為だ。彼奴が勝手に他の奴を辞めさせたからこうなったんだ」


「………」


 副ギルマスや他のメンバーは口を閉じる。それを喜んだのはリーダーだし、決めたのだってリーダーだと言葉を飲み込んだ。


 なによりレイドにいなくなって欲しいと常日頃言っていたのは彼だ。ギルド資金なのだから俺が使うのは間違いでは無いと言って、勝手に使おうとして口論。イベント時、勝手に突撃しないで他のプレイヤー、せめてギルメンとは協力して進めようと口論。ギルメンは奴隷ではないと怒鳴り合ったりもしていた。


 古参の彼らはそれを見て、レイドがまたギルマスに逆らっていると生意気だと思ったり、何様だと思ったりしていた。彼の望みが叶い、脱退資金に全アイテム、資金の譲渡を喜々として受け入れた。もう逆らう奴はいないと安心してゲームを楽しめると思ったら………


 ギルド資金は各々が勝手に使うからすぐに底を尽きた。新入りを盾にしたり、怒鳴り散らしていたらGМから注意が飛んできた。それでアカウント一時凍結されてゲームができない時期が増えたり、アカウントを止められて辞めたプレイヤーもいた。


 初期の頃、そうならないように注意、警告をしていたのはレイドであり、それが無くなったら注意するのはGМだけ。彼と違いそれ相当の重い警告が来た。


 こうして彼らは勝手にどんどん追い詰められ、ついにレイドが悪いと言うことになりこの始末。


「彼奴、運営とグルになって好き放題して、生意気なんだよ」


「そ、そうっすね」


 なぜレイドが運営とグルになっているか、正直分からないし理解できない。だがレイドがいなくなった途端、GМからの監視が強くなり、注意が来たりしてそう思う者も現れた。冷静な者は止められないからなにも言わなくなり、他の者達は自由にゲームできないのは全てレイドの所為だと決めることにした。


「分かってるな、お前ら。彼奴に目に物言わせるぞ絶対」


 だから本土にレイド、いまは時計兎になった彼がいる。絶好の復讐チャンスだと思った。ここで彼をPKしても、レア装備は奪えても何一つ変わらないのにだ。


 中には白薔薇やテイムモンスターを奪い取って売り飛ばしてやると意気込む者がいるが、システム上不可能だと誰も言えなかった。


「そ、それはその」


「やっぱりやめませんか?しゃれにならないでしょ」


「そ、そうだよ。そもそもどうしてそんなこと知ってるんですか?」


「黙れッ!!」


 机を強くたたいて反論を止める。


「いいか、俺が決めたんだ。だからいいんだよ。もともと不正をしてるのは彼奴が先だッ」


「「「………」」」


 その言葉に誰もなにも言わなくなり、副ギルマスは震えているのか、身体を抱きしめて泣きそうな顔をしている。


「分かってるよな? お前らが楽しむゲームできてるのは全部俺のおかげだ。俺が強いから、俺が偉いから、俺がここを見つけたからだッ!」


 そう怒鳴り散らしている時、建物に攻撃魔法が放たれた。


「ッ!?」


「なんだッ?!」


 扉が破壊され、煙の中から不機嫌そうな女騎士が現れる。


「言うに事を欠いて自分が見つけた、か……お前の頭の中はどうなってるんだ」


「黄昏の乙女ッ!?」


「ジャンヌッ!?」


「バカな、なんでここが」


「よく思い出すんだな、ここを見つけた時の事。メロディーバードに変わるレアモンスターを探していた彼がたまたま見つけた。隠れ家っぽいけど狭いし、開拓地から離れているところ。緊急以外使わなそうだと報告されたはずだよ」


 カリバーが現れてえっ!?と言う顔をする紅蓮の獅子戦記のメンバー。それに激昂するギルマス。


「レイドッ、彼奴が喋りやがったのかッ!?裏切り者がぁぁぁぁぁぁ」


 本人がここに居たらもう仲間ですらねえだろ。そう顔を歪めて言っていただろう。現にジャンヌとカリバー他、その叫びを聞いた神技と黄昏や他の有力ギルドのプレイヤー達は顔を歪めて戦記のギルマスを見た。


「………さすがにカチンと来た。そろそろ彼に責任を押し付けるのはやめたらどうだ?」


「安心しろ、賞金首討伐で真っ白になったら追いかけまわしたりはしない。同じことを繰り返さない限りはな」


「だからここで全員キルさせてもらう。総員かかれッ」


「てめぇらッ、例の作戦を絶対にしろよッ。レイドに目に物を見せてやるんだッ!」


 そんなことを叫ぶ中、紅蓮の獅子戦記は逃げ出した。逃げ口だけはさすがに分からない。連合を組み、絶対に逃がさないとプレイヤーはレッドネームを追いかけた。

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