第9話 エピローグ

成人の儀が終わって3日後


宣言していた旅立ちの日になった。

あれからメルとも話し合い、一緒にパーティを組んで活動することになった。


「ジーンー! 準備できたぁ?」

「あぁ。今行く!」


外に出るとメルが待っていた。

冒険者としてのしっかりした装備をしている。


メルもジンも両親が元A級冒険者だけあって、装備が充実しているのだ。

ジンは細いため、ダンの防具はそのままは付けれなかった。

だが、自分で魔法陣を刻み、防具の素材を使って作り直しA級冒険者の防具以上の性能を発揮している。

もちろん、メルの分は更に魔法陣で強固な防御力を誇っている。

ドラゴンが相手だとしても通用するだろう性能である。


「ジン。成人おめでとさん! 一緒に旅に出れてホンマ嬉しいわぁ!」

「クリスさん、ありがとうございます! 馬車があるだけで、大分違いますよ!」

「いやいや、いいんよ! ジンくんのお陰でワイがどれだけ儲けさせてもらっとるか。頭が上がらんくらいや!」

「そんな事ありませんよ! クリスさんだから捌けるんですって」

「そう言われると、否定はせえへんけどやな」


クリスと話しているとメルもやってきた。


「私もお願いしますねー!」

「あいあい! こんな美少女乗せていけるなんて幸せなことはないで! 仲良く行こな!」

「行こな行こなー!」


クリスもメルが一緒で嬉しそうである。

メルもクリスのことは昔から知っているので、信用しているようである。

ダンとユイが寄ってきた。


「ジン、俺は、お前が世界を背負って立つ男だと思っている。だが、無理はするな。何時でも帰ってきていいんだからな!」


「ジン。メルちゃんを泣かしたら許さないわよ?私の娘になる予定なんだから!」


「えっ!?それどういう……」

「ユイさん!」

「あははー! このぐらいしないとわかんないのよ。このおバカさんには!」


どういう事か追求しようとしたらアルとゲイルがやってきた。


「ユイ、いつでも帰ってきていいんだからな!」

「ユイ! ジンくんを離しちゃダメよ! 離したらすぐに違う女に取られるんだからね! わかったかい!」


「はい!」

「いやいや、アルさん!」

「ジンは黙る!」

「はぃ。」

「いいね? まず胃袋を掴むんだよ? その為に小さい頃から料理させてきたんだからね」

「大丈夫だよ! 絶対掴める!」


ガッツポーズをしながら言うメル。

全部ジンにだだ漏れなんだが、それでもジンはメルが自分を好きだとは思っておらず、皆がジンとメルを無理矢理くっつけようとしていると、そう思っているようだ。


「ジンよ。成人の儀の時に言ったこと、忘れんじゃねぇぞ?」

「はい……ありがとうございます。必ず、生きて帰ってきます」

「ふんっ。分かってりゃいい!」


去っていくゲイルを見てアルがやってきた。


「ごめんよ! ジン! あれは照れ隠しだから!」

「うん。分かってるよ。アルさん。有難いことだよ。あんなに気にかけてもらえて」

「当たり前じゃないのさ! あんたも私達の子だよ! わかったら、辛気臭い顔してないで、元気に行ってきな!」

「はい!」


馬車に乗り込むと、クリスが御者を勤める。


「行きますよ? いいですか!?」

「「はい!」」


「「行ってきます!!」」


「「行ってらっしゃい!!」」


「いつでも帰ってこいよー!」

「メルちゃんだけでも帰ってこいよー」 バキッ

「ジンくん行かないで~!」

「メルちゃん戻って来てぇ」

「「メルちゃ~ん」」


メルがすごい人気なのはジンにも分かる。

愛嬌が誰にでもいいのだ。

皆が好きになってしまうくらい笑顔が輝いていて天使のように可愛い笑顔なのだ。

わかる。わかるけど、殴られたやつは大丈夫だろうか。


「ふふふ。皆面白いね!」

「メルは人気者だな!」

「そんな事ないよ。ジンは人気者というより英雄に近いじゃない!」

「そんな事ないよ!」

「そんな事ありますー!」


そんな幸せなやり取りが出来ることを喜ばしく思っているジンであった。


(ホントに、メルが一緒に旅に出てくれてよかった。すげぇ嬉しいなぁ。)


