第6話 愛ある監禁

 上も下も右も左も分からない真っ暗闇の中では、自分の身体がまるで宙に浮いているように感じる。

 もしかして俺は、今も長い夢の中にいるんじゃないかと目を閉じたその時、瞼の向こう側が赤く光って目を開けた。

 前から赤い炎が迫って来て俺の身体に巻き付き、そのまま前方へと引っ張られる。

 今度はなに?なんか疲れる夢ばっかだよなぁ。てか、この炎、あんまり熱くない。やっぱり夢だから?


 ぼんやりとそんな事を考えていると「カナ!」と叫ぶアルファ厶の姿が見えた。俺はなぜか彼の姿にとても安堵して、今度こそしっかりと目を閉じた。



 パシャ…パシャン…と静かな水の音が聞こえて俺はゆっくりと意識を浮上させる。

 何度か瞬きをして目を開けると、アルファ厶が怖い顔で俺を見ていた。


「ア…ル、ファム…?」

「気がついたか?」


 顔だけでなく、なんだか声まで冷たく聞こえる。

 俺はアルファ厶の顔に手を伸ばそうとして、今自分が、アルファ厶の膝の上に抱かれて水の中に座っていることに気づいた。


「…ここ?…うみ?」

「違う。奥庭の泉だ。バルコニーから落ちるカナを助ける時に強い力を使ったから、カナに少しだけ火傷を負わせてしまった。その治療をしているのだ」

「…俺を、助ける…」

「そうだ。カナ、俺は怒ってるぞ。おまえを守ってやると言ったのに、俺の大切なカナをおまえが粗雑に扱った。しばらくは自由に動けないようにする。目を離してまた飛び降りられたら敵わん」

「でも…俺、助けないでって言って…んぅっ」


 文句を言おうとした俺の口を、アルファ厶が唇で強く塞ぐ。すぐに舌が入って来て俺の舌を絡めて軽く噛んだ。


「ふっ、う…んっ、んあっ」

「はぁ…甘いな」

「はあっ、はあ…っ、アルのバカっ!痛かったじゃんっ」

「そんなことを言いながら蕩けた顔をしているではないか」


 スルリと頬を撫でられて俺の背中がゾクリと震える。

 アルファ厶の薄い唇は、見た目に反してとても柔らかかった。それにアルファ厶の言う通り、俺の身体は蕩けて力が入らなくなっていた。

 なんで?

 前の世界で俺は男と付き合っていた。でもそれはアイツだからだ。アイツ以外の男なんて全く興味なんてなかったのに…。アイツ以外に触れられても気持ち悪いだけだったのに。

 でも今、アルファ厶に触れられている箇所全てが気持ちいいと思っている。

 俺…アルファ厶のこと、気に入っちゃったのかなぁ…。

 死ぬ程辛いと思って、実際に死のうとしていたのに、今はアルファ厶の胸にもたれて気持ちよくなってる俺って何なの?と自分でおかしくなってクスクス笑う。

 そんな俺の顔を覗き込んで、アルファ厶がまだ怖い顔のまま口を開く。


「カナ、そんな可愛い顔をしても許さないぞ。今から連れて行く部屋から出さないからな。会うのも俺だけだ。いいな?」

「…監禁するの?」


 ポツリと呟いた俺の唇に親指で触れて、アルファ厶が少しだけ顔を緩めた。


「俺の宝を大切にしたいだけだ。部屋には全てのものが揃っているし痛いこともしない。カナが二度と無茶をしないと確信出来たら自由にしてやる」

「…わかった。でも俺が大事だって言うなら、一人にしないで…」


 俺の頬を包むアルファ厶の手に、自分から頬を擦り寄せながら言う。

 アルファ厶は、やっとあの太陽のような笑顔を見せて「当たり前だ。俺が傍にいる」と言って、もう一度キスをした。

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