第三夜 かぐや姫との高校生活(スクールデイズ)①

 朝はだるく眠い。陽気のいい、初夏を思わせる五月晴れの、絶好の日和ですら、平日の朝となるとなかなか目が覚めない。健造は、今更ながらおのれの低血圧と虚弱体質をのろった。そんなけだるい登校前、傍若無人な怒鳴り声が部屋に響き渡った。


 「ちょっと、なにやってんのよ、もう! 起きなさいよ! 起きなさいってば!」


 乱暴に体を揺すられ、頭から罵声ばせいを浴びる。稼働前の停滞した脳みそが、キンキンとした声に刺激されている。頭から布団を被ろうとすると、その手を強引に引きがしてさらに音量が上がる。


 「いい加減にしなさいよ、あんた! いつまで寝てる気なの!」


 健造が仕方なく、うっすらと目を開けると、ツインテールの月読つきよが腰に手を当てて自分の前に立っていた。しかも・・・


 「なぜ、スク水・・??」


 最近手足が伸びたせいか、すらりとした体にぴったりと張り付いたスクール水着が、スレンダーなボディラインを強調している。毎朝続くコスプレ学芸会。今朝のお題は・・ 健造の知覚がもっさりと起動を始めた。


 「な、なによ・・もー、いやらしい目で、じろじろ見ないでくれる! あんたに、見せようと思って着てるんじゃないんだからね! 誤解しないでよねっ!」


 「あっ、そうだよな。ごめん、ごめん」

 健造は、大あくびを一つしてからひょっこりと起き上がり、月読つきよをスルーして立ち去ろうとした。月読は、健造を引き留めようとして、あわててパジャマのすそをつまんだ。


 「って、だんなさま。うそですよ、うそ・・ 実は、ちょっと見せたいな、なんて気もあったりして・・」

 「おれ、朝飯食って学校行く仕度しなきゃ」

 「わ、わ、ちょっと! 私の今朝のこの姿について、いつものようにご質問はないのでしょうか?」

 「今日、日直だから早く家を出たいんだよね」

 「まだ、時間はありますから。この姿はですね・・」

 「あー、なに? 今日は?」


 「今日の私は、ずばり殿方の妖精『ちょっと小生意気だけど、実は兄のことがすごく気になっていて、本心を隠すように素っ気ない態度を取ってしまう、本当はおませでかわいい妹』です! ポイントは左右に束ねたチャーミングな髪の毛ツインテールと、お肌にぴったりのスクール水着です! 

 って、ばっかじゃないの、あんた! ここまで言わないと分かんないわけ!」


妹はツンデレ・・が基本と思っているようだ。


「っちっ!!」


「いきなり、舌打ちですか!?」

「それより、おれ、先にうち出るわ」

「わ、わ、わ・・ いま着替えますから、置いていかないでください!」

 命言みことの差し金(?)で毎朝のお目覚め学芸会は続いているが、以前とは違い、一週間前から月読は健造と同じ高校に通い始めている。クラスは、一年A組である。


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