第二夜 かぐや姫養育日記⑤
生徒会室では、ちょうど生徒会メンバーが集まって、雑談をしていた。
「すみません、こちらに二Eの讃岐さんはいますか?」
見慣れぬ来客とあって、まず生徒会長の
「讃岐くんなら、職員室に寄っているから、まだ来ていないわよ」
月読は、扶佐子の姿を見てはっと思った。健造の部屋に生徒会メンバーで撮った写真が飾られており、彼女がその中心に位置していたので、生徒会長だとすぐに分かった。
「讃岐くんになにか用かしら?」
扶佐子の言葉を聞いて、美幸の陰に隠れていた月読は、ぺたぺたとスリッパを踏み鳴らしながら姿を現した。
「この子、讃岐さんに傘を届けに来たようなんですけど、玄関のところで迷っていて、私たちが送り届けに来たんです」
そう説明する美幸のとなりで、月読は扶佐子にぺこりと一礼した。
「あら、ま、かわいい子! ねぇ、あなた、健造の妹さん?」
扶佐子が膝を折ってしゃがみ、月読と顔を合わせた。心なしかしゃべり方がおばさん口調になっている。
「はい、従妹です。健造お兄ちゃんに、傘を届けに来ました」
その様子を見て、中から他の生徒会メンバーもこぞって近寄って来た。
「わぁ、幼児だよ、幼児! それも、女の子だよ。ちっちゃくてかわいいなぁ!」
「ちょっと、あんたが女児を見てはしゃぐと、ちょっとヤバい感じがするわよ!」
「さぁ、中に入って。もうすぐ健造も来るから」
扶佐子は、そう言って月読、未子、美幸の三人を生徒会室に招き入れた。
生徒会の三人+
「かわいい~ レインコートと長靴が似合うぅ。まるで、着せ替え人形みたいね」
「色白でぷっくりして、こりゃ、とんでもない美少女になるね~」
「ひとりで傘を持ってきたの~ 偉いわね~」
月読はその中心にあって、ひとりもじもじと
ほどなくして、健造が姿を現した。がやがやとした声に、何ごとかと思ってドアを開くと、狭い部屋の中で
「月読じゃないか・・」
遅れて入って来た健造は、みなの注目を一斉に浴びた。なぜ、ここに月読が? しかも、なぜ皆の中心にいるのか? 事態の把握に努めようとするが、さっぱり答が浮かばない。その疑問を問い
「傘を届けに来たら学校の中で迷ってしまって、あのおねえさんたちがここまで送り届けてくれたんです」
月読は、面々に気取られぬように小声でささやいた。なるほど、状況は理解できたのだが、興味津々という視線を降り注がせる彼らに対し、月読の存在をどう説明したらいいかと思うと、途端に気が重くなった。
健造は、とっさに月読をひょいと抱き上げた。
「月読! どうしたんだ、ひとりでここまで来たのか? 危ないじゃないか」
「健造! その子はあんたの家に住んでるの?」
「いや。ここ数日、泊まりに来ているだけだよ」
とりあえず思い付いた言い訳を口にする。あまりにも不意の展開に、まったく答を用意していない。
「そうか~ だめだぞ、ひとりでここまで来ちゃ、あぶないんだからな~ あれっ? あくびしているのかな? もうおねむの時間なんじゃないか? こりゃ大変だ、帰って早く寝かしつけなきゃ」
月読に言葉をかけつつ、わざとらしくひとり芝居を披露してから、健造は扶佐子に向かって恭しく訊ねた。
「というわけで、この子を連れて帰らなきゃならないので、今日はこれで失礼するよ」
「え、ああ、いいわよ。それじゃ」
健造の、急を要するという態度に、扶佐子も乗せられて許諾の返事をした。健造は、月読を抱きかかえながらかばんを取り、ここまで連れて来てくれた
「何だったんだろうね~ あの子」 「さぁ~?」
主役を
「やれやれ・・」
月読とバスに乗り込んだ健造は、後部の座席に腰掛けるとふぅ~と息を吐いた。隣りにはちょこんと、月読が座っている。
「どうして、わざわざここまで来たんだよ?」
健造は、Yシャツの
「お昼から雨が降って来ましたから、だんなさまが濡れちゃうといけませんので」
月読はしっかりした口調で理由を述べた。親切に傘を届けに来たのに、礼のひとこともないばかりか、どうやら健造には迷惑だったようである。
「おれはいいんだよ、雨が降ってもなんとかするから。そう! 扶佐子ん家がこの近くだから、傘に入れてもらって、そのまま借りて行けばいいんだから」
月読はそれを聞いて、二人が
「それじゃ、二人とも濡れてしまいます!」 むすっとして、月読が答えた。
「別にいいんだよ、多少濡れたって。あいつの家、近いんだし」
健造は、月読の顔を見た。なんか機嫌が悪くなっていないか、こいつは。
「わかりました。わたし、傘を届けて、お二人の邪魔しちゃったわけですね」
月読は、腕組みをしてぷんすか頬を膨らませていた。
「な、なんか怒ってるみたいなんですけど・・」
健造は、身体を引きながら、本当におねむでくずり出したのかと思った。幼児の機嫌は変わり易いので、帰ったらおやつをあげなくちゃと本気で考えていた。
(次回 事件勃発!)
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