内心とても喜んでいるジンであった。


「ジン! 魔物の退治は頼んます!」

「うん! 今のうちに展開しておくね!」


ブンッ


お得意の索敵と攻撃魔法を組み合わせた立体的な魔法陣を展開させる。


シュッ シュシュッ


攻撃しているようである。

この魔法陣は直接魔力を流してないと運用が出来ない為、常に魔力を消費している。

しかし、いつまで経っても魔力が無くならない。


それはそうである。装備に自然魔力を吸収して魔力を回復できるよう魔法陣を組み込んであるのだ。


「私も、それ出来るようになりたいなぁ」


ふっと、メルが暇そうに声を上げる。


「ずっと展開してるから、魔法陣ちゃんと覚えればメルなら発動出来るんじゃない?」

「んー。その立体の魔法陣は難しいんだよねぇ。一個一個の理論は分かってるんだけど、合わせるとなるとどういう風に繋げていいかわかんないんだよねぇ」

「それがわからなかったのか? 言ってくれればおいのに! それは、結局これが多角形にしか出来ないってことは、ここの頂点とここの頂点をむすんで……」


暫くの間、魔法陣を見ながら抗議が1時間くらい続いた。

しかし、それを喜んで聞いているメルも凄いが、その抗議している間も、周りの敵を殲滅しているジンはやはり凄いのであった。


村からかなり離れたところ、段々と暗くなってきた所で、開けた場所に出た。


馬車は止まる。


「今日はここで野営しよう!」


「「はい!」」


「俺ちょっと食料狩ってきます!」

「あぁ! 頼んます!」


ブンッ


索敵の魔法を発動し、獲物を追う。


目視できるところまで来た。


「いた! エアバレット!」


バンッ  ドサッ


ホーンラビットをしとめたジン。


「もう少し欲しいな」


索敵しながら獲物を探し、ホーンラビット一匹とホワイトラムを一頭捕らえて持ち帰る。


「ただいま、これをお願い」

「待ってました! 私が腕に寄りをかけるよー!」


そう気合を入れるとメルは料理を作り出した。


――


出来上がると、持ち運び用の器のもる。


「美味しそうやないか! めっちゃいい匂いすんでぇ!」

「ふふっ。ありがと。ジン、食べてみて!」

「あぁ。頂きます!」


パクッと食べると


「う、うめぇ~!! 母さんと同じくらいうめぇ! メル、料理できたんだな! すげぇや!」


「よしっ!」


小さい声でガッツポーズをするメル。

ジンは単純なので、これでもう胃袋は掴めたことは確実である。


「メルちゃん、料理上手やなぁ! いいお嫁さんになるでぇ!」

「うん! ありがと!」


上手く流すメルなのであった。

クリスはメルがジンに好意を寄せていることは知っているが、あわよくば自分を売り込もうとして来る当たり。

油断出来ないやつである。


食べ終えると、携帯用の寝袋に寝ながら空を見る。


「はぁ。すげぇ綺麗な星空だなぁ」

「ははは! 凄い綺麗だね!」

「俺さ、これからもっともっと強くなるからな!

Aランクのパーティになることが、当面の目標で、最終目標はSランク冒険者になって、魔王を倒すことだ!」

「うん。私が支えるね!」

「ありがとう。メル」


そんな2人のキラキラした会話を離れたところで聞いていたクリスは、段々と悲しい気持ちになってきた。

俺だって良い人見つけたいんや。


そう思いながら夜は更けていく。


こうして、王都への第一歩を踏み出したのだった。

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