第20話
アルファ厶の低い声に、俺の胸がドクンと跳ねる。
少しテンションが高かったかな…と照れて俯いた俺の頬を撫でながら、アルファ厶が笑いを漏らした。
「ふっ…、馬が翔ぶ姿は初めて見たのか?」
「う…ん、初めて…。だって俺がいた世界でも馬はいたけど、もう少し小さいし翼が生える馬なんていなかったよ」
「そうか。ならカナは初めての空が怖くて震えていたのだな」
「いや、飛行機に乗ったことがあるから初めてじゃないよ?ヴァイスが結構揺れたから、落ちやしないかとちょっと怖かったんだ…」
俺はアルファ厶の膝から降りて、ベッドの端に腰掛けた。
アルファ厶も、俺の隣に移動してきて「ひこうき…?」と聞いてきた。
「うん飛行機。さっきのヴァイスよりも、もっと高く飛んですごく速いんだよ?」
「なにっ?そんなにすごい生き物がいるのか?」
大きく目を見開いて、アルファ厶が俺の肩を掴む。
俺はアルファ厶の驚いた顔が珍しくて、ふふっと声に出して笑った。
「アルの目力、半端ないね。ううん、生き物じゃなくて人が作った乗り物だよ。他にも馬よりも早く移動する車や電車って言う乗り物もあるよ」
「なんと。カナのいた世界には素晴らしい魔法があるのだな…」
「…いや、魔法じゃなくて…。うん…説明できないし魔法でいいや…。でも俺からしたら、ここは不思議なことがいっぱいで、すごく感動するし楽しいよ」
「そうか。カナ、城に着いたら早速術を教えてやろう」
「ほんとっ?やったー!じゃあアル、早く行こう!もう腰も治ったから少しくらい飛ばしても大丈夫だよっ」
「ふっ、よし行くか。俺もカナに早く城を見せたいからな」
そう言うと、アルファ厶はすぐにシアンを呼んで出発の準備を整え、俺達は慌ただしく宿を後にした。
アルファ厶から聞いたところによると、翼が生えて空を翔ぶことが出来る馬は、ヴァイスとシアンが乗っている栗毛の馬と、あとは王城にいる十頭だけだそうだ。
それに空を翔ぶ馬に乗ることが出来るのは、位が高い者だけらしい。
密かに自分専用の空飛ぶ馬が欲しいなぁと思っていたけど、位も何も無い俺にはきっと無理な話だ。
でも今度はしっかりと目を開けて乗ってみたい。だから王城に着いたらアルファ厶に、もう一度翔んでもらえるようにお願いしようと考えて、とても楽しくなってきた。
俺のせいで出発が大幅に遅れたけど、かなり急いだおかげで、なんとか日が変わる前には王城に着いた。
たくさんの石造りの建物が並ぶ大きな街の中を進んで行くと、少し小高い丘になっている場所に、かなりの高さの塀と立派な門が現れた。
どこまでも続く塀のこの中に、アルファ厶の城があるらしい。
門の上に向かってシアンが声をかけると、まるで自動ドアのように、大きな門が内側へと静かに開いた。
俺は少し緊張してきて、知らず知らずにアルファ厶の手を掴んでいたらしい。
アルファ厶が俺の手を包んで、頭の上から優しく囁いた。
「カナ、ここが俺の城だ。俺はおまえを歓迎する。よく一緒に来てくれたな。嬉しいぞ」
「…アル。ほんと?俺、来て良かったの?」「当たり前だ。というか俺が無理矢理連れて来たようなものだ。ここでは好きに過ごしていいぞ」
アルファ厶を振り仰いだ俺の頬に唇をつけて、アルファ厶が眩しい笑顔を向けてくる。その笑顔を見て、ようやく緊張が解れてきた俺は、馬上から外灯に照らされた城の中をキョロキョロと見た。
所々に外灯が灯って明るいのだけど、昼間のようにはっきりとは全貌がわからない。でも、かなり立派な城だということはわかった。
長く続く石畳を進むと、城の大きな扉の前に、薄いピンク色の髪をした初老の男が立っていた。その人の数メートル手前で、アルファ厶が俺を抱き抱えて馬から降りる。
「ホルガー、留守番ご苦労だった。変わりはないか?」
「おかえりなさいませ、アルファ厶様。変わりはございません。…そちらの方は?」
「カナデと言う。彼の城で見つけた。見ろ、尊い黒髪に美しい容姿。カナは神から俺への贈り物だ。俺の大切な宝だ。皆にも丁重に接するように伝えておいてくれ」
「承知致しました。カナデ様、私はホルガーと申します。この国の宰相をしております。どうぞよろしく…」
「え?あっ、カ、カナデと言います。急に来てしまってごめんなさいっ。よろしくお願いしますっ」
どう見てもアルファ厶の次に位の高そうなおじさんに頭を下げられて、慌てた俺は、彼よりも深く頭を下げた。
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