第6話 逆家庭教師

「ここが矢にする部分の模様なんだ」

「そうなんですの。こっちのは何ですの?」

「こっちは魔法陣から射出される方向性を示してるんだよ」

「へぇ。ここでそんなの指定してるんですわね」

「そうなんだ。それで、ここがそれを結び付けてる大事な部分なんだ」

「ここの模様がそうなんですのねぇ」


最近はこのような光景がみられるようになっていた。

そして、シルフィからの常識の授業も順調であった。


「この世界情勢についてわ、一昨日やりましたわね。覚えてます?」

「はい。聖ルドルフ国は南のドルゴ連合国と人種の違いで揉めている。北のフューリア国とヨーグ国が国境付近の鉱山をどっちが所有するかで揉めていて、その真ん中のアリア王国は各国からチマチマ小競り合いをさせられていると、言うことですよね?」

「そうですわ。流石ですわね」

「ありがとうございます。教え方が良いんだよ!」

「そんなことないですわ。覚えが良すぎてもう教えることがあまりないですわ」

「いや、でもホントにわかりやすおですよ?」

「それなら良かったですわ。でも、もう教えきった感があるですわ」

「そうですか。なら、あとは俺が魔法陣について教えますね。まだ、覚えることありますもんね?」

「そうですわ。あり過ぎて覚えきれないですわ」


これでは、どっちが家庭教師か分からないところである。

しかし、この所シルフィの高飛車で高慢なところは影を潜めていた。

ジンの凄さ、本当の天才の才能が分かって上には上がいることを学んだようである。


――


この日はメルも一緒にジンから授業を受けている。

実践的な練習をしていた。


「まず、魔法陣を頭の中に思い浮かべる。これはもう出来ますね?」


「えぇ。出来ますわ」

「うん。できるよ!」


「では、後はその魔法陣のイメージをそのまま魔力で正面に写す感じです。」


「うぅ。難しいですわ。むむむむ」

「はぁ~! 『ブンッ』出来た! ジン!出来たよ!」

「メル、よく出来たね!」

「なんで、出来るんですのぉ!? 全然出来ないですわ!」

「まだ、イメージが固まってないのかもね」


ジンは教える方法を変えることにした。

地面を指さして言う。


「このに書いてみてご覧?」

「地面にですの?」

「うん。この木の棒で書いてみて!」

「はいですわ」


木の棒を受け取り書き出すシルフィ。

一生懸命魔法陣を思い出し、書き出していると。


「ねぇ、お姉ちゃん、ここが間違ってるよ?」

「えっ!? どこですの?」

「ここだよ。ここがね、こういう風に接続しないと上手く魔力が伝達されないんだよ?」

「そうなんですの? 分かりましたわ」


そう言って書き直すシルフィ。


ブンッ


「ほらっ! そこ直したら出たでしょ?」

「ほ、ホントですわ! なんで分かったんですの?」

「私はもう二歳くらいからジンに魔法陣のノウハウを叩き込まれたからね!」

「ジンくん、そうなんですの?」

「うん。そうだよ! メルは理解するよ早いからね!」

「この村なんなんですの……」


グチをこぼしながらジンから出来るだけ吸収しようとするシルフィは、真剣に学ぶ。


――


もうすぐ帰らなければ行けない時が迫ってきたシルフィはジンに教えて貰っている成果が出せずに焦っていた。


「ジンくん。ちょっといいかしら?」

「どうしたの? シルフィ先生?」

「先生というのもちょっとおかしい気がするんですわ。私の先生はジンくんですわよ?」

「うん。でも、俺の先生でもあるわけだから、間違いではないよ?」

「まあ、それは良いですわ。土に書くと上手くいくんですわ。でも、頭に思い浮かべてる魔法陣が出ないんですわ!」

「ふむ。じゃあ、どういうイメージで外に出そうとしてる?」

「え? えぇと、地面に書くのと同じように魔力で書く感じですわ?」


その説明で何が悪いのかすぐに分かったジンが、なにやら準備を始めている。

部屋の中を暗くし、明かり用の石を持っている。


「今からやることを見ていてね!」


