第8話 成人の儀

この日は朝から村人が大忙しであった。


何故なら今日はジンと、メルの成人の儀が執り行われるからだ。

この村で、ジンとメルに感謝していない者などいない。

皆が一様にお祝いするために駆け巡っている。


「ジン! いよいよ今日は成人の儀だな!」

「うん! 心待ちにしてたんだ!」


その言葉を聞いて寂しそうな顔になるダン。


「ジンもしっかり支度しろよ! 皆、ジンの晴れ姿、楽しみにしてるんだからな! ガッハッハッ!」

「もう、分かってるよぉ」


そう言いながら用意された晴れ着を着るジン。

その晴れ着は代々村で引き継がれてきた大事な晴れ着であった。


午前に準備して、昼からが成人の儀になるのである。


「メルの晴れ姿、綺麗だろうなぁ。それも楽しみだ」


ジンは密かにメルに思いを寄せ始めていた。


(旅に誘ったら一緒に来てくれるだろうか。一緒に冒険者なんてできたなら最高なんだが......)


やはりジンは成人の儀が終わったら、旅に出ようとしていたのである。

それを悟っているダンは流石と言えよう。


「ジンー! 準備できたぁ? 一緒に行こう!」


外からメルの声が聞こえる。

一緒に行こうと誘いに来てくれたのだ。


「できたよぉー! 今行く!」


部屋を出て、玄関へと向かう。

玄関を開けるとそこには、いつもより数段綺麗になっているメルがいた。


「......メルか?」

「メルか? ってそうに決まってるでしょ? 変なジーン! 早くいこう!」


(思わず見惚れちまった。中身がおっさんの俺が女の子に翻弄されるとは)


