第二夜 かぐや姫養育日記④
その日は、午後からひとしきり雨の予報だった。正午のニュースで天気予報を確認した
「傘、届けてあげなくちゃ・・」
幼児の歩みは遅い。健造の家は多摩丘陵にある。学校まで小山のような二つの丘を越えるのだが、その起伏を越えるのに一時間以上を要した。ようやく健造の高校にたどり着いたときには、ちょうど六限の授業が終わる直前だった。
校門の前で、月読は
月読は意を決して校門をくぐった。幸い、下校時間にはまだ早かったのと、雨で人通りが少なかったのが幸いして、何ごともなく玄関の中に入れた。ちっちゃな長靴を揃えて、備え付けの来客用の子どもスリッパを拝借し、ぺたぺたと廊下を歩きだした。
さて、どこから探せばいいものかと思案していると、廊下の向こうを歩いていた二人組の女子に目撃された。
「あれ? 子どもがいる。ちっちゃな子どもだよ、
「あら、ほんとね、親御さんとはぐれたのかしら。行ってみましょう、
ぎくっとして月読が振り向くと、並んで歩いていた女子二人に姿を発見されてしまった。月読が、もはやこれまでと覚悟を決めたところへ、二人は近付いてきた。
「どうしたの? 誰か探しているの?」
「ほほぅ。幼児が校内を一人で歩いているなんて、なんか訳ありなのかな?」
「でも、この子、折り畳み傘を持ってるわよ。雨が降るから届けに来たんじゃないかしら。ねぇ、あなたひとりでここにいらしたの?」
黙っているのも、かえって怪しまれると思い、月読は口を開いた。
「はい。お兄ちゃんに傘を届けに来ました・・」
その声を聞いて、未子と呼ばれた女子は、
「かわいいねぇ~ よく見ると、ほっぺがぷっくりとして、おまんじゅうみたい。おいしそうな子だねぇ~」
未子はそう言うと、目を細めた。月読はぞっとした。なにかこの女子のツボにはまったみたいなのだが、そのツボがいまひとつ分からない。
「ね、ね、お姉ちゃんに触らせて」
そう言い終わらないうちに、未子は両手で月読のほっぺたを撫で始めた。未子の手は高速で振動し、ふくよかな月読の頬が波打つように揺れ動いた。
「いやぁ、軟らかいよ~ 気持ちいい。あたしのほっぺで、すりすりしてあげたい-」
言った傍から、未子は月読を抱き上げて、自分の頬に近付けようとした。
「未子ったら、およしなさいな。ほら、この子怯えているじゃないの!」
美幸が未子の蛮行を制した。いきなりのスキンシップ波状攻撃に、さすがの月読も硬直したまま、表情に恐怖の色を浮かべていた。
「はは、ごめん、ごめん。あんまりおいしそうだったんで、つい」
地面に下ろされた月読は、恐怖のあまりぷるぷると震えながら、「わたしは、食べ物じゃないよぉ。食べても、おいしくないよぉ」と心の底から救済を求めていた。
「ええっと、じゃぁ、あなたのお兄さんのお名前を聞こうかしら」
そこへ行くと、もう一人の美幸という女子は、しっかりとして頼りになりそうだ。よく見ると、ウェーブのかかった髪に、きれいに整った
未子と美幸は、月読の手を引いて二年E組の健造のクラスに連れて行ったが、一足違いで、健造は生徒会室に向かっていた。
「きみのお兄さんって、生徒会の人だったんだね~」
未子はそう言うと、美幸とともに健造のクラスをあとにして生徒会室へ向った。
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