第7話 魔物活性化

今年でジンは15歳になった。


この世界では成人をする年である。

この年に急に魔物が活発になったのである。

この村の男衆には今年で何度目になるか分からないくらいの討伐依頼が、村長からされていた。


勿論装備はこの何年かでかなり充実している。

切れ味のいい魔法剣に加えて、結界の張れる盾を作成し、即座に回復できる魔法の水も開発していた。


「これだけの装備があれば、魔物にも遅れをとることはない! 行くぞ!」


今回はサイクロプスという巨人がすぐそこまで迫っているということで、元Aランク冒険者であるダンとゲイルが中心となって討伐隊が組まれていた。


「待って! 俺も行かせて!」


そこにやってきたのは、自分の作成した装備に身を包んだジンであった。


「ジン! お前も行きたいのか!? しかし、母さんには言ったのか!?」

「あぁ! 母さんは説得してきた!」

「それならいいぞ! 共に行こう!」


村の男衆との初の討伐依頼に向かう。

皆当たりを警戒しながら進んでいるが、ジンは永久的に使える魔法陣で半径1キロ程の索敵を自動で行っていた。


「みんな! そんなに警戒しなくて大丈夫だよ! あそこの丘の辺りまでの索敵は俺がしてるから!」

「ホントにか!? そりゃ助かるわ! 頼んだぞ!」


みんなリラックスして話しながら進み始めた。


バシュ バシュ


「ジンよ! その魔法陣からなにやら魔法が出ているようだが、大丈夫なのか?」

「これ? 大丈夫だ。索敵してる魔法陣と連結させて、索敵に引っかかった敵を魔法で自動で倒してるんだ。だから、目的地までは問題なく進んでいけると思うよ」


冷静に言うジンにダンはガッハッハッと笑いながら、流石、うちの息子は天才だといいながら奥へ進んでいく。

相変わらずの親バカぶりである。


――


予定の場所に到着した。

なんと半日近くも早く到着したようである。


「早くついたから休憩とする!」


ダンの指示に従い、各自が休憩をする。

でも、みんなそんなに疲れていないようで、ピンピンしている。


「なぁ、全然疲れてないよな?」

「そりゃそうだろう! ジンがいるんだぞ? ジンがいて、俺たちに何かあることなんて無いだろう?」

「そりゃそうだ! ハッハッハッ!」


みんなの認識が親バカ気質になっているのは普段のダンとジンを見ているのだからしょうがないのだ。


少し休むと


「よし! 出発するぞ!」


ダンの号令がかかる。

進み始める男衆であったが、すぐに目的のサイクロプスを見つけた。


「アイツだな。村まで随分近づいていたな!」

「あぁ、早めに来てよかった!」

「ねぇ、俺が仕留めていいか? 魔法を試したいんだよ! 父さん、良いだろう!?」

「んっ!? ……しょうがないな。一発だけだぞ?」

「ありがとう! 父さん!」


そう言うとサイクロプスが、目視できる場所を陣取りタイミングを見計らう。

サイクロプスが横を向いてニヤァっと笑った。

手を伸ばしている。


「今だ! タケミカヅチ!」


ブンッ


サイクロプスの頭上に巨大な魔法陣が現れる。

そして、村の男衆はこの出来事を忘れないであろう。こんなに太いイカズチを見ることがあるであろうが。


バリッバリ チュドォォォォォォォォンッ


サイクロプスに向かい極太のイナズマが降り注いだ。


ドワァァァァ


衝撃波が待機していた男衆を襲う。


「はぁ。ジンってなんか、よくわかんないけど、凄いしか言えねぇわ!」

「そりゃわかるぜ!」

「そうだな! すげぇ! これしか言えねぇ!」


ドシィィィン


うつ伏せに倒れるサイクロプスは灰になっていく。


「父さんが活躍する場が全くないな!」


「討伐、終わったね」

「そうだな! 予想以上の出来だ! こんなに早く終わるとは思わなかったからな!」

「ん? 父さん。村が魔物に襲われそうだ。また、ダークウルフに囲まれているらしい」

「何!? 早く戻らんとな!」

「この人数となると、ちょっと遅いけど、俺が連れていくよ! みんなを1箇所に集めて!」


ジンが指示をするとみな動き出し、かたまり出した。

ジンが手を出すと大きい魔法陣が、絨毯のようにしかれる。


「みんな! この魔法陣にのって! 急いで!」


するとみんな駆け足で、魔法陣へ乗る。

全員乗ると結界で囲わせる。

そして、魔法陣が浮き、凄い勢いで村へ飛び始めた。


「ジン! なんで村が襲われてることがわかった?」

「メルに連絡用の魔法陣を持たせてたんだ」

「そんな魔法があるのか?」

「うん! 便利だよ?」


話しているともう村が見えてきた。

周りを囲われているため、残っていた村の人達は村の真ん中へ集合していた。


「はい! さぁ、着いたよ! 早くダークウルフを倒そう!」


「「おう!」」


ブンッ


索敵の魔法陣とホーリーアローの魔法陣を繋ぐ。

立体的な魔法陣となり、ダークウルフの殲滅を開始する。


ヒュンヒュン ヒュン ヒュンヒュンヒュン


魔法陣が敵のいる方へ自動的に攻撃を開始し始める。球体に近い多角形の魔法陣から次々にホーリーアローが射出される。


しばらく射出される魔法陣を見ているとピタッと魔法の射出が終わり、パァーっと消えていく魔法陣。


「よしっ! これで殲滅完了!」


ジンがそう宣言するとワァァっと声が上がった。


「ジン! よく戻ってきてくれたのぉ。この村が襲われていることがよくわかったのぉ」


村長さんが近づいて声を掛けてきた。


「うん! メルから連絡を貰ったんだ!」

