第17話

 広場から宿へと戻る途中、アルファ厶と俺の帰りが遅いと心配したシアンが迎えに来た。

 ヴァイスに乗って進む俺達の後ろを馬でついてくるシアンに、アルファ厶が少し振り返って声をかける。


「シアン。カナがスイ国の奴に連れ去られそうになった。奴はもしかして密偵かもしれん。他国者の我が国への入国を、もっと厳しくした方がいいかもしれない」

「そうですね。このエン国内で人攫いなど許されることではありません。早速、各地に指令を出しておきます」

「ん、頼んだぞ。それとカナが腹を空かせている。一足先に戻って食事の用意を頼んでおいてくれ」

「畏まりました。カナ様、ご無事でなりよりです」

「うん、ありがとう。心配かけてごめんね」


 ヴァイスの隣に並んだシアンが、俺の言葉に一瞬驚いた顔をして、その後に優しく笑う。

 そして俺とアルファ厶に一礼をして先に駆けて行った。

 俺はアルファ厶の胸に背中をつけて上を向く。


「シアンって綺麗だよね。何歳?」

「確か俺の二個下だから二十五だ」


 アルファ厶が俯いて俺の鼻先にキスをする。

 こんな風に自然とキスをされることが恥ずかしい。でも恥ずかしいよりも嬉しさの方が大きい。

 俺は、とても幸せな気持ちで前を向いて、すぐに勢いよくアルファ厶を見上げた。


「えっ!今なんて言ったっ?シアンが二十五歳でアルはその二個上っ?…アルって若いんだね…」


 アルファ厶は身体が大きくて落ち着いてるし、しかも王様だからそこそこ歳がいってると勝手に思っていた。

 俺の額に唇を寄せて、アルファ厶が不満そうに眉を寄せる。


「なんだ?俺はそんなに老けて見えるのか?まだまだ若いつもりでいたのだが…。カナは俺と違って若く見えて良いな…」

「あぅ…ご、ごめんね?アルってしっかりして落ち着いてるし、王様っておじさんがなるイメージだったから…」

「おじさん…」

「あっ…、違うよ?アルはかっこいいお兄さんだよっ?」


 見るからにシュンと落ち込んだ様子のアルファムが、何だかとても可愛い。

 俺は腕を伸ばしてアルファ厶の頬に触れると、馬上で体の向きを変えて、アルファ厶に抱きついた。


「俺、アルの匂いが好きだよ?だって、とてもいい匂いだもん。おじさんだったら臭いじゃん。だからアルはおじさんじゃないよ」

「そうか。カナは俺の匂いが好きなのか」


 つい先ほどの落ち込みようが嘘のように、急に太陽を思わせる笑顔になったアルファ厶が、抱きつく俺の首に唇を寄せて強く吸う。


「いたいっ」

「ふっ、俺の物だという印だ。誰であろうと俺からカナを奪うことは許さない」

「アルって…暴君…」


 首に手を当てながらポツリと呟く。

 俺は物なんかじゃないと前に言ったのに、まだそんなことを言ってる。

 俺は大きな溜息を吐いて、アルファ厶の胸にペタリと頬をつける。

 アルファ厶の俺の物呼ばわりに文句があるくせに、本当は少し嬉しいとも思ってしまっていた。

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