第16話
雲ひとつない空を駆けるヴァイスの背から落ちないように、アルファ厶の身体に強くしがみついて目を閉じていた。
暫くすると、フワリと内臓が揺れる感覚がして「もう目を開けて大丈夫だ」とアルファ厶が言う。
恐る恐る目を開けると、朝早くにアルファ厶と乗馬の練習をしていた町外れにまで戻って来ていた。
「あ…ここ…」
「もう大丈夫だ。おまえを捜しに行く途中で、近隣に駐在する兵に辺り一帯を警護するように命令を出しておいた。先ほどの奴は、もうおまえに接触することはない」
「ほんと?良かったぁ…。アル、来てくれて嬉しかった、ありがとう…」
アルファ厶の目を見てそう言うや否や、逞しい胸に強く抱きつく。こうやって密着して、アルファ厶の体温を感じ匂いを吸い込むと、俺はとても安心することがわかった。
スリスリと頬を寄せてスンスンと匂いを嗅ぐ俺に笑って、「カナ…」とアルファ厶が呼ぶ。
「なあに?」
まだ匂いを嗅ぎたい俺は、渋々顔を上げてアルファ厶を見た。
そんな俺の頭を撫でて、アルファ厶が俺の顔の前に手を差し出す。
「ほら、カナがこれを落としていってくれたから、迷わず追いかけることが出来た」
首を傾げる俺に、アルファ厶が指で摘んだキラキラと光る赤い石を見せた。
「あっ!それ…っ。アル、ちゃんと気づいてくれたんだ…」
赤い石を持つアルファ厶の手を掴むと、アルファ厶が俺の掌に石を乗せる。
これは昨日城を出る時に、アルファ厶が俺の腕に付けてくれたブレスレットの石だ。
男の俺がこんな物しても…と思ったけど、アルファ厶が「よく似合う」と褒めてくれたから、仕方なく腕に付けていたんだ。
「カナが、これを所々に落として道標にしてくれたから、この石を辿って容易く捜せた。これには魔法を施していてな。おまえがどこにいるのかわかるようになっているのだ」
「へぇ、GPSみたいなもんだね」
「じーぴ?」
「ふふっ、俺の国にあるヤツ。それを持ってると、どこにいるのかすぐわかるんだよ」
「カナの国は不思議な所だな。いつか俺に話して聞かせてくれるか?」
「もちろんいいよ!ところでアル。俺、お腹が空いた…。だって朝から何も食べてないんだよ…」
「ふっ、おまえと言う奴は…。怖いと震えていたかと思えば腹が減ったと泣きそうな顔をする。本当に見ていて飽きない…」
俺の頬をするりと撫でて、アルファ厶の端正な顔が近づく。甘く煌めく緑色の瞳が細められて、俺の唇に柔らかい感触と甘い痺れが広がった。
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