第21話 Bランクへの真の試練

CランクからBランクへのランクアップが難しいのには訳がある。


それは、試練の内容がランクアップの依頼を受ける時にしか告げられない為、知っているものはBランク以上の者に限られる。


Bランク以上の者は、その試練の意味を理解し、乗り越えた者である。

冒険者である以上必要であると理解しているので、無闇に下の者には告げないのであった。

知っていたとしても、乗り越えるのはかなりの精神力を強いられる。


そんな中、現在進行形で試練に挑んでいるのが、ジンとメルであった。


ここ3日間、まともに食事も喉を通らず、水分をとるのみであった。


寝る時も片時も離れず二人は寄り添ったまま。


会話もなく、ただ震える身体を寄り添っているのであった。


それに流石に見る見かねたのは、宿屋の女将さんであった。

クリスにジンとメルの様子がおかしいと連絡が入る。

クリスはすぐに情報を集めると原因がわかった。


原因はわかったが、クリスはダンとゲイルに相談しようとしたが、村を去った時に言われた言葉を思いだす。


ーー


ダンの言葉であったが

「クリス、ジンとメルは天才だ。あの子達は冒険者ランクをすぐに上げるだろう。そしてまだ幼さの残るあの子達ではランクを上げる時、必ず立ち塞がる壁がある。俺達は頼らないようにさせてくれ。あの子達が成長するには、自分達の力だけでどうにかする必要がある。俺達もそうだったように。」


ゲイルはそれを聞いて反論する。

「おまえ! 俺達が試練にぶち当たったのは、20歳の時だぞ! あの子達より、5歳も上だ! 誰にも頼らないってのは無理がある。クリス、もしあの子達が悩んでいたら、周りの人に呼び掛けて助けてやってくれないか?」


ーー


クリスは、思い出した言葉の通り、周りを頼る事にした。

ギルドで中が良いというデプトホープに声を掛けようとしたが、依頼の途中だということで会えなかった。

それ以外頼れるのは、シルフィしか思い浮かばなかった。


クリスはシルフィの元へ訪れる。


「シルフィ、すまんのぉ。ジンとメルが悩んでるそうなんや。3日間も飯を食うてへんのやて」

「なんでですの?」

「冒険者の試練で人の命を奪ったらしいわ」

「なるほど、そういうことでしたのね。それでしたら、少しは気持ちもわかりますわ」

「せやったら、少し話をしてくれへんか?」

「えぇ。お話ししてみますわ」


シルフィはジン達の元へ訪れることにした。


コンッコンッ


「ジンくん、メルちゃん、ちょっと話したいことがあるのですが、入ってよろしいですわ?」

「どうぞ」


中に入るとゲッソリ痩せた2人がいた。


(このままでは、この2人が死んでしまいますわ......)


「お話は聞きましたわ。人の命を奪ったそうですわね」

「あぁ。その日から命を奪ったこの手が震えて食欲もわかないんだ」

「メルちゃんもですの?」

コクッと頷くメル。


すると、2人を抱きかかえるシルフィ。

「あなた達は、よくやりましたわ。その命を奪わなければ、別の多くの命が無造作に奪われていたところですわ。その感触を忘れるのは無理だと思いますわ。奪った命は背負っていかなければいけないのですわ。」

「背負う?」

「そう。この世に奪っていい命などないですわ。しかし、その命を奪わなければ多くの人の命が奪われる。そうなった時に、冒険者がその命を奪い背負うことで多くの人を救うのですわ」

「救う......」

「私も戦争に駆り出されて人の命を奪いました。その時、同じように悩みました。私はやってはいけないことをやっているのではないかと。騎士として大義名分の元行っているのは、ただ命を奪う事なのではないかと......」

「その時は、どうしたの?」

「自分の守ったこの王都を見て回りました。自分の救った人々の笑顔を見て思ったのですわ。この笑顔を守る為に私は奪った命を背負わなければ、とそれが騎士だと。そう思いました。冒険者も同じではないでしょうか? 依頼を受ける。その依頼を達成することにより、助かる人がいる。笑顔になる人がいるんですわ」


