第7話
泉を出て新しい服に着替え、アルファ厶に抱き抱えられて連れて来られた部屋は、最初に俺が寝かされていた部屋だった。
アルファ厶は「監禁する」と言ったけど、この部屋には大きな窓がある。食事をした部屋と同じように窓の外にはバルコニーもあって、また俺が海へ飛び込もうと思えば飛び込める。
この国の部屋着らしい丈の長い上着の裾を持ち上げながら俺は窓へと近づいた。
ガラスに手を当てて押すけど、ビクとも動かない。鍵が掛かっているのかと窓を見るけど、どこにも鍵らしきものが見当たらない。
俺の後ろに立つアルファ厶に目を向けると、ん?と首を傾げられた。
「アル…、鍵はどこにあるの?」
「鍵などない」
「じゃあなんで開かないんだよ」
「術をかけて開かないようにしてある」
「術…?」
俺は窓を開けるのを諦めて、アルファ厶に向き直って聞いた。
「さっき炎みたいなのを出してたよね?それも術?術って何?」
「この国は炎の国だと言っただろう?国の中で身分の高い者だけが、炎を操る術を使える」
「炎を操る…。じゃあ窓の鍵は?」
「これは、まあ言わば結界みたいなものだ。逃がしたくないものを閉じ込める術だ」
「これも…誰でも出来る訳じゃない?」
窓の傍の椅子に腰掛けたアルファ厶に手を引かれて、アルファ厶の膝の上に座らされる。
アルファムが横向きに座った俺の頭を自分の胸に抱き寄せると、俺の髪を撫でながら話し続ける。
「炎を操るのは身分の高い者だけだが、例えば物を飛ばしたり結界を張ったりは修行すればできる」
「へぇ。誰でもできる?」
「いや、向いてる者とそうじゃない者がいるからな。誰でもできるわけではない。ん?カナは興味があるのか?」
「うん。だってそんな不思議な力が使えるなんてすごい!俺も使ってみたいっ」
「カナの国では使わないのか?」
俺はアルファ厶の胸にペタリとつけていた頬を離して顔を上げ、アルファ厶と目を合わせた。
「そんな力、誰も持ってないよ。だからアルファ厶の炎を操る力とか、すごくかっこいいと思う…」
最後はもごもごと小さく呟いて、俺は再びアルファ厶の胸に顔を伏せた。
だってアルファ厶が、とても甘い目をして俺を見ていたから心臓が掴まれたように苦しくなったんだ。とても恥ずかしくてアルファ厶の顔を見ていられなくなったんだ。
アルファ厶は俺の髪に唇をつけて「そうか」と笑う。
「カナの怪我が完全に治って元気になったら、俺が術を教えてやろう。もしかしたらすごい才能があるかもしれないな」
「ほ、ほんと?約束だよ?」
「ああ約束だ」
少しだけ顔を上げた俺の額にキスをして、アルファ厶が力強く頷いた。
さっきから心臓がドキドキとうるさくて、顔も熱くて恥ずかしい。だけど、とても穏やかな気持ちになって目を閉じようとした時、一番大事なことを聞き忘れたと勢いよく顔を上げた。
「どうした?」
「ねぇ、さっき身分の高い者が炎を使えるって言ってたけど、アルは偉い人なの?」
「言ってなかったか?俺はこの炎の国、エンの王だ」
「………え?ええっっっ!!!おっ、王様っっ?」
俺はこの世界に来てからの一番の大きな声を上げて、暫く口を開けたままアルファ厶を見つめて固まった。
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