第三夜 かぐや姫との高校生活(スクールデイズ)⑤

 休み時間、美幸と会話中の月読つきよのところに、未子みこがにやけた表情かおで寄ってくるので、何ごとかと向き直った。未子みこは早速、先ほどの健造らとの会話に絡んできた。

 「月読の従兄さんって、彼のことだったのかぁ~ ってことは、あたしと美幸が生徒会に連れて行ったちっちゃな女の子は、あんたの妹だったんだね~」


 月読はぎくりとして、未子の顔色をおそるおそる眺めた。未子は、月読に顔を近付けてきて、「う~ん」と至近距離から熱視線を浴びせ続けた。月読はその無言の攻撃にたじろいだ。

 「そっか~ やっぱり姉妹だよね~ うーん、顔もそっくりだし、それに・・」

 未子の両手がいきなり月読の頬に触れると、例によって高速で振動し、月読の頬が波打つように揺れ動いた。

 「さわり心地も、そっくりだよね~」


 とりあえず、同一人物だと気付いてはいないようで、月読は頬を波打たせながら、ほっと安堵した。そんな二人の様子を見ていた美幸が、呆れたように言った。

 「それで、月読さんの従兄さんがどうかしたんですの?」

 未子は、月読の頬から手を離して、興味津々というように話し始めた。

 「あー、月読の従兄さんって、生徒会長にいつもくっついてる書記の人だよね~ 書記は、会長が任命権者だから、中富さんが仲のいい人を引っ張って来たって話だよ」

 「あ、そのことなら、わたしも知ってますわ。中富さんって、はっきりしてるから、合わないって人が多いって。でも、讃岐さんには、前から心を許してるみたいで」


 美幸も前から健造の存在を知っているという反応だ。二人とも既知ということは、扶佐子のおかげで、何一つ目立つところがない健造も、少しは人の役に立っているのだと、月読は内心ほっとした。

しかし、その安堵も束の間、未子の次の一言は月読に予期せぬ衝撃を与えた。

 「そうそう、さっきも、あうんの呼吸でいい感じだったよね~ それで、中富さんの彼氏なんて説もあるよね~」

 「か、『彼氏』ですか!?」


 急転直下、寝耳が洪水の事実に、月読の顔が途端にあおざめた。表情が強張って、身体が硬直している。月読の反応を見て、あわてて未子がフォローを入れた。

 「あ、あれ? 月読、知らなかった?」

 これには、美幸もあいの手を入れた。

 「未子、ちょっと言葉が過ぎるんじゃありませんか!」

 「い、いやぁ、そう決まってるわけじゃないから、噂だからね、う、わ、さ。一緒に住んでるんだから、この際はっきり聞いてみたらどーよ」

 「生徒会のこと、あんまり教えてくれないんです」どんよりとした声で月読が答える。


 「生徒会の付き合いなんて、ビジネスライクというか、仕事上の付き合いみたいなものですわ。ほら、会社だって、必ずしも同僚の女性と恋愛する訳じゃないでしょ」

 美幸の言うのは、もっともらしい大人の意見だ。

 「そうか~? うちの両親、職場結婚なんだけどなぁ~ 仕事の一体感と達成感で、そのまま恋に突っ走っちゃったって、親がよくノロけるのよね~ で、その勢いで、結婚まで行っちゃったみたいなのよね~」

 未子の言うこともよく有る話と思える。


 「あ、あなたの両親の馴れ初めなど、この際関係ないですわ!」

 美幸の顔に、「私の足を引っ張るな!」とはっきりと書いてあった。

 「月読って意外にブラザー・コンプレックスだったりする? いや、この場合、カズン・コンプレックス? ん、そんな言葉聞いたことないね」

 「まあまあ、中富さんが讃岐さんのことを信頼しているのは確かだけど、さすがに恋愛感情まで持っているとは思えないし、さりげなく聞いてみてはどうかしら」

 改めて考えると大袈裟おおげさな話なのだが、さりとて生徒会での健造と扶佐子の緊密な関係は、疑いようがないと思える。同級生から有力情報を得て、月読の胸に小さな波紋が広がっていった。


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