最終夜 月読の輪廻③
***
九月になって、二学期が始まった。積極的に学校に行きたいという気持ちにはなれなかったが、始業式をさぼってしまうと、このままずるずるといってしまいそうな気がしていたので、無理にでも起床し制服のワイシャツに袖を通した。
ひとりで通う通学路が物悲しくてたまらなかった。暑さの猛威が
その気持ちをくれたのは、月読の子である。
帰宅して玄関の扉を開けると、う~う~という声を発しながら、健造のほうへ向ってよちよち歩きで突進してくる。生まれてから二週間でいちおう二足歩行ができるようになるというのは、この星の人間では考えられない驚異的な成長速度であろう。健造は、自分の足にぺたりとしがみつく子を見て、カバンを置いて両手で子どもの
「だんなさま・・おかえりなさいませ」
玉藻が出迎える。最近、
「なにか、変わったことは?」
「はい、食欲はありますし、発育は順調のようです」
「そうか」
健造は目を細めた。そして、もう一度、子どもを高い高いしてから、ゆっくりと床の上に下ろした。
「だんなさま、実はその件で、少しばかりお話があります」
そう言って、玉藻は、棚の上からカメラのような形の器械を取り出した。真ん中の円形の筒の部分を上に向け、テーブルの上に置いた。「こちらをご覧ください」と言ってスイッチを入れると、筒の先端部から光線が発射され、その光の束の中に人間の姿が映し出された。この器械はどうやら立体映写機のようだ。そして、映し出されているのは、どうやらこの子らしい。
「お嬢さまの身体検査を行い、ようやくその解析が終わりました。お嬢さまの今後の成長予測についてご報告できる運びとなりました。これが生後一カ月後のお姿です」
器械の脇についている小さなモニターを操作すると、成長した子どもの姿が映し出された。健造は息を呑んだ。
「これは・・」
「だんなさまは、ご記憶に新しいことでしょう」
そう、雑木林ではじめて月読を拾ったときの姿にそっくりである。
「これが生後二カ月、三カ月です」
光の束の中で、立体映像が徐々に成長した姿を現している。どれをみても、健造が経験してきた月読の成長の過程にぴったりと符合する。
「これって、月読の映像じゃないのか?」
「いいえ、違います。お嬢さまの成長を予測したものです。無理もありません。月読さまの遺伝子をそのまま受け継いだ月読さまのご息女なのですから、外見上、目立った変化が生じないのは当然のことです」
月読が最後に言っていたのも同じセリフだ。だが、妊娠のきっかけを作った
「月読の子であっておれの子じゃないとすると、その・・お、おれがキスして月読が妊娠したっていうのは、どう説明するんだ」
それを聞くと、玉藻は、右手を口に当て、くくくと嘲笑するように言った。
「だんなさまぁ、キスじゃ子どもが生まれないことくらい、きょうび小学一年生でも知ってますよ~」
「し、知っとるわ~、それくらいのこと! バカにすんな! 地球人の性の常識はともかくとして、月読の妊娠をどう説明するかって聞いてるんだ」
バカにされたよ、玉藻に! なんかこいつ、だんだん命言に似てきたような??
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