布で一方向だけに光が照らすようにする。

そして、その前に手で犬の影絵を作ってみせた。


「な! なんなのですわ!? またなんか新しい魔法ですわ!?」

「ううん。違うよ! やってみて!」

「はいですわ」


手で同じように形を作ってみるシルフィ。


「あっ! こういうイメージでやればいいってことですわ?」

「そう! そういうこと!」

「早速やってみるですわ!」


外に駆けだすシルフィ。

外で手を出し、魔法陣をイメージし、そのイメージをそのまま影絵のように映し出すイメージをする。


ブンッ


ドシュッ  ドガァァァン


岩が粉々に砕け散る。


「できた! 出来たですわ!」

「良かったですね! シルフィ先生!」

「えぇ、ジンくんのお陰ですわ!」


すると、メルも家から出てきた。


「もしかして、今のってお姉ちゃんがやったの!?」

「そうですわ! 出来ましたのよ!」

「よかったね! お姉ちゃん! おめでとう!」


メルは両手を繋いでブンブン上下させながらクルクル回り出した。


微笑ましく見ていたジンは、先生の成長を喜んでいた。


――


そんな日々も過ぎ、遂に帰る日になってしまった。

クリスがまた、迎えに来ていた。


「ジンくん、本当にありがとうですわ。私はここに来てすごく成長出来ましたわ!」

「よかったよ! 王都に行っても練習した方がいいよ! 魔法陣の意味は色々まだ勉強した方がいいと思うけどね」

「そうですわね。まだまだ、勉強が必要ですわ。でも、学校に行く必要性が感じられないですわ!」

「まぁ、でもやれる事は沢山あると思いますよ? 折角お父さんが学校に入れてくれたんですから」

「なんか、おじさんみたいな事をいいますわね。まあ、でもその通りですわね。頑張りますわ」

「じゃあ! 元気でねぇ!」

「えぇ! また来ますわね!」


その光景を見ていたクリスはニコニコしながら村長と話をしていた。


「村長、なんかジンくんがシルフィと仲良くなってるやないの! しかも、なんや雰囲気が柔らかくなっとる! やっぱり、連れてきて正解やったな!」

「ふぉっ。ふぉっ。そのようじゃのう。 ジンくんが上手くやってくれたようじゃよ」


そう話しているとシルフィがやってきた。


「クリスさん、お願いしますわ」

「はいよ! では、行きましょかね」


すると、ユイが走ってきて呼び止めた。


「シルフィ! これを忘れてるわよ!」

「な、なんでですの!? 貰えないですわ!」

「何言ってんの! ジンにはしっかり常識が叩き込まれたわ! 貰ってちょうだい!」


シルフィが、無理矢理渡されたのは、家庭教師をした分のお給金だった。

住み込みでみっちり家庭教師してもらった為に、金貨を5枚袋に入れて渡したのだった。


「わたくし! 絶対、凄い魔法士になりますわ!」

「楽しみにしてるわ!」


シルフィを乗せた馬車は王都へ向けて去っていく。


――


そのシルフィは、王都に着くなり、父親に呼ばれていた。


「久し振りだな! シルフィ。どうだった? あのクリスが素晴らしい剣を持ってきた村は?」

「お父様は知っていたんですの? あんなに凄いところだということを」

「そうか。そんなに凄かったのか! クリスに頼んで正解だったな!」

「知らなかったんですの!? では、教えませんわ!」

「おい! 教えてくれよ! どう凄かったんだ!?」

「知りませんわ! 私は疲れているのですわ。お休みなさいませ!」


そう言うと出ていってしまうシルフィであった。

ガルはこの事をキッカケに、絶対件の村に行ってみようと画策するのであった。


こうしてシルフィは、長期休みの間に急激な成長を遂げ、周りを驚かせた。

なにせ、王都で片手で数えれる数しかいない無詠唱魔法士となったのだから、これからの出世具合いも想像できるだろう。

シルフィに再び会うことができるのは、しばらく後の話になるのである。

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