「俺は、メルを守りたい......。そして、これまで出会ってきた王都の人もみんな守りたい。その為なら、必要悪となり、奪った命は背負う」

「私は、ジンを守りたい。その為なら、私は命を背負う」


二人の顔は少しスッキリしたようであった。


グ~~~~~~ッ


二人は顔を見合わせてクスッと笑う。


「お腹すいたー!」


元気に言うメルに


「下に行ってご飯を作ってもらおう」


そう返事をするジン。


「シルフィ先生。ありがとうございます。やっぱり先生はすごいです!」

「そんなことないですわ。力になれてよかったですわ」


「お姉ちゃんありがとー!」


そう行って下に降りていくメルを追うジン。


「私にできることは、なんでもすると誓ったんですわ。ジン達のおかげで人生がかわったんですもの」


一言呟いて、下に降りていくシルフィーであった。


ーー


その翌日。


少し顔色の良くなった、ジンとメルの元へデプトホープの面々が訪れていた。


「すまなかった!」


頭を下げているザックにその後ろの3人も頭を下げている。


何故に頭を下げているかというと、先日の盗賊討伐後にジン達の気持ちもわからずに声をかけ、態度が悪いと腹を立てたことに対する謝罪であった。


そして、この2日間でザック達も盗賊の討伐依頼を達成していたという。


「俺達は、命を奪うことが恐ろしくてCランクに留まっていたんだ。けど、ジン達をみて、このままじゃいけねぇって、そう思ったんだ!」

「それで討伐依頼を受けてきたの?」

「あぁ! そして、ジン達の気持ちがよーくわかった! だから、謝りに来たんだ!」

「そうなんだ。でも、皆はその......気持ちの面は大丈夫?」

「俺達は、ジン達より5歳も上だ! ジン達をみて、覚悟を決めてたから大丈夫だ!」

「そっか。ザック達は強いなぁ。この前は俺達も悪かったからいいよ。覚悟が足りてなかったんだ」

「そんなことはねぇよ。聞いた話によると、ギルドで残党がいないか、念の為盗賊討伐の確認に行ったらしいんだが、斬り伏せた跡がある盗賊がたくさん居たそうだが、なぜ斬った? 魔法でどうにかできただろう?」

「洞窟が崩れる恐れがあったんだ。だから、覚悟を決めて切った。」

「崩しちまえばよかったじゃねぇか。それならわざわざ斬る必要はない」

「あっ! そっか。思いつかなかった」

「ジン達が、斬らなきゃいけねぇって思ってたから、そんなことが思いつかなかったんだよ。俺はその覚悟がすげえと思った。俺達はその話を聞いて、覚悟が決まったんだ。ありがとう、ジン」

「そんなことないよ」

「ジンよ、ギルドに顔を出してやってくれないか? マリーが酷い顔なんだよ」

「マリーさんが? うん。わかった。すぐに行くよ」


話が終わるとすぐにギルドに行くことにした。


「メル! ギルドに行くよ! マリーさんが悩み事らしい!」

「わかった! 行く!」


何でマリーが悩んでいるかわかっていないジンとメル。


ーー


ギルドに着くとまたワッと沸き立つ


「おい! もう大丈夫なのか!?」

「痩せちゃって、大丈夫なのジンくん!?」

「メルちゃん可愛い顔がやつれてる。大丈夫!?」


みんな心配してくれていたらしい。


「もう大丈夫だよ。ありがとう」

「大丈夫でーす! ありがとう!」


返事をするとマリーの元へ向かう。


「マリーさん、大丈夫ですか!?」


マリーの元へ向かうと同じくらいやつれている顔をしていた。

マリーは自分がジン達に提案した依頼で疲弊している姿に思うところがあったらしく、部屋に閉じこもっていると聞いて、自分も悩んでしまっていた。


「ジンざ~ん! よがっだ~もうだいじょうぶだんでずが~」


泣きながらカウンター越しにしがみついてくるマリー。


「大丈夫ですよ。大丈夫ですから。ねっ。」


この反応でようやくなんでマリーが酷い顔をしていたのか察するジン。


「なんか、皆さんにご心配お掛けしてたみたいで、すみせんでした」


頭を下げるジンとメル。


「無事で何よりです! また、元気になって依頼受けてくださいね! あっ! これは、確認です。Bランクにランクアップしますか? すると、今回のように盗賊の討伐依頼があります!」


「「はい!」」


「では、冒険者カードを貸してください」


はいっとジンとメルが渡すと手続きをするマリー。


「はい! これで、はれて、Bランクです。デプトホープの皆さんは先にBランクになりましたよ!」

「ありがとうございます」

「ありがとー!」


「それで、よければパーティ名を決めて頂きたいなと思いまして」

「パーティ名ですか?」

「はい。指名依頼の時も便利なので」

「わかりました。次に来る時までに決めておきます」

「はい! お待ちしております!」


ギルドを後にする2人。


宿屋に戻るとザック達が昼食を食べていた。


「ねぇ、ザック達はパーティ名どうやって決めたの?」

「俺達か? 俺達はデプト村の出身なんだ。それで、村の希望になりたいという思いでデプトホープにした!」

「へぇ、ちゃんとした意味があるんだねぇ」

「まぁ、意味がない言葉のパーティもあるがな」

「そっかぁ。どうしようかなぁ」

「ジンとメルは俺は、魔法だけなら最強だと思うんだよ! それを名前に入れたらどうだ?」

「うーん……魔法が……最強の……2人」


しばらく考えていたジンは


「はっ! マジェスツにしよう!」

「おぉ! 全部入れたんだな!」

「そう! メル!」


メルを呼ぶジン。


「メル! パーティー名だけど、マジェスツってどうだ!?」

「カッコイイじゃない!」

「よし! じゃあ、決定な!」


こうして、マジェスツは誕生したのである。

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