第二夜 かぐや姫養育日記③
居候に生活をひっかきまわされている気がして、今後の高校生活が思いやられる。健造は、五日ぶりの登校中、そう悲観していた。軽いめまいを覚えるのは、低血圧のせいばかりではない。これから学校で、様々な言い訳を取り
教室に入ると、健造を待ち構えるように、同級生の
「健造! ちょっと、あんた四月早々、どうしちゃったのよ」
新入生でもないのに、春先から体調を崩しましたというのは気が引けるが、
「い、いや・・ちょっと季節の変わり目で、風邪を引いてしまって・・」
苦し紛れの言い訳に、舌を噛みそうになる。扶佐子の追及をかわせるか、自信がない。
「あんたに限って、ずる休みってことはないでしょうから、何か大変なことがあったんじゃないの? 例えば、実家のこととか」
こういうとき、扶佐子は何か困ったことはないかと個人の事情に踏み込んでくる。世話焼き好きの彼女なりの気遣いなのだろうが、この場合、正直に話せないからうざい。
「そんなこと全然ないよ。ほんと、単なる風邪だって」
「ほんと? ちゃんとご飯食べてる? 野菜も食べてるんでしょうね!」
ここまで言われると、何か口うるさい奥さんみたいじゃないか・・という言葉が脳裏をかすめて、ちょっと照れた。
「大丈夫だよ。ほんと、いつも通りだって。それよりも休みの間、生徒会の仕事を溜めちゃってすまなかったね。今日から、前年度の決算整理をやらなきゃ」
「あー、そのことなら各部に連絡しておいたから心配ないわよ。あとは、活動実績を回収して集計しておいてね」
扶佐子はそう言って、健造の肩をぽんと叩いた。
やれやれ相変わらずの仕事ぶりだなと、健造は扶佐子の行動力に舌を巻いた。これじゃ、自分がいてもいなくても変わらない。人望を集めて高二ながら生徒会長に推されただけのことはある。
健造が通う私立
一年生の頃は、方言の問題も
そんな浮いた存在である健造に、真っ先に声をかけたのが
その扶佐子が、なんの気まぐれか、健造を書記として半ば強引に生徒会に参画させたのである。健造の高校の生徒会は、会長は選挙で選ばれるが、副会長や書記は会長の指名であり、希望者がいれば自動的に選出されることとなっている。
扶佐子は、「あんた部活やってなくて暇だろうから、生徒会に入りなさいよ。あたしが推薦するから書記になりなさい」と健造に宣言した。
健造が「そんな唐突に言われても、いますぐ返事ができないから、ちょっと考えさせてよ」と言って、角が立たないように断りの返事を考えているうちに、扶佐子は他の生徒会メンバーの根回しを済ませ内諾を取っていた。そして、「よく考えたけど、やっぱりおれには無理なので、ほかのやつにしてくれるか」と返答するために、のこのこと生徒会室に現れた健造をつかまえて、生徒会の新メンバーとして紹介したのであった。
扶佐子の策略にまんまとはまり、健造は生徒会書記に仕立て上げられた。しかし、扶佐子を恨んでいる訳ではない。
健造は、生徒会の仕事にやりがいを覚えていた。生徒会活動は、クラス代表による学校会議の主催、学校行事の支援、教員会議との調整など多岐にわたっている。学校の運営というものが、様々な局面で多くの人の手によって支えられていることを改めて実感していたのだった。
(次回、高校に月読現る。)
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