「ねえジン! 行こうってば! はーやーくー!」

「わかったよ! 今行くって」


メルの後を追いかけるジンはメルの後ろ姿にも惚けながら目が離せないでいた。

村人たちが待っている会場に行くと一気に歓声があがった。


「メルちゃんかわいいわねぇ!」

「メル! 似合ってるじゃないか!」


口々に皆メルを見て賞賛している。

それはそうだろう。

元々綺麗な美少女であるメルが着飾っているのである。


「ジン! 似合ってるじゃないか! いい男だぞ! ガッハッハッハッ!」

「ありがとう。父さん」

「似合ってるわよぉ。ジン。メルちゃんとお似合いね」

「ありがとう。母さん。でもメルとは釣り合わないよ」

「あら? そんなこと言うようになったのねぇ。でも、大丈夫。メルちゃんにも負けてないわ。ジンの晴れ姿」


ユイはそう言って会場へ入るように促す。

すると、ピタッと静かになった。


「似合うよ。ジン。」

「こんなに大きくなって......あんなにちっちゃかったのに......グスッ」

「私のお婿さんにならない?」


皆、口々に賞賛したり、泣いたり誘ったりしてくる。

皆、薄々気付いているのだ。

この成人の儀が終わったら、ジンは旅立つのではないかと。

その為に、感極まってなく者が続出した。


「では、これより成人の儀を行う。成人になる者はこちらに」

「「はい」」


二人は前に行き、村長の前に立つ。


「二人には成人になってからの目標を掲げて貰う!」

「「はい!」」

「まずは、メルからじゃ」


「はーい!」

「私の成人になってからの目標。それは!」


「「それは?」」


村民みんながハモる。


「冒険者になって、悪い奴をバッタバッタと倒すことでーす!」


「なに!?」

「ていうことはメルは村を出るのか?」


口々にメルの言ったことに対して疑問を話している。


「静粛に! では、次、ジン!」


「はい!」

「俺の目標は、戦争と魔物を無くす!」


「二人とも良い目標じゃ。その目標を掲げたということは、二人とも村を出るのじゃな?」

「はい。成人の儀が終わったら、旅立てるよう準備してました」

「私もジンに付いていこうと思いまーす!」


「なに!? 聞いてないぞ!?」

「ちょっとあんた! みっともないよ!」


ゲイルが慌てて抗議の声を上げるが、アルによりすぐに収められる。


「この儀は成人になるお主達を盛大に祝う会じゃ」

「これより、お堅いのはなしで飲んで食べて騒ぐのじゃ」


ワァァァァ


村人達は飲んでは食べの大宴会である。


「ジン! 私達も行こう?」

「おう!」


メルから差し伸べられた手を掴み。手を繋いで宴会場に行く。


「おいおい! メルとジンは仲がいいなぁ」

「メルちゃん、ジンくんを離しちゃダメよ?」


口々にお節介を焼いてくる村人達。

2人がいなくなるのが確実となり今だけだからと絡んで話かけている。


――


落ち着いた頃


隣にゲイルがやってきた。

「よう! ジン! 食ってるか!?」

「うん! 食べてたよ。ゲイルさん」

「ジン。いつ旅立つんだ?」

「3日後には出ようと思う」

「そうか……ジン。メルを……任せる。頼んだぞ」


横で頭を下げるゲイルにジンは戸惑った。

前世も含めて女性関係が皆無に等しかった経験しかないのでなんと答えていいか考えてしまう。


しかし、ここでしっかりしなければ、メルと一緒にいる資格はない。

そう思い、決意を見せる。


「ゲイルさん。俺はまだ未熟者でこれから失敗したり、メルにも迷惑をかけたりするかも知れません。それで、メルが愛想を尽かして俺から離れる事もあるかもしれません。でも、これだけは誓います。」


「俺が死んだとしても、メルだけは必ず生きてゲイルさんの元に帰します」


決意を語るジンであったが


「馬鹿野郎!!」


ゴヅンッ


頭を殴られ、理解が追いつかないジン。

何か悪いことを言っただろうかとさっき言ったことを反芻するが、殴られるようなことは言ってないはずだった。


「お前もしっかり帰ってこい!! お前も俺の息子同然だ! わかったか!?」


ジンはゲイルの思いを知り、込み上げてくるものを必死に抑える。


「……あ゛い」


必死になって発した声はダミ声になってしまったが、ゲイルは思いが届いた事に満足し。

ガシガシと頭を乱暴に撫でると席を立った。


背を向けた途端、ゲイルも涙が溢れるのであった。


――


そんなやり取りをしている頃


メルはユイと話していた。


「メルちゃん、ジンのことよろしく頼むわね」

「うん! 私が逆に面倒見られそうだけど……」

「そんな事ないわよ。ジンは常識が元々なくて、シルフィちゃんに叩き込んでもらったけど、偶に常識を外れたことをするわ。それが心配なのよ」

「ユイさん、そんなに心配することはないと思いますよ?」

「どうしてそう思うの?」

「だって、シルフィさんに教えて貰ってからジンが常識外れのことをした時は、人の命が掛かっている時だったから……」

「!? 確かにそうかも知れないわね」

「私は、偶にジンが考えてることが先を行き過ぎてて怖くなることがあるの。でも、それは何時でも私達のことを考えてのこと」

「ユイさん。私が娘になってもいい?」

「ふふふ。そんな風に思ってくれていたなんて嬉しいわ。けど、ジンが難しいわね。あの子はメルちゃんが可愛すぎて自分はメルちゃんと釣り合わないと、そう思ってるから」

「そうですか……もっとアピールしないと駄目なんですね」

「そうよぉ。ガンガンいっちゃいなさい!」

「ふふふ。はい!」


――


そんな会話がされているとは知らずこちらは

ジンの元から帰ってきたゲイルとダンが飲んでいる。


「おめえのところのジンがおれのユイに手を出したんだぞ!」

「そうでは無いだろう! 互いに惹かれあっているではないか!」

「うっせー! 一発殴らせろ!」

「ジンのためなら何発でも殴られてやろうではないか!」

「言ったなこのやろう! そこ動くなよ」


立ち上がるゲイルにゲンコツが飛ぶ


ゴヅンッ


「いってぇ」


頭を抑えて蹲るゲイル。


「いい加減にしな! めでたい時に何やってんだい! あんたわ!」

「うっ。すまねぇ」

「飲み過ぎだよ! ほれ、水でも飲みな!」


水を飲んだゲイルは少し酔いが覚めたようで落ち着き始めた。


「ふぅ。すまなかったダン。俺も急なことで気が立っちまった」

「いや、俺こそ熱くなってしまった」

「実はな、さっきジンと話してきた」

「そうなのか?」

「あぁ、アイツは自分の命が無くなってもメルを返すと誓ってくれたんだが……」

「おい! それは……」

「分かってる! だから殴って言ってやったぜ! お前だって俺の息子も同然なんだからお前もちゃんと帰ってこいってな!」

「ふっ。ゲイルらしいな。ありがとよ」

「ふん。ダンの子だからな」


しんみりとした終わりになってしまったが、結局みんなメルとジンを思ってるだけなのだ。


盛大に開かれた成人の儀はそれぞれの思いで終えるのであった。

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