第二夜 かぐや姫養育日記②

 命言みことが昼間に外出するため、健造が学校にいる間、月読つきよは一人きりであった。外見はすくすくと成長し、十センチは身長が伸びただろうか、すっかり幼稚園児くらいの大きさになっていた。育ち盛り、やんちゃ盛りで、体を持て余しているせいか、家の中ではじっとしていられないようだ。

 低血圧の健造とは対照的に、子どもは朝が早い。月読つきよも例外ではなく、今朝も元気な声を響かせて、健造の起床を手伝っている。


 「悪の魔王に魔法をかけられて、夢の中にとらわれてる、みんな! 目を覚ますのよ」

 血圧が上がらず、もうろうとする頭に幼児の甲高い声ががんがん響いてくる。うっすら目を開けると、ベッドの上に魔法少女が立っていた。大袈裟なくらい大きなリボンで、髪の両端をしばり、青いラメが輝くピンクのドレスに、丈の短いフリフリスカート。胸にはメイクアップコンパクトをかたどったどデカいペンダントをぶら下げ、星やら羽やらのコテコテした飾りがついた魔法杖マジカルステッキを振りかざして、キメのポーズをとっている。


 「なぜ、魔法少女・・??」

 などという疑問は、日課として毎朝行われている、お遊戯会の演目と納得するしかなかった。


 「だんなさまも睡眠魔法をかけられているのね。 私が魔法で解き払ってあげますわ!」

 手のひらを横にかざし、指のすきまから覗く大きな瞳が、きらきらと光沢を放ち輝いている。フリルのついた短いスカートが規則的に回転し、波動を描きながら揺れ動いている。なりきり魔法少女のボルテージが最高潮に高まる。月光魔法少女ルナティックマジカルプリンセスツキヨは、魔法杖マジカルステッキを振り回しながら呪文の詠唱に入った。

 「ルナティックパワー、我が導きに応え月の軌跡にその聖なる力をあらわし給え!」

 片足立ちし天井に向かって魔法杖マジカルステッキを振り上げ、右手いっぱいに大きな円弧を描いた。


 「流星群シューティングスター大爆発エクスプロージョン!!!」


 天井にかざした月読の魔法杖マジカルステッキが、健造の眉間に振り下ろされた。


 「えいっ!」

 ごつっ

 「いでぇ~~!!」


 鈍い音とともに、健造の苦悶の悲鳴が部屋中にこだました。いかつい鈍器で殴打された痛みが額を走り、健造は床に転げ落ちてのたうち回った。初めて知った! マジカルステッキって、鉄パイプみたいに固いんだと。

 悶絶する健造をよそに命言がどかどかと部屋の中に侵入し、「あ~あ、いけませんよ、月読さま。朝っぱらからはしゃいだら、だんなさまが遅刻しちゃいますよ」と言って、月読の両腋わきに手を入れてひょいと持ち上げ、そのまま食卓へと運んで行った。あとには、額に手を押さえながら、何だったんだいまのはと、苦痛に顔をゆがめる健造が、床に落ちた魔法杖マジカルステッキをひとり凝視していた。


 それにしても、月光魔法少女ルナティックマジカルプリンセスツキヨおそるべし! 本当に流れ星が見えました。


(次回、久々の登校!)


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