最終夜 月読の輪廻④

 「神奈原カムナバルの女性は、適齢期になると体外的な刺激によって生殖ホルモンが分泌されます。たとえば、恋する男性から情熱的にキスされるなど、生殖ホルモンの濃度が高まると、卵巣から排卵すると同時に生殖腺と呼ばれる器官から擬似的な精液を射精します。そして、子宮の中で受精が起こるのです」

 「その擬似的な精液っていうのは、男性が作り出すものじゃないのか」

 「いいえ、神奈原カムナバルの女性の生殖腺は、先天的に男性の精子に含まれるDNAの塩基配列の型を記憶しているのです。そして、外的な刺激に反応することで、女性だけの肉体で生殖が可能となったのです」


 「つまり、カムナバルの人間は、単性生殖の種族なのか?」

 「いいえ、そうではありません。男性とむつみ合うことにより、子を成すことも可能であり、それが本来の姿なのです。単性生殖の機能は、歴史上戦乱が重なった時代があり、男性の数が激減したときに、種の保存のためにそのような形で体の変化が起こったと言われています。この機能によって、戦時下や宇宙を航行する際に男性がいない状態でも生命を継続することができるようになったのです」

 そういえば、月読つきよから父親の話を聞いたことはなかった。おそらく枝分ブランチシップの中で、男性が死に絶えたのちに、月読の母は、月読を産んで細々と生命を繋いでいったのかもしれない。いまとなっては、月読に父親がいたのかわからない。


 「というわけで、このお嬢さまが月読さまの遺伝子を継いでおられ、だんなさまと遺伝的なつながり、いわゆる『血縁』関係にないという事実がお分かりいただけたと思います。では、年齢を進めてまいります。次は生後六カ月です」


 映写機から新たな子どもの姿が映し出される。そこには十代中頃を思わせる女子の姿があった。

 「これは・・」

 「地球人女性であれば十五歳くらいではないでしょうか」

 映写機の映像がくるりと一回転した。三六〇度、どの角度から見ても、月読の姿と瓜二つである。ただ、最後の月読の姿とは、違って体の発育は未発達のようだ。

 「さらに進めます。これが生後一年です」

 映写機の中で、映像が徐々に変化する。しかし、見た目はさほど変わらない。

 「さらに、三年後の姿です」

 今度も見た目はさほど変わらない。ただ、心なしかバストやヒップが大きくなり、全体的に成熟した容姿となっている。


 「だんなさまには残念ですが、こちらの映像では丸裸にはできませんので、体のシルエットだけご堪能ください」

 「だれが期待するか、そんな機能!」

 「続いて、これが十年後の姿です」

 映写機が十年後の姿を映し出す。これも、見た目にさほどの変化はない。ただ、顔付きや体付きは成熟した成人女性の姿となっていた。


 「さらに、二十年後にまいりましょうか」とノリノリで説明する玉藻たまもを、健造があわてて制した。

 「ちょ、ちょっと待て!カムナバルの女性の寿命は、せいぜい十年じゃないのか。二十年も生きるってことがあるのか?」

 玉藻は、健造の反応を確認しながら、少し間を置いて静かに言葉を口にした。


 「だんなさま、それは『不死の薬』のおかげなのです」


 京都で見つかったシャトルに保存されていた「不死の薬」。月読は、二つのリザーブポッドを取り出して、それを命言と玉藻に渡していた。

 「『不死の薬』は、成長抑制剤のことじゃないのか?」

 「成長抑制剤は、延命効果はありますが、いずれ寿命が参ります。服用しても、不死にはなりません。『不死の薬』とは、先人が残してくれたのは、地球人のゲノムのことだったのです」

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