第18話
昨夜泊まった白い建物に着くと、すぐに部屋に入って手を洗う。
すでに料理が用意されているテーブルの前に座り、手を合わせてパンを掴むとパクリと齧り付いた。
「カナ」
「ふぁひ?」
「ふっ、そのまま食事を続けていい。ちょっと痛いが我慢しろよ?」
パンを咀嚼しながら、俺の横に立つアルファ厶を見上げる。
アルファ厶は笑いながら俺の頭に手を置いて顔を前に向かせると、俺の耳に冷たい布を当てた。
布の冷たい感触と、レオナルトに噛まれた箇所のピリリとした痛みに、思わず肩を跳ねさせる。
耳に触れようと上げた手をアルファ厶に握られてしまい、俺は俯いて痛みに耐えた。
「我慢しろと言っただろう。怪我の治癒だ。これはアイツにやられたのか?」
「うん…。俺が文句ばかり言ってうるさいって噛まれた…」
「なんだと?やはりあそこで殺るべきだったか」
「え?殺るっ?ダ、ダメだよっ。そんなこと絶対にしたらダメだからなっ」
アルファ厶の方を見ようと動かした顔を、アルファ厶にぐいと押されてまた前を向かされる。
「まだ治癒の途中だ。カナは食事を続けていろ。…なんでダメなのだ?アイツはカナを攫おうとした悪人だぞ。しかも傷をつけた。悪人には罰を与えねばならない」
「…でも…」
俺は自分の意見を言おうとして、俯いて口を噤んだ。
俺がいた世界とこの世界では、きっと価値観が違うのだ。
悪人に罰を与えるのは当たり前。俺がいた世界でもそうだった。
ただここでは、アルファ厶の口調からすると、どうやら悪人をその場で成敗してもいいらしい。それが常識なのかもしれない。
だから俺が言うことは、たぶんおかしいと捉えられてしまうかもしれない。
俺は静かに息を吐くと、自分の意見を押し付けることを止めて、目の前の料理を順番に平らげることに集中した。
俺の耳の治癒を終えたアルファ厶も食事を終えて、すぐに出るのかと思っていたら「少し待て」と言う。
俺のせいで出発が遅れたのに悠長にしてていいのかとアルファ厶を見つめていると、アルファ厶が俺に綺麗な笑顔を見せた。
「カナ、そこのベッドにうつ伏せに寝ろ。また尻が痛いのだろう?」
「えっ!い、いや…大丈夫だからっ。いいから早く行こうよっ」
「いいのか?このまま行くと、尻を痛めたおまえを心配して皆の歩みも遅くなる。となれば当然、もっと遅れることになるな…」
「そっ…!れは嫌だ…」
「じゃあ大人しく寝てくれ。なるべく早く治してやるから」
「あんまり…見ないでよ…」
俺は渋々ベッドにうつ伏せになり、顔をアルファ厶の反対側に向ける。
俺の頭上でクスリと笑う気配がして、アルファ厶がズボンと下着に手をかけた。
途端に俺はズボンを掴んで身体を起こす。
アルファ厶が驚いた顔で俺を見た。
「やっぱり無理っ。こんな明るい所で見られるの、恥ずかし過ぎて無理…」
「仕方がないな…。カナ、ここにおいで」
アルファ厶がベッドに上がってきて、俺の身体を抱えると、向かい合わせで膝の上に乗せた。
「え?こ?え…っ?」
「カナ、膝で立って俺の首に抱きついてろ」
「…こ、こう?」
アルファ厶に言われた通りに、首に腕を回して顔を寄せる。
あ、アルファ厶の匂い、やっぱり好きだなぁ…。
ぼんやりとそんなことを考えていると、俺の下着の中に手が突っ込まれて尻をスルリと撫でられた。
「なっ、なにすんだよっ…!」
「なにって治癒だろ」
「だって…俺のお尻…お尻に…あ!」
アルファ厶の温かい手が触れた尻に、今度は冷たいものが当てられて、俺はビクンと腰を震わせた。
「ひゃあ?つ、冷たっ」
「大人しくしてろ。すぐに終わる」
俺はアルファ厶の首元に顔を埋めたまま「早くして…」と震えながら呟いた。
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