「なんと、メルから? そんな魔法があるのかい?」

「うん! 魔法っていうより魔道具だけど!」

「そうかいそうかい」


村長はメルのところに行くと声をかけた


「メルや。ジンに教えてくれてありがとうのぉ」

「ううん! いいんです。何かあったら連絡するようにと、ジンから言われてましたので」

「いやいや、今回も若いもんに助けられたわい」


村の集落編皆から口々にお礼を言われながら帰路に着いたジンとメルであった。


――


その夜


ダンとゲイルは村長に呼ばれて村長宅に来ていた。

ダンが話を切り出した。


「村長、俺たちを呼んだのは何も宴会をしようって訳ではあるまい? 魔物のことか?」

「そうじゃ、最近の魔物たちは活発になりつつある。何か対策を立てねばならん」

「そんなのジンにたのみゃあ良いじゃねぇか!なぁ、ダン?」

「そうだな。これ以上頼るのも情けないが、ジンに何か対策を立ててもらうか」


苦笑いするダンにゲイルがふっと思ったことを聞く。


「なぁ、ジンはもしかしたら旅立つんじゃないか?」

「うっ。それは俺も頭の隅にはずっとあったのだ。ジンはこの村で収まるような器ではないと思っている。世界で活躍する男だ」

「そうじゃのう。旅の資金には申し分あるまい?」

「それはそうですね。剣を売った金がもういくらになったのか分からないくらいあると思います。」

「ジンは世界を背負って立つ男にきっとなるのじゃ。大人がその足枷になってはいかんよなぁ」

「村長の言う通りですね。好きにやらせましょう」


この会議は遅くまで開かれた。


――


次の日


「なぁジン。もうすぐ成人の儀があるな? その前に魔物の対策を何かしたいんだが、案があれば教えて欲しい」

「そうだなぁ。村に魔物が入ってこないように結界を張ればいいかもしれない。でも、人は出入り出来るようにしなきゃいけないから……ブツブツ」


考えがまとまるのを待っているダン。こういう時はジンに話しかけても思考の海に入っているので全く聞いていないのだ。


「ねぇ父さん。魔物特有の物って何かないかな?」

「あるぞ。いつも捨てているが魔物には魔石が体内に入っている。冒険者になるとそれが納品の品となったりするんだ」

「へぇ! そうなんだ! その魔石あるかな? それ使えばどうにかなりそうなんだけど?」

「この前討伐したやつのがまだ、残ってたはずだ」

「それ頂戴!」

「あぁ。わかった」


――


相談してから3日たったある日


「父さん! これを村の周りに配置するのを手伝って頂戴!」

「おっ! 遂に魔道具が出来たのか?」

「うん。どっかに行ってもダメだから土に埋めて使おうと思うんだ!そしたら何処にも行かないでしょ?」

「それは、良い考えだ」


ジンに魔道具を渡されたダンは一緒に村の周りを歩き出した。


「ここに埋めてちょうだい!」

「ジン……おれを穴掘るために呼んだな?」

「う、うん……体動かすの苦手だから」

「全く……しょうがないやつだな」


そう言いながらも指示に従い、魔道具を埋めていく。朝からやっていた作業が終わる頃にはもう昼飯の時間になる所だった。


「ふぅ。これで終わりか?」

「そうだね! ありがとう父さん!」

「これぐらい、なんてことは無いさ!ガッハッハッ!」

「そしたら、配置した魔道具を魔力で繋げる」


そう言うと魔道具が光だし、村の周りをグルっと光が囲む形になった。


その時


ブゥーーーン


大きな魔法陣が浮かび上がって村を薄い膜のようなものが覆っていくのが見えた。


「こ、これが結界か……」

「うん! そうだよ! 父さん通ってみて!」

「お、おう」


恐る恐る手を差し伸べていく。

膜がすぐそこである。


「ぐっ」


恐がるダンに笑いながらジンが言った。


「父さん! 大丈夫だよ!」


その声に後押しされ手を勢いよく前に出した。


スッ


抵抗なく外に出る。

外に入ったり中に入ったりしている。


「ホントにこれで魔物だけ入ってこないのか?」

「まぁ、そうなるよね」


そう言うと外に向かって歩き出した。


「あっちに魔物が一匹いるから、簡易的な結界で試してみようよ!」


魔物が目視できる位置に来た。

すると、魔道具をジンとダンを囲む形で設置する。そして魔力を流すとブンッと、魔法陣が浮かび上がり、膜ができた。


結界の外に出て魔物に石を投げる


ゴツッ


『ガァァ』


叫び声を上げながら駆けてくる魔物。

結界の中にスっと入るジン。


爪が振り下ろされる。


バチッ


『キャウン』


結界から拒絶されるように弾かれ、魔物は去っていった。


「あの魔物はあのままでいいのか?」

「村に同じのが張ってあればもう来ないと思うよ」

「そういうもんか。ホントに魔物だけ弾くんだな!あの結界は」

「うん! 明かりと同じで永久的に作動するやつだから大丈夫だよ!」

「それなら、安心だな!」


この頃のダンはちょっとやそっとの事では驚かなくなっていた。それはそうだろう。一々驚いていてはキリがないのだ。


村に戻ると村人が集まって話をしていた。


「これは、ジンがやったのかい?」

「うん! そうだよ! 村長!」

「そうか。頼んでいたものが出来たんだな」


どこか寂しそうな顔をしている村長。この時は、何故そんな顔をしていふのかが分からなかった。


明日には成人の儀が執り行われる。


世界一安全な